セクハラ男と大神官と天然娘
目覚めると、見知らぬ天井があった。
鼻を突く消毒薬の匂いがする。
「俺……まだ生きてるのか?」
どうやら、最悪の事態は免れたらしい。
ズキズキと痛む身体を起こそうとすると、ベッドの傍らから声が上がった。
「気がついたんですね……っ!!」
歳をとった医者らしきじいちゃんの隣から、大きな眼鏡をかけた女が、俺の顔を覗き込んできた。
微かに漂う清潔な石鹸の香り。
「あっあんたは、イヤ、それよりカイン、カインのヤツはどうした?」
「一緒に倒れていたシーフの男性の事ですね?彼は別室です」
「別室?まさか死んだ?」
「安心して下さい。私達の応急処置により、命だけは取り留めました。ただ……」
「ただ?」
「魔物の刃に呪毒があったようで、抜けるのに最低でも三ヶ月は絶対安静です。
それとうわ言のように、兄貴大丈夫か?兄貴大丈夫か?と……自分がやられてしまった精神的ショックも大きいようです」
(……めっちゃ泣ける……)
「イヤ生きてるだけでも御の字だ。有難う、エリス」
「えっ!?何故私の名前を?」
じいちゃん医者がすかさず反応。
「えっ!?呼び捨て?」
「あっいや、その、あれだ、この国の有名人だから?」
「そうですか、最近色々あって他国でも私の名前が一人歩きしているみたいで」
「紹介が遅れた、俺は涼、人呼んで『便利屋の涼さん』だ」
「涼さん……ところで便利屋ってジョブ、ギルドにありましたっけ?」
「まっまあ、時代を先取るNEWジョブって事で……」
「よくわかりませんが素晴らしいですわ!」
(おー?この娘天然か? ますます可愛いぃ)
「それより残念な知らせがある。カインをやったのはあんたの護衛の一人だ。そしてそいつは人間に変装した上級魔獣だったんだ」
「え!?」
「そうだ、エリスの身に危険が迫っていたから俺が倒したんだ。そう、カインではなく間違いなく俺が倒した」
「涼さんが私の為に……」
(悪いがここは恩を売らせてもらおう)
「事態は深刻だ。急いでエリスのお父さんに報告した方がいい。大神官の所までエスコートしてくれ」
じいちゃん医者が口を挟む。
「それじゃ、私めが」
(ジジイはすっこんでろっつーの)
「いや……この子がいい」
「そうですね、極秘事項らしいので、私と一緒に父上の所へ行きましょう」
「すまんがエリス、右足がまだ痛むので肩をかしてくれないか?」
「それなら一つ下の階の部屋に確か松葉杖が……」
(ジジイ、どうしても寿命を縮めたいらしいな)
「涼さん、緊急の話ですよね?」
「そう、超緊急!」
エリスの肩を借りて医務室を出る。
(はあ、なんて良い匂いの髪なんだぁ)
「うっ、イテテテ、死闘の傷が……」
よろけそうなフリをする。
「あっ、大丈夫ですか?」
身体がより密着する。
(脇腹の辺りに豊満な胸の感触が……)
「涼さん、急ぎましょう」
(イヤ、もっとゆっくりでいいんだけど)
ゲスいセクハラをしていると、到着したのはこの神殿の奥にある重厚な執務室だった。
その奥には、立派な髭を蓄えた恰幅の良い初老の男――この国の大神官が、腕を組んで立っていた。
(この神官がこの宗教都市のトップか)
「エリス、その男はなんじゃ?」
「お父様、このお方が我が国にとって大事な話があると」
「何?」
「どうやら私も知らないうちに助けられたようです」
「……話してみなさい」
「初めまして、お父さん……」
「!? 何だお前は!? おっお前にお父さんと言われる筋合いはない!」
「お父様! 涼さんは私の命の恩人です!」
エリスが怒りながら割って入ってくれる。
(怒った顔もめちゃめちゃ可愛い)
大神官は冗談が通じるタイプではないらしい。
「神官、実はかくかくしかじかで。敵はどうやら娘さんを人質にしようとしてました。何か思い当たるフシはないですか?」
「なっ何じゃと、まさか……」
ゴンゴン!
そこで、ノックと共に忍者のような出で立ちの男が、疾風の如く神官の足元に飛び込んできた。
(カインと同タイプか)
「シノビ、何事じゃ」
「急報です、奥様が攫れました」
「なっ!なんじゃと?」
「お母様が……!」
神官親子が同時に驚く。
シノビが神官に耳打ちする。
「……エリスの恩人よ、そなたの情報と、我が麾下にいるシノビの報告が一致した。私の弟……エリスの叔父が、異端の魔獣と結託してこの都市を乗っ取ろうとしている。奴らの狙いはエリスを人質にすることだったようだが、そなたたちと戦闘で計画が狂ったのだろう」
(身内の権力闘争だったか)
「そして事態は今、急変した。奴らはエリスの代わりに……私の妻、エリスの母親を攫ってここを脱出したのだ」
「しかも現在、弟の反乱軍と『処刑犬の王』が明朝には都市の門に到達する。私と聖騎士団は、総力を挙げて都市の防衛に当たらねばならん。妻の救出に割ける戦力がないのだ……どうすればよいのじゃ……」
(生身で都市の全面防衛戦はリスクが高すぎる。だが、人質救出なら少人数での潜入が基本だ。ここで貸しを作れば報酬は跳ね上がるだろうし、エリスの好感度も稼げるな)
「お父……イヤ神官、人質奪還の出張依頼、俺が引き受けよう!」
「何じゃと!?」
「先導役で、そこの凄腕忍者を御供につけて貰えるなら可能だ。それと隠密作戦につき、あと一人回復役の僧侶がどこかに居れば……」
(私が行きます)
「私が行きます!」
(よし来た)
「何?お前も行くというのか」
「自分の母親の為に私が行くのは当然です」
「しかし……」
「大神官様、シノビの私が命に代えてもお嬢様を守りましょう」
「決まりだな。急いで作戦会議と出発の準備にとりかかろう」
「あいわかった」
大軍勢との正面衝突は聖騎士団に任せ、こちらは少数精鋭でエリス母を奪還しに行く。
便利屋としての出張依頼の条件は揃った。
あとは出発前の入念な作戦会議と、あの『相棒』による情報収集を残すのみだ。
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