海王(ポセイドン)戦⑩神を狩る者たち
強大な魔力が渦巻く最深部。
その入口を塞ぐ重厚な王室の扉を、俺は勢いよく蹴り破った。
「便利屋の勇者・涼、見参!」
高らかに名乗りを上げ、王室へと踏み込む。
玉座に鎮座していた巨漢――ポセイドンが、俺の聖光に気付き、忌々しげに言ってくる。
『なっ、貴様……いつの間に勇者に覚醒したというのだ!? ネクロガルの報告にもなかったが……しかしその程度でこのポセイドン様を倒せると思うなよ』
不意に、背後から重々しい複数の声が響いた。
振り返ると、王室の入口を塞ぐように、超強大な魔力を持った五体の魔獣が立ち塞がっていた。
赤、青、緑、黄、褐色――体色が異なるだけで、姿形は全く同じ五つ子の強海魔獣である。
五体の魔獣は、俺から放たれる勇者の覇気に驚愕を見せつつも、圧倒的な威圧感を放っている。
己の強力な近衛兵たちが立ち塞がったのを見て、玉座のポセイドンは勝ち誇ったように口角を上げた。
『お前たち囲んでしまえ―!勇者共よ。ワシの強さを兄冥王と一緒にするなよ?』
そう豪語しつつも、ポセイドンは苛立たしげに周囲を見回し、忌々しげに吐き捨てる。
『ネクロガルは肝心な時にどこにいった? ハーデスの時といい、糞使えない奴だな』
俺はすぐさま、ポセイドンと五体の魔獣の計六体に狙いを定め、叫んだ。
「スカウター始動!」
■ SCAN・SYSTEM ― START ■
《空間魔力波形スキャン……完了》
《対象:神格1体・強魔獣5体》
■ TARGET ANALYSIS(対象分析)(神格) ■
▶【海神ポセイドン:(LV90)戦闘力8000】
┗属性:水/雷/神威 、特性:神威障壁(物理魔法極大耐性)・絶対的海洋支配
┗弱点:不明(圧倒的魔力差により詳細解析不可)
■ TARGET ANALYSIS(対象分析)(魔獣) ■
▶【個体識別:海神近衛兵・アビス・エルダーガーディアン(フレア・フロスト・ゲイル・ヴォルト・ガイア):魔獣ランクS、LV50】
┣個体数:5体
┣属性:各個体色に依存(フレア=炎、フロスト=氷、ゲイル=風、ヴォルト=雷、ガイア=土)
┣特性:神気共有・物理魔法極大耐性
┣弱点:対極属性
┣物理無効化率70%、魔法無効化率70%
┗重要警告:魔王級に近い極めて危険な個体。五体が揃っている間は能力が底上げされる特性あり。
■ SCAN・SYSTEM ― END ■
「そのまま来い、ノアー!!」
《はい、涼さん。対象のステータス及び弱点パターンの解析を完了しました》
《涼さん、ポセイドンは戦闘力8000という規格外の数値を叩き出しています。五大ガーディアンも海鳴りの洞窟の時より強いです。正面からの力押しは極めて困難です》
《また、この王室の闇の外にLOGOSらしき五つの高い魔力反応が潜伏しています。何か別の仕掛け(トラップ)を準備している兆候が窺えますので警戒してください》
《さらにかなり後方より、高レベルの魔力反応がゆっくりと接近中。ライアン一行がわざと到着を遅らせ、涼さんたちが消耗するのを待つ『漁夫の利作戦』を前の私達の真似をして狙ってきている可能性が極めて高いです》
《ポセイドンをやるなら急がないと駄目です》
脳内にノアの冷静な声と攻略アドバイスが響く。
ノアが警告した潜伏している五つの魔力反応――その正体は、すぐに知れることとなった。
広間の闇の中から、五つの影が悠然と姿を現したのだ。
片翼の蠅王を筆頭とする、LOGOSの幹部五人である。
『ポセイドン以外なら余裕だな。便利屋の一味よ。今回は特別に僕たちがガーディアン達の相手をしてやる。君達は全員全力でポセイドンを殺れ』
ベルゼブブが薄笑いを浮かべてそう言い放つ。
「テメーらは超むかつくが、俺は合理主義だ。人類の為にも俺の為にも遠慮なくポセイドンを殺らせて貰うぜ」
俺が即座に提案を呑むと、他の幹部たちも次々と不敵な口を開いた。
『ゼハハハ! 涼、テメー勇者に成りやがったのかー? 流石俺様のライバルだあ!』
『ファファファ! 今回暴れ足りないから僕ゲイル貰っちゃうねー♪』
『ポセイドン様ガンバッテクダサイ。フロストよ、ワタシを凍らせられるカナ?』
『レイナ、俺が憎いなら必ずゼウスの神殿で相手をしてやる。ポセイドンは強い、まずはお前ら全員全力で殺るんだ!まあ、失敗して死んでもライアン達が来るだろうけど』
宙に浮いてるイザークの挑発的な言葉に、レイナはギリッと奥歯を噛み締め、だが冥王の杖を構えたまま鋭く睨み返した。
「イザーク、涼は死なせない。今回はお前のいう事を聞いてやる。その代わりゼウスの神殿で師匠の仇を取らせてもらうよ」
幹部五人がそれぞれ五色の魔獣の前へと降り立ち、勝手にタイマン勝負を仕掛け始めた。
『裏切ったな――ネクロガル、ベルゼブブ!!』
ポセイドンの怒号が王室に轟く。
奴らLOGOSの真の目的は、最初から目障りな旧き神であるポセイドンを排除すること。
そのために、邪魔な護衛を俺たちの代わりに引き受けるつもりなのだ。
(大チャンスだ。ライアン達が到着する前に急いでポセイドンを頂く)
「よし、LOGOSが魔獣の相手をしている隙に、俺たち八人全員でポセイドンを一気に叩くぞ!」
仲間たちが頷き、武器を構えて総攻撃を仕掛けようとした。
現世への帰還のポイントは、早くポセイドンの首を獲った者にしか与えられない。
ここで足を止めている暇はない。
エリスが聖杖を高く掲げ、一気に全員へと神聖な光の加護をかけた。
「【全能力極大上昇】!」
エリスの全ての魔力を注ぎ込んだバフが、俺たちの力を限界まで拡張し、身体を羽のように軽く変える。
「リリア、行くぞ」
「おう!」
リゼルとリリアが並んで地を蹴り、ポセイドンへと肉薄する。
『涼殿、拙者の背に乗るでござる』
「わかった!」
「影道潜闇!」
俺はサスケの背に飛び乗り、共に影の中へと沈み込んで死角からの奇襲を狙った。
ルークの身体がふわりと浮き、髪が逆立ち、両眼と共に朱銀色に染まった。
「フェンリー、ゴレムン! ポセイドンの足を狙え!」
『了解だ』
『ウガーーー!!』
だが、俺たちの決死の総攻撃が海神へと届こうとしたまさにその瞬間――。
『……下等生物共が調子にのるなァアアアッ!!』
玉座から立ち上がった戦闘力8000超えのポセイドンが凄まじい怒声と共に、丸太のように太い脚で王室の床を激しく踏み鳴らした。
『【神威海嘯】!!』
その瞬間、海底神殿全体が大きく揺らぎ、ポセイドンの巨体から圧倒的な神威の波動が爆発的に膨れ上がる。
「なっ……!?」
回避不能な極大の魔力波涛が、俺たち全員を呑み込み、まとめて吹き飛ばした。
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