買いに行くだけ
金曜日の放課後。勉強会をしていると、ノートの最後のページが埋まり、これ以上書けなくなった。
すると成瀬は溜め息をついて、
「ノート、買い替えだな」
「そうだな」
「あと文房具もな」
「は? なんで」
「ずっと思ってたんだけどさ。消しゴム、ちっさ」
「まだ使えるし」
「シャー芯の予備も少ねぇ」
「気のせいだろ」
「赤ペン、色うっすい」
「それは……」
成瀬は呆れたみたいに、また溜め息をついた。
「その環境でよく今までやってたな」
余計なお世話だ。
でも、言い返そうとしたところで、成瀬がさらっと言った。
「明日、買いに行くか。土曜だし」
唐突な提案に一瞬フリーズした。
「いや、急すぎだろ」
「ああ、そうだな」
「なんで一緒に?」
「蛍光ペン買わすため」
確かに蛍光ペンは持ってない。別になくたって良いだろ。と思っていると成瀬が、
「お前がまとめたノート、クッソ見づらい。赤ペンうっすいから、要点分かりづらいし。絶対蛍光ペンあったほうが良い」
反論できないのが腹立つ。
「駅前の文房具屋でいいだろ」
もう行く前提だ。
でも断る理由なんて、特にない。むしろ行った方が良い。ノートがないというだけで致命的だし。
「……分かったよ」
そう言うと、成瀬は満足そうでもなく、ただ「ん」と短く頷いた。
「じゃ、帰るぞ」
それだけ言って、先に教室を出ていく。
俺は机を戻しながら、ノートを見下ろした。
翌日、俺は集合場所に向かっている最中だった。
「今日も会えるのか……」
呟いたことに気づき、思わず手で口を塞ぐ。
何考えてんだ俺。文房具を買いに行くだけ。勉強のために。それだけのはずなのに。
どうしてもソワソワしてしまう自分が恥ずかしい。
指定された駅前に着くと、成瀬はもうそこにいた。
改札前近くの柱にもたれて、スマホをいじっている。相変わらず無愛想な顔で。私服ってだけで、妙に大人っぽく見えた。
たまたま近くにいた女子二人組が、成瀬を見て小声でざわついている様子だった。クッソ、アイツモテるのかよ。なんかムカつく。
成瀬のもとに行き、声をかける。
「早くね?」
成瀬はちらっと時計を見てから俺を見る。
「五分前だな。遅刻じゃねぇ」
「遅刻するのかと思ってたのかよ」
「まぁな。行くぞ」
成瀬はそのまま歩き出す。
「おい! まぁなじゃねぇよ!」
並んで歩きながら、改めて思う。
本当に文房具を買いに行くだけだ。変な意味はない。成瀬も、ただ勉強のために言ってるだけ。
そう言い聞かせているのに、休日に二人で出かける、という事実が頭の中でやたら主張してくる。
文房具屋に向かっている間、成瀬が前を向いたまま聞いてきた。
「シャー芯、どんなの使ってた?」
「普通のやつ」
「普通ってなんだよ」
「普通は普通だろ……」
「濃さは?」
「濃さ?」
「……まさか分かってない?」
やがて文房具屋が見えてくる。
カラフルなペンやノートが並んでいるのが見えた。そんな光景に少し感動していると、成瀬が俺を見て、
「言っとくけどな、適当に選ばせねぇから」
成瀬が店のドアを開けた。
「ほら、入れ」
「どーも」
先に通されて、店内に足を踏み入れる。
静かなBGM。ここから先、ただの買い物になるはずなのに。
胸の奥が、さっきから落ち着かない。




