隣だから
成瀬と相合傘したあの日から、一週間が経った。
それからの成瀬は、ときどき俺に声をかけてくるようになった。挨拶程度だけど……
相変わらず授業には付いて行けてなかった。
昼休み。教科書&ノートと格闘していると、成瀬が俺の机を勝手に引っ張ってきた。
クラスメイトが数人こっちを見てヒソヒソ言ってるけど、成瀬は気にしてない。俺だけが勝手に心臓を落ち着けようとしてる。
「ここ、昨日のやつ直しておけ」
成瀬が自分のノートを開いて、俺のと並べる。指先がページを押さえて、俺の手に少し触れた。
その一瞬で、息が詰まるくらい心臓が暴れる。なんなんだよ。
「成瀬……お前さ」
「何?」
「なんで、そんなにしてくんだよ」
「別に。隣だから」
なんだよそれ……ズルい。
成瀬とこんなことをしたくないなら、ただ机を戻せば良いだけの話。そんなことは分かってる。でも、離れたくないって気持ちが邪魔をしてくる。
放課後。授業が終わり、トイレに行って戻ってくると、俺の机に、片付けたはずのノートが置いてあった。
ふと中を見てみると、授業中に書ききれなかった部分が補足されていた。分かりにくい部分の軽い解説、要点に赤線まで引いてあったり。
「なんだこれ……」
思わず呟くと、隣で帰り支度をしていた成瀬が、
「お前、まとめんの下手だろ」
息が詰まった。もしかして……いやでもなんで、わざわざそんなことまでしてくるんだよ。
成瀬は突然、俺の額に人差し指を軽く当てた。
「言えよ」
「は?」
「『ありがとう』、まだ言ってないだろ」
心臓がどくりと跳ねた。
頭を押されてるだけなのに、何でこんなに近いんだ。何でこんなに顔が熱いんだ。
成瀬は特に笑っているわけではないのに、どこか楽しそうに見えた。
かろうじて出たのは、
「うるせぇ」
やっぱり『ありがとう』じゃなかった。
成瀬は目を細めて、くすっと笑った。
いつもは無愛想なくせに。
改めて帰り支度をしていると、
「一緒に帰るか」
不意打ちに心臓が跳ねた。
「なんで?」
「なんとなく」
なんだよそれ、理由になってない。でもここで断ったら、俺は一人になる。それに、嬉しかったから、断りたくない。
並んで歩く帰り道、成瀬がふいに口を開いた。
「お前、前の学校じゃ友達いなかったんだろ」
「何だよ急に」
「だから、こっちじゃ無理すんな」
「無理してねぇし」
「グループワークで無理して喋ってんのバレバレだから」
図星だ。成瀬以外には、なるべく好かれようと、明るく振る舞ってる。
成瀬は何も言わずに、俺の頭をくしゃっと撫でた。
友達だと普通なのか? 前の学校じゃ友達いなかったし分かんない。いや違うだろ、って頭の奥で声がするのに、撫でられるのが心地良くて。止めてほしくない……って。
「なぁ成瀬……あ、ありが……」
声が喉で絡まる。ただ『ありがとう』って言うだけなのに。素直になれなくて言えない。
「いや、なんでもねぇ」
そんな自分に嫌気が差す。
本当は昨日までに書き上げるつもりが、風邪を引いたので大晦日投稿……
でも実質新年。




