北の廃砦(後編)黒ギャルの覚醒
「……おい!!」
「やってくれたなツギハギ!跡形もなく解体してやんよ」
『何だってー?よく聞こえんなー?非力で魔力ゼロの人間風情が』
ピッピピ!
スマホから電子音が鳴り、ノアが最後に話し出す。
《涼さん、チャンス到来です。貴方とエリスのあの技で勝率100%です》
と謎の勝率を言い残しノアは落ちた。
(啖呵切ったはいいものの、状況は悪くなる一方だが?)
「兄貴―――!!」
(!?)
視線の先――土煙が晴れた場所に、褐色の肌を持つ見知らぬ女の子と、エリスの面影を持つ女性が現れた。
サスケの今際の口笛は、エリスへの惜別の調べのみならず、従魔【シャドウ・ファルコン】への人質解放指令だったのだ!
『なっ、何だと~!?』
女の子が絶命寸前のサスケの姿を見つけて驚愕する。
「……ざっけんな。 ウチの……たった一人の、大事な兄貴を……ッ!!」
悲しみと怒りでリミッターが外れた瞬間――
その子の瞳が、血のような緋色に染まった。
涙と嗚咽が混じる絶叫に呼応するように、周囲の大気がドス黒く歪み、魔獣達に向けて致命の呪文が紡がれる。
「逆巻け! 深淵の魔滓!
狂い咲け! 漆黒の雷!
この涙も、この怒りも、全て糧にしてやるっ!
天を呪い、地を喰らい、
世界を滅びへ叩き込む、無慈悲なる冥界の焔よ!
奴らを肉片一つ残さず灰塵と化せ!!
【冥界黒炎・緋刻】―――!!」
凄まじい威力の黒い炎と稲妻が同時に魔獣達に襲い掛かった。
『ギャアアアアアッ!!』
『ガァァァァァッ!!』
『――ァ、ァ……ッ!』
三体の絶叫は、黒炎に触れた瞬間、音ごと蒸発する。
だが――
『……グ、ガ、アアアアアアアッ!!』
キメイラだけが、肉が焼ける悪臭を撒き散らしながら、なおも執念で喉を裂くような咆哮を上げた。
片翼と半身を焼き落とされながら、それでも地に崩れ落ちない。
焦げた肉が泡立ち、炭化した皮膚の下で赤黒い再生が蠢く。
『……この程度で……我を殺せると……思うな……人間ども……ッ!』
その胸部がひび割れ、焼け爛れた肉の奥から、脈打つ【赤黒い核】が覗いた。
高呪文耐性で辛うじて残った身体が、じわりと再生を始める。
俺はエリスの隣に並び、二本の聖なるナイフを構えた。
「今だ!エリスいくぞ――!」
エリスが放つ、全てを浄化する黄金の奔流――『ホーリー・レイ』
その光の中心へ、俺は渾身の力で二本のナイフを“必殺の双翼”として放った。
黄金の奔流に乗った刃は、超高速回転しながらすべてを穿つ光の削岩機と化す。
次の瞬間。
キマイラの強固な核を、一点貫通――粉砕。
『――ギ、ァ……ッ!』
断末魔を残し、キマイラは内側から光に弾け、爆散した。
激闘の後。遅れて登場したエリスの母が、力尽きようとしているサスケを見て言った。
「完全な蘇生はもう間に合いませんが……私とエリスの魔力を合わせれば、シノビの意識を、愛鳥のファルコンへ転生させることができます」
「お母さま!すぐに詠唱をお願い!」
「エリス、叔父様の魔導書を思い出しなさい」
エリスと母の親子二人で禁呪の転生呪文を合体詠唱する。
「――悠久の光よ、慈愛の揺り籠よ。
今ここに集いて、肉の縛りを解き放たれし迷える魂を掬い上げたまえ。
天の慈悲を糸となし、地の祈りを器となさん。
母の愛と、乙女の願いを贄として、古の理に背く奇跡を此処に……。
魂の灯火よ、翼ある形へとその身を移し、新たなる命を刻みなさい。
【聖天・霊魂転生】」
白光が廃砦を包み、サスケの魂はシャドウ・ファルコンの中へと吸い込まれていった。
サスケは鳥の姿で目を開けた。
「おっ俺は……」
「兄貴――――!!」
レイナが叫ぶ。
己が転生した事を理解したファルコンは、妹であるレイナを愛おしげに見つめた後、俺に向けて深く頭を下げた。
「大神官様は死なせない!」
二振りの愛刀を俺に託し、育ての親の危機を救うべく一直線に空へと飛び立った。
エリスは母と抱き合っている。
エリスがこれまでの顛末を説明し、急いで街へ戻る事を提案した。
「ああ、すぐに出発しよう。……っと、その前に」
俺は歩み寄り、光の爆散跡に無傷で落ちていた二本の『聖なるナイフ』を拾い上げた。
柄の部分にはそれぞれ、持ち主を示すイニシャルが彫られている。
片方はエリスのもの、もう片方は大神官(お父さん)のものだ。
俺は神官のイニシャルが刻まれた方をエリスへと差し出した。
「エリス、お父さんのナイフはお前が持っておけ。その方がお前の親父も喜ぶ」
「涼さん……っ、はい! じゃあ、私のナイフは涼さんが……?」
「ああ。俺がこのまま大事に使わせてもらうよ」
(我ながら完璧な口実だ……これでエリスのナイフは、堂々と俺のものだ)
俺はエリスの母を見てまた「お母さん、」と抜け目なく挨拶ジャブを入れると、エリスが笑った。
それを見たレイナは、面白くなさそうに唇を尖らせて、フンと顔を背けた。
(あれ?ウチ、どうしたんだろ……ひょっとしてまさか……嫉妬?)
俺は隣に立つ、不機嫌そうな黒ギャルを見る。
「あんたがリョウ? ウチ、レイナ! そのままレイナって呼んでもいいよ」
「一回りも違うのに呼び捨てかよ。 全く、兄弟そろってロクデモネーな」
「は? おじさんウザイんだけど」
「俺はまだ30だ!」
「ウチはまだ18だ!」
(まさかの未成年だったか……)
エリスパパがピンチのはずだ。急いで戻ろう。
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