聖女帰還
王太子殿下とハクがゆっくり話をしてると聖女たちとシュウがパーティー会場に戻ってきた。ハクのせいでもう殆どパーティー会場の面影はないため、元パーティー会場と言った方が良さそうだ。ハクの殺気で腰を抜かす程度だった人たちは王太子殿下同様少しずつ回復してきており、何人かは立ち上がっている人もちらほら見られ始めた。失神してしまった人はまだ寝ている。
聖女たちは真っ先にハクの元に駆けつけて、聖女召喚された時に来ていた異世界の服に身を包み、ハクの前で一回転し決めポーズをし「「どう?」」と2人して聞いていた。ハクはそれに微笑み「似合っていますよ」と返した。それに聖女たちも嬉しそうに「「でしょう!!」」と言っていた。流石双子、回転する速さも決めポーズも何もかも綺麗にシンクロしていた。
楽しそうにしているハクたちに王太子殿下は声をかけずらかったが、「すまない」と言って割って入った。そして聖女たちの前に膝をつき、胸に手を当て頭を下げる。国王陛下にする正式な礼だ。
「聖女様方。我々は聖女様方に感謝しても仕切れない御恩があったにも関わらず、傲慢にも何もせずに恩恵だけ授かろうとしていました。謝罪だけでは済まされないことだと重々承知しております。もちろん許しいが欲しいわけでもありません。
ですが、せめて謝罪をさせてくだい。
大変申し訳ありませんでした。」
深々と謝る王太子殿下を見たハクは視線を聖女たちに向け「どうする?」と言う風に首を傾げると、聖女たちはその視線の意図を読み取ったのかお互いに顔を見合わせると「「うーん」」と考える仕草をした後、チラッとまだ頭を下げ続ける王太子殿下を見てお互い頷くと、王太子殿下の頭にそれぞれの手を片方ずつ手を乗せて頭をなでた。そのことに驚いて顔を上げた王太子殿下の目に前に聖女たちは人差し指を立てて「めっ」のポーズをとると言った。
「もう、自分たちのことばかり人に押し付けちゃダメだよ」
「お客さんにはおもてなしの心が大切なんだから」
「おもてなしの心ですか?」
王太子殿下は「おもてなしの心」がわからなかったのか聖女たちに聞き直していた。そんな王太子殿下に聖女たちは一生懸命「おもてなしの心」を教え始めた。その光景をハクが微笑ましく見てると、シュウが近づいてきてハクに聞く。
「ハク。あそこでするのですか?
魔法陣を書いてないようですが、大丈夫なのですか?」
聖女召喚を見ていたシュウだ。さすがにハクが場所の確保以外何もしていなくて心配なのだろう。そんなシュウに「大丈夫、ここにあるから」と自信満々にハクは自分の頭を自分の指でツンツンする。そんなハクを見ながらシュウは不思議そうに首を傾げた。
「そもそも、聖女様を返すための魔法陣なんてどうやって作ったんです?」
シュウの質問に「あぁ」と何もないとこから魔石を取り出し、シュウに渡した。それを見たシュウは驚いた表情で「これ聖女召喚の時の魔石じゃないですか!?」と言うと「正解」とハクは楽しそうに言った。
ハクたちの様子に「おもてなしの心」の話をしていた王太子殿下たちもハクたちの元に集まってきていた。
「これ、確か魔道具だって言ってませんでした?」
シュウの言葉に周囲の人々の頭の上にクエッションマークが飛ぶ。聖女召喚の時の話だが、魔石を魔道具にするのはめちゃくちゃ難しいし、そもそもしようと思わないから、周りはそこから理解が追いつかないのだ。それでもお構いなく、ハクは楽しそうに話を続ける。
「そう。これは記録ができる魔道具でね。聖女召喚をした時の記録をその魔石で録ってたんだ。お陰で聖女召喚と逆の効果をもつ魔法陣、3日で完成したよ!」
「いやー情報って大切だねー」とルンルンでハクは言っているが、周りは固まっていた。ハクの言っていることの意味が理解できなかったのだ。動いているのは魔法陣の作りを知らない聖女様たちと、ため息をついて「だから3日こもってたのか…」と違うところに納得していたシュウだけだった。
そもそも陣には二つの要素がある。
一つは日々の生活を助ける為に使用されている魔法陣。
そしてもう一つは聖女召喚の時に使用していた魔法陣。聖女召喚の時の大きな魔法は複数人でないと魔力が足りなくなるため、魔法陣は複数人での魔法を使用する際に必要なもの。例えば火を2人で協力して出す時、1人は赤い火を1人が青い火をバラバラにイメージして使用してもそれは具現化されない。同じイメージではないからだ。でも、そのイメージを陣に刻むことであとは魔力さえ流せばイメージは不要となる。だから複数人でも大きな魔法を簡単に使用できるようになるのだ。
しかし問題なのはその魔法陣を作ることだ。なんとこの元となる陣を作るには作り手の魔力が相当必要となる。陣が正常に動くかの動作テストに魔力を注ぐからだ。作り方を誤っていれば必要以上に魔力も持っていかれるし、それは一度では無く何度も行う作業だ。その為魔力切れを起こす奴も少なくない。
加えて、イメージを陣に刻む過程のためにはその物の原理を知らなくてはいけない。先程の火もそうだ、火がどのように生まれるかを理解しなければ火は生まれない。そのため、一つの陣を一から作るとなると普通の火をつける陣でも何年もかかるのが一般的で、学園でも魔法陣を作る職につく奴は初期の段階から水の陣を何も見ず一から作らされるぐらいだ。
つまり、今回聖女帰還の陣を作ったハクはエグいぐらい消費するハズの魔力も沢山持っているレアな魔石でどうにかしたとしても、空間に対する知識や理解を完璧にし、たった3日で完成させたと言うことになる。いくら収納魔法が使えるがゆえに空間への理解が人より一歩先を行っているとしても異世界の空間だ。まさしく本人が自称するのも納得できるほどの天才だ。
みんなが驚きすぎて唖然として固まっている中、ハクは聖女たちを開けたスペースの真ん中に行くように誘導する。聖女たちも大人しくハクについて行った。中心に3人がつくとハクは聖女たちに「心の準備はいいかい?」と優しく問いかける。聖女たちはそれに元気良く「「うん!!」」と言って頷いた。
ハクはそれを確認すると、そのままで使ったことのない量の魔力を使い始めた。そのことに周りがざわつき始める。それはそうだ、その魔力量は聖女召喚の時に沢山の魔法士と魔石を使ってやっと実現していた魔力量をハクは魔石も使わずに1人で聖女召喚の時以上の量を叩き出していたのだから。
そのままハクは魔力で聖女たちが浄化の時にしていたように魔法陣を描いていく。その大きさは聖女召喚の時に描いてあった魔法陣と同じぐらいだった。魔法陣を描き終わったハクは少し光を帯びている魔法陣を見てキャッキャしてる聖女たちに膝をつき、胸に手を置く。その姿勢は先ほど王太子殿下もしていた正式な礼だが、ハクはその姿勢を王族相手にも滅多にすることはない。シュウが記憶している中でもS級の授与式をした時の一度しか見たことがなかった。
「もみじ様。この国に貢献してくださったことに心より感謝を。
ありがとうございました。」
そう言って笑うハクに聖女たちも「「どういたしまして!!」」と笑顔で返す。そんな聖女たちをハクは少し悲しそうに見たかと思ったら抱きしめ、聖女たちの耳元に口を寄せた。
「紅、葉父さんと母さんによろしく。元気でな。」
ハクはそう言うと聖女たちから離れて立ち上がった。
聖女たちにしか聞こえなかったその言葉に聖女たちは驚きを隠せない。ハクが言った名前は聖女たちが名乗らず、誰も知らないハズの聖女たちの本当の名前。驚いた表情のまま聖女たちは「「お兄ちゃん……??」」と確認するように呟く。ハクはそんな2人に優しく笑った。
「さようなら」
ハクの言葉に聖女たちは弾かれたようにハクに手を伸ばしたが、ハクは転移の魔法で魔法陣の外へ転移する。聖女たちの手はハクを掴むことができず空を切り、そのまま前屈みに転ぶ。それでもすぐに立ち上がって、ハクの元に行こうと走り出そうとしたが、ハクが魔法陣を動かす。魔法陣はハクの魔力を吸い、激しい光を放つ。その光が収まるとそこには聖女たちも魔法陣も消えていた。
ハクは周りを見渡し確認すると「よし」と言って仕事は終わりと言うふうに会場を出ようとしたが、それはシュウに止められる。
「待ってください。なんですか、さっきの魔力量は!?」
焦ったように聞いてくるシュウに「あれ?言ってなかったかい?」と戯けたようにハクは言った。シュウは「聞いてませんよ!!」とかつてない程の勢いで突っ込む。
「じゃあ今言ったってことで。
僕は疲れたから休むね。あとよろしく。シュウ。」
そう言うと、驚きすぎて口を開けたまま固まっている人々や、「え!?」と言って困惑してるシュウを置いてハクは会場を出て行った。ハクはそのまま自分の研究室へと足を向ける。
殆どの人が会場にいるため、人がいない静かな廊下をハクは静かに歩いていた。その表情は聖女帰還を成し遂げた喜びの表情ではなく、影を落としたような暗い表情だった。ハクの歩く速度は徐々にまし、最後には駆け込むように研究室に飛び込んでいた。ハクはそのまま後でに鍵をかけ、ドアにもたれかかりズルズルとその場にしゃがみ、両膝を抱えた。ハクは静かに泣いていたのだ。
実はハクは孤児だ。ファルファッラ夫妻に幼い頃引き取られ今じゃ侯爵子息だが、本当の両親は知らない。そのことを知っているのも夫妻と本人以外だと国王陛下と王太子殿下だけ。Buddyであるシュウすら知らない事実。そして転生者として前世の知識があったから、魔法を使いこなし、夫妻に引き取られるまで行きに抜くことができていた。
さらに転生者は世界を渡った者として、ハクも聖魔法を使える。だからこそ、聖女召喚を行う時その事実を言うか言わないか迷っていた。結果言わなかったのは転生者と召喚者の違いを懸念していたからだ。しかし、召喚された聖女たちがかつての兄弟だと認識した時、ハクは神に怒りをおぼえた。聖女たちが言っていた通り、ハクもかつての両親から子供全員を奪ったと思ったからだ。でも、だからこそハクはどうしても聖女帰還のための魔法陣を完成させなければならなかった。元々そのつもりではいたが、その思考が3日と言う速さで魔法陣を作る動力となっていたのは確かだった。
そして最後はかつての家族と別れなければならないことも聖女召喚のあの日にハクは理解していた。それは罰だとハクは思っていた。ちょっとした誤差に過ぎない違いを懸念し、聖女召喚を行ったことへの自身の弱さへの罰だと。今世を生きるハクは聖女たちと向こうには行けない。それは前世の「白萩」と言う名の男の身体を失ったハク自身が一番理解していた。だからこそ、きちんと覚悟をしてお別れしたハズなのにハクの目からは次々と涙が落ちていっていた。
ハクは震える声で自分自身に言い聞かせるように呟く。
「ごめん。ハク。
今だけ、白萩に戻ることを許してくれ…」
ハクしかいない研究室。もちろんハクの声に返す者など誰もいない。
あるのは声を殺しききれずに泣いているハクの嗚咽の音と研究室に入る夕陽が優しくハクを照らしているだけだった。




