誘拐犯
後日、騎士団団長と魔法士団団長から話を聞いた王太子殿下はハクのBuddyであるシュウ・フィオーレと共に、元凶であるハクを探していた。と言うより、シュウにハクの居場所を聞いていた。
シュウは王太子殿下の話しを聞き迷わず王宮の騎士団の屋上に王太子殿下を案内する。
そこには1人優雅にお茶休憩をしているのハクの姿があった。なんとちゃんとお茶菓子まで準備してある。
王太子殿下はシュウに関心しつつ目的の人物、ハクに声をかける。
「ハク。
休憩中すまないな。少し話があるんだが、いいか?」
ハクは話しかけてきた人物を確認するためにチラッと王太子殿下を見たが、つまらなさそうに手元のお茶へ視線を戻した。
普通王族に対してハクのような態度は無礼にあるが、王太子殿下とハクは幼馴染なのもあり公式の場ではないこの場所では許された態度だった。と言ってもハクはどこでもこの態度だが。
「なんです?聖女召喚の話しでしたら昨日すみましたけど?」
「また、その件の話だ。
お前にとっては済んだ話でも、僕たちはそうもいかないからね。」
そう言いながら王太子殿下たちはハクへと近づく。王太子の言葉にハクは拗ねたように王太子殿下に返す。
「何故です?
聖女召喚なんて、昔の本に載ってる通りの魔法陣を書いて、大勢の魔法士を準備すれば済む話しです。
この世界一の天才である僕は必要のないただの作業ではないですか。」
「その世界一の天才は気にならないのか?聖女召喚の陣は古代の魔法陣だぞ?」
王太子殿下の問いにハクは答えない。それは古代の魔法陣に少しは興味がある証拠だった。
それに気づいた王太子殿下は困った顔でハク隣に座る。ハクのBuddyであるシュウも王太子殿下とは反対側のハクの隣に座った。
「ハク。お前が興味あることに遠慮するなんて珍しいじゃないか。
どうしてそこまで、聖女召喚が嫌なんだ?」
ハクは王太子殿下の問に一口お茶を飲み、呆れたように言い放った。
「僕は誘拐犯になってまで研究する気はないってことですよ」
「「誘拐犯??」」
王太子殿下とシュウの声がかぶる。
2人の反応にハクはため息をついて、そこでようやく2人の方を向き説明する。
「考えたことなかったんですか?
聖女召喚は異世界から聖女様を呼び出すものです。
聖魔法は世界を超えた者しか使用することができませんから。
つまり、異世界の者をこちらの都合で「勝手」に連れてくるんですよ?それって誘拐のなにものでもないじゃないですか。
僕は他人を不幸にしてまで研究する気はないって言っているんです。」
ハクは「勝手」のところを強調し告げた。
ハクの言葉にことの重大さを初めて認識したのか2人は黙って考え込んでしまった。
聖女召喚=誘拐犯になるとは考えていなかったようだ。
しかし、王太子殿下は国を一番に考える者だ、すぐに顔を上げるとハクにハッキリ言った。
「確かにハクの言う通り、聖女召喚は誘拐になる。
でも、このまま聖魔法の結界が解けて、瘴気が押し寄せてくれば僕たちがどうなるか、ハクだって分かっているだろう?
君たちBuddyは最も強い魔物と戦ってきているはずだ。
誘拐犯か、国が滅ぶかを選択するなら、もちろん僕は誘拐犯になることを選ぶよ。僕はこの国の王太子だからね。
今回ばかりは君の夢物語に付き合う気はないよ。」
ハクは王太子殿下がそう言う答えを出すことが分かっていたのか一つ頷き「そうだよね」と言って、2人から視線を外しお茶飲みを再開する。
王太子殿下はそれが意外だったのか、拍子抜けしたような顔でハクを見ていた。
一方Buddyであるシュウは悲しそうな顔でハクを見ていた。
王太子殿下より短い付き合いではあるが、Buddyとして一緒に戦ってきた時間が長い彼はハクがどんな葛藤をしているのか理解できているのだろう。
時に国と言う大きい理由がある時、個人と言う小さい理由は簡単に消されてしまう。
国のためには聖女召喚はした方がいい。聖魔法の結界は貼り直すことができ、周辺に広がっている瘴気を浄化することができるし、しなければ、魔物に全員殺されてしまう未来が待っているから。
しかし、聖女個人のためを思うとしない方がいいのだ。
なんせ、聖女は突然知らない場所に連れて来れて、知らない場所を救えと一方的に言われ個人の感情など無視されるからだ。
どちらの選択も正しいのだろう。
だが、この王宮には国を思う者の集まりだ、第一に国のことを考えれば聖女召喚は必ず必要になってくる。そのことに必死すぎて誰も聖女のことを想い、発言する者がいないからハクがあえて反対の声をあげているのだろう。
ハクはS級の魔法士、それなりに発言力がり、周りもそれを無視することができない。つまり、ハク自身も分かっているのだ、聖女召喚をやめることはできないと。
ただただ、ハクは「聖女のことも考えろよ」と「犯罪者になる覚悟をちゃんともてよ」と忠告するためだけに反対しているのだ。
先ほど、シュウたちが聖女召喚が誘拐犯になると言うことをハクに言われるまで失念していた通り、他の聖女召喚に賛同する者たちはみんなその事実に気づいてないだろうから。
シュウはハクがそう言う人間だと言うのは理解しているからこそ、なんとも言えない悲しい顔でハクを見るのだ。だからこそ、聖女召喚にハクは関わらせてはいけないとシュウは思い、今まで2人で話をしていたところに声をあげた。
「じゃあ、ハクは顧問としては?」
「「顧問???」」
今度は王太子殿下とハクの声が重なり、ハクは少し驚いた顔でシュウを見た。
シュウはそんな2人に自分の考えを淡々と告げる。
「はい。顧問です。
聖女召喚のその日、ハクは見ているだけです。
もし不備があって危険な時はハクがお手伝いするって言うのはどうですか?
どうせハクなら何がおきても対応できるでしょうし、S級の俺たちなら護衛でもなんでも理由はつけれそうですし、そしたらハクは聖女召喚に参加しなくてもその場にいることは可能なのでは?
さっきのハクが言ってた限りでは難しい工程なんてないんですよね?」
シュウの質問に王太子殿下は考える仕草をし、ハクはシュウの意図を理解したのか苦笑して「えー、観戦がいいな」と言い返していたがシュウも「聖女の安全を思うなら少しは仕事してください」と容赦なく答える。流石Buddyである。意思疎通は完璧だ。
そんなふざけている2人を横目に王太子殿下はしばらく考えると「それにしよう」と言って立ち上がった。
「じゃあ、ハク。
聖女召喚の日取りは伝えるから、聖女召喚のその日だけ僕の護衛としてシュウと2人Buddyできて。
それでもし何かあれば手を貸してくれるかい?」
ハクは諦めたように「わかりましたよ。でも僕がさっき言ったこと忘れないでくださいね」と一言添えて承諾した。
王太子殿下はハクの答えを聞くと一つ頷き「分かった、国王陛下にも承諾をもらってくる」と善は急げと言わんばかりに足はやにいなくなった。
王太子殿下を手を振りながら見送ったハクはゆっくりお茶を飲みながら少し暗い顔を一瞬していた。シュウにしか気づかないような少しの変化だったが、残念ながら近くにいるのはそれに気づくシュウだったため、シュウはおずおずとハクに話しかけた。
「俺余計なことしました?」
シュウの声にハクはいつもの少し微笑む表情に戻り、シュウの方を見て話した。
「ん?いや、ファインプレーだったよ。シュウ。
まぁ、顧問なんて中々面白い落とし所だったんじゃないかい?」
ハクは本当におかしそうに笑いながらシュウに返したが、先ほどの暗い表情が気になったシュウは続ける。
「何か気になったことがあったんじゃないですか?」
「んーまぁ、あるちゃあるけど、今の僕じゃ決められないし、これは未来の僕に託すとするよ」
そう言いながらハクは体を伸ばし立ち上がった。
ハクは広い空を眺めながら自信たっぷりに続ける。
「聖女召喚の未来がどうなろうと、僕ならうまく動けるさ。
なんせ、僕は世界一の天才だからね」
ハクはそう言ってBuddyを見る。
シュウはハクのいつも通りの自信に安心し、自然と笑顔なった。




