色が増える
文房具屋なんて初めて入ったからか、色んなペンがズラリと並ぶ光景に、俺は圧倒された。
「うっわ……すげぇ」
「そうだろ」
カゴを持って、ボールペンの棚に着くと、成瀬は赤いボールペンを取り、俺に渡してきた。わざわざ俺の手首を掴んで、手のひらの上に乗せて。
「この赤ペン使いやすいんだ。すぐ乾いて、こすっても綺麗なまま。俺も愛用してんだ」
ズルい。普通に渡せば良いだろ。なんでそうやって渡すんだよ。
俺は反射的に手を引っ込めそうになったけど、ぐっと堪えた。変に意識したと思われたくない。
成瀬は次に蛍光ペンの棚の前に立つ。
「ピンクと青と……緑で良いか」
三本まとめて取って、今度は俺の前に差し出してきた。
なんで? さっきはわざわざ掴んできたじゃないか。いやいや、何期待してんだ俺。
「高坂?」
「は、あぁ……三色もいらねぇよ」
「使い分けるんだよ。重要なとこ用、数式や公式用、補足用だ」
「面倒くさ」
「面倒くさいって言う奴ほど、絶対後で苦労する」
ごもっともすぎて何も言えない。
成瀬は棚を眺めながら、俺の方を見ずに続ける。
「お前、ノートは真面目に取ってるっぽいけどさ。赤ペン一色だけだから、分かりづらい。この前お前が書いたとこ見返した時に、お前がピンと来てねぇ顔してたの知ってんだぞ」
「悪かったな」
「責めてねぇよ」
そう言って、今度はシャー芯が入ったケースを手に取った。
「まぁこれで良いだろ」
ケースには『0.5』『HB』と書かれてあった。
「高坂が持ってたシャー芯、『2B』だったろ? お前筆圧強い方だからHB。これで様子見する」
「なんでそんなこと分かんだよ」
「だって勉強会してるときに、何回もシャー芯折ってただろ」
成瀬は当然みたいな顔で、
「前から見てるし分かる」
サラッと言われて、胸の奥がざわっとした。
俺は視線を逸らして、別の棚に並ぶペンを眺めた。
細かいところまで見られてる。まぁ当然か、勉強会は二人っきりだし。そう自分に言い聞かせながら、移動する成瀬について行く。
次に足を止めたのは、消しゴムの棚だった。
俺がいつも使ってる消しゴムを手に取ると、成瀬が珍しく少し笑う。
「お前にしては良いセンスだな」
「消しゴムにセンスとかあんの?」
「でもなぁ、それよりも大きいやつ買え」
「おい聞けよ」
成瀬は、一回りデカい消しゴムを渡してきた。
「これから勉強たくさんすんだから、あるだけ良いだろ? あ。でもお前細かいとこ消せないって騒いでたよな」
「騒いでねぇよ」
成瀬は、今俺が持ってる消しゴムと同じ会社のペンを取った。
「これ、ペン型の消しゴム。これもあって損はない」
続いて、成瀬はノートの棚の前で立ち止まる。
「ルーズリーフと普通の、どっちが良い?」
珍しく成瀬が、俺に選択肢を与えてきた。
急に選択肢を投げられたから、少し戸惑ってしまった。
「ルーズリーフ……は、絶対ぐちゃぐちゃになるから、普通ので」
「自覚あんのは偉いな」
そう言って、成瀬は棚から、五冊セットになっているノートを取った。
「いや、そんなにいらねぇだろ……」
「ついでだよ。俺もノート欲しかったから。文句あるか?」
成瀬は俺にノートを手渡してきた。受け取る時に少し手が触れ、ドキッとした。
気づけば、カゴの中はだいぶ埋まっていた。新しいノートに、消しゴム、色んなペン。
「買いすぎじゃね?」
「全部必要」
「即答すんな」
成瀬はチラッと俺を見て、口の端を上げた。
「ちゃんと使えよ?」
「分かってる」
これを使って勉強する時間を、少しだけ楽しみにしてる自分がいる。




