体育館で時が止まる
しばらく成瀬とレシーブとトスを繰り返したところで、先生が手を叩いた。
「はい、じゃあ軽く試合するぞー。四対四でコートに入れ」
その一言で、体育館の空気が一気に変わった。
さっきまでの練習とは違う、ざわざわした緊張感が漂う。
思わず「嘘だろ……」と声が漏れる。
練習ならまだ誤魔化せる。でも試合は、もろに実力が出るやつだ。
成瀬が横目で俺を見ながらクスクスと笑った。
「ビビりすぎ」
「いやいや、練習グダグダだった奴だぞ?」
「大丈夫だって。ミスっても誰も死なねぇし」
「友好関係は崩れるだろ!」
「元からねぇだろ」
図星を突かれ、何も言えなくなってしまった。
成瀬はネット側の位置につき、俺は少し後ろに立たされた。
俺が組んでたグループは五人だから、必ず一人は抜けなければならなかった。
サーブ権を獲得するごとにローテーションしていると、俺が休む番になった。
俺はコートを出て、得点板の近くに腰を下ろした。
体育館の床は少し冷たくて、火照った身体にちょうど良かった。
目の前では、成瀬とクラスメイトたちがボールを打ち合っている。
成瀬がサーブだからか、相手チームは苦戦しているようだった。俺のチームは成瀬がどんどん得点を稼いで行った。サーブ権は移動しないからローテーションもしない。
スパイクの音、シューズのきしむ音、誰かの笑い声。全部が少し遠くに感じた。それでも、
「カッコいいな……」
と、ついボソッと言ってしまった。
俺はハッと我に返り、首を横に振った。
いやいや、何考えてるんだ。相手は成瀬だ。そう思いながらも、気づけば成瀬を目で追っていた。
次の瞬間。
甲高い打球音が体育館に響いた。
相手チームのスパイクが、床で鋭く跳ね返り、勢いそのままにコートの外へ飛び出してきた。
俺の方へ、真っ直ぐ。
避ける暇なんてなかった。
乾いた衝撃が、額に走る。
視界が一瞬、白く揺れた。耳鳴りがして、体育館の音が遠ざかる。
身体がぐらりと傾いたところで、誰かの手が肩を掴んだ。
「おい、大丈夫か!」
いつもの軽い声じゃない。低く、少し焦った成瀬。
先生の笛が鳴り、試合が止まる。
先生が慌ててこちらに駆け寄ってくる。
「高坂、大丈夫か? 一回保健室行ってこい」
「いや、俺は――」
言いかけたところで、額にじんわりした痛みが走った。
反射的に目を閉じた俺の顔が、ぐいっと持ち上げられる。
成瀬が俺の顎に軽く触れて、上を向かせてきたのだ。
「今のとこ赤くなってるだけだな……」
近すぎる。触りすぎだ。そう言いたいはずなのに……もっと、なんて。
「高坂、保健室行くぞ」
俺はハッと我に返り、
「いや、平気だって!」
するとスパイクを打った男子生徒が俺に駆け寄ってきた。
「大丈夫!? ごめんなさいっ……!」
成瀬が彼の方を見た瞬間、彼は「ひっ……!」と小さく悲鳴を上げた。
自分側からは、成瀬がどんな顔してるなんて分からない。でも、俺の肩を掴んできている力でなんとなく分かった。
なんでそう思ってるのかなんてのは分からないけど。
成瀬は怒ってる。




