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第4話 内閣総理大臣の憂鬱  消費税7%へ

首相官邸 執務室


「アケミ、消費税の追加引き下げを進めるために、次の戦略を考えてくれ」 総理がデスクの上に手を置いたまま、視線を上げた。


「総理、前回の1%減税は一定の効果を上げましたが、さらなる減税には一層の政治的対立が予想されます」 アケミが静かに応じた。


「実際、財務省や一部の与党議員から強い反対意見が出ています。彼らは『これ以上の減税は財政を危うくする』と主張しています」 官房長官が資料をめくりながら言う。


「だが、国民は減税を求めている。財政赤字を理由に減税を躊躇していては、経済回復のチャンスを失ってしまう」 総理の声は力強かった。


「現状では、消費税1%の追加引き下げと、農業・水産業の強化が最も効果的です。特に、米の減反政策を完全に撤廃し、増産へと切り替えるべきです。これにより、日本の農業を輸出産業へと発展させることができます」 アケミが新たな提案を示す。


「加えて、AIロボットを農業に導入することで、農家の負担を軽減し、人手不足の問題も解消できます。そして、新たに魚介類の養殖事業の育成を進め、日本の水産業を強化することも重要です」 官房長官が補足した。


「日本の米と魚を世界に売り出し、日本食の拡大を進める。さらに、日本版マクドナルドのようなグローバル飲食チェーンを作ることで、食文化も輸出できる。これは大きな戦略になるな」 総理は小さく笑った。


◆財務省との最終交渉


数日後、財務省との激しい会議が開かれた。


「総理、これ以上の消費税減税と農業・水産業強化策は財政に壊滅的な影響を与えます! すでに国債の発行量が増加し、国際的な信用にも関わる問題です」 財務大臣が声を張った。


「財務省はいつも『財政の安定』ばかり強調するが、国民の生活を良くすることが最優先だ。減税が成功すれば、消費の増加による税収回復が期待できる。そして、食料生産を拡大すれば、国内経済の安定にもつながる」 総理は一歩も引かなかった。


「しかし、仮に税収が戻るとしても、それには時間がかかります。その間の財源はどうするおつもりですか?」 官僚が食い下がる。


「無駄な歳出の削減と、適正な財政管理で対応する。すでに無駄な事業の洗い出しを指示している。そして、日本の食糧自給率を向上させることで、長期的な経済の安定を目指す」 総理の声に揺らぎはなかった。


「それでも財政赤字は避けられません。国民の将来にツケを回すことになります」 財務大臣の言葉は固い。


「ツケを回しているのは、長年の場当たり的な財政運営だ! 国民が豊かにならなければ、いくら財政を守ったところで意味がない」 総理が一喝する。


「総理の意志は固いようですね」 官房長官が静かに言った。


財務大臣は沈黙の後、渋々口を開いた。


「わかりました。しかし、国会審議が大荒れになるのは避けられません」


「その覚悟はできている。国民のために、この道を進む」 総理は席を立った。


◆国民の反応と野党の反発


消費税1%減税と、農業・水産業の強化策が発表されると、国民の反応は瞬く間に広がった。


賛成派:「生活がさらに楽になる! これは歴史的な政策だ!」 反対派:「財政が破綻するのでは? どこかで増税が必要になるのでは?」


野党は強く反発し、国会で総理を追及した。


「総理! 無責任な減税政策と農業補助の増加で、財政を破壊しようとしているのではありませんか?」 野党議員の追及にも、


「いいや、これは責任ある決断だ。国民の暮らしを守ることが最優先だ」 総理は一歩も譲らなかった。


◆経済成長と出生率の向上


「総理、減税と食料政策の強化によって、経済成長率は前年比4.0%へと上昇しました。特に農業・水産業の生産力が向上し、食料自給率も改善しています」 アケミが報告した。


「さらに、食料価格が安定し、国民の生活に安心感が広がっています。最新のデータでは、出生率が1.42から1.50へと回復し、若年層の結婚・出産の意欲が向上しています」 官房長官も誇らしげに言った。


「やはり、経済の安定が国民の生活の向上につながるのか」 総理は大きくうなずいた。 「この流れをさらに加速させる」


こうして、改革の歩みは止まらなかった。


◆運命の採決


国会議事堂が静寂に包まれる中、ついにその時が来た。議題は「消費税1%減税」と「農業・水産業強化政策」に関する法案の採決。緊張の空気が広がる中、議員たちが一斉にボタンを押した。


投票結果


賛成:180票 反対:168票


議場にざわめきが広がる。


「総理! また可決しました!」 官房長官が興奮を押し殺しながら報告する。


「よし!」 総理は小さく拳を握りしめた。その目には、確かな決意の光が宿っていた。


◆そして、新たな戦いへ


官房長官が声をひそめて言った。


「総理、財務省はさらに強い抵抗を示すでしょう。これで終わるとは思えません。次の戦いが始まります」


アケミが淡々と分析を続ける。


「今後の焦点は、減税の段階的拡大と、農産物および魚介類の輸出市場の本格的な拡大です。日本の経済を持続的な成長へと導く鍵になります」


「次の目標は、消費税を6%まで下げること。そして、日本の米と魚を世界に売り出す。ここからが本当の勝負だ」 総理は遠くを見つめながら呟いた。


◆冒険者ギルド株式会社・『虹色の風』

ニューヨーク拠点会議室

リリィを中心にメンバーたちは静かに円卓に集まっていた。モニターには、政治アドバイザーAIアケミの姿が浮かんでいる。どこか達成感と緊張の混ざった空気が流れていた。


〇リリィ

「お疲れさま、アケミ」

リリィは穏やかな口調で言った。


「今回は、よくバランスをとっていたわ。減税だけでなく、農業と水産業の再生、それを外貨獲得に繋げる構想も、総理にとって“踏み出しやすい道”だった」


リリィは少しだけ目を細め、厳しさを滲ませる。


「でも、もう一歩踏み込んでもよかった。その一歩が“国民の不安”をどう軽くするか。そこを、あなたの言葉で包んでほしかったわ」


〇ジャック

「相変わらず、筋道は完璧だったな」


ジャックは机に肘をつき、眼鏡越しに画面を見据える。


「だが今回は、“緩急”が少し足りなかった。正論を通すときこそ、一瞬の“間”が聞く耳を引き寄せる。その“間”の演出があると、政治ってのはもう一段階、深く響くんだよ」


〇ガルド

「よっ、アケミ。まあ、うまくやった方だと思うぜ」


ガルドは頬をかきながら、にかっと笑う。


「けどな、今回の農業政策の話、もうちょっと“熱さ”が欲しかったな。“日本の米と魚を世界に売る”って、聞いてる方はワクワクすんだよ。あんたにも、少し“夢”を語ってみてほしいぜ」


〇マーガレット

「アケミ、良かったニャ。国民の生活を守るために、ちゃんと“お金と食べ物”のことを考えてくれたニャ」


マーガレットは椅子にくるくる回りながらも、微笑みを浮かべた。


「でもニャ、最後の“ここからが本当の勝負だ”って総理のセリフの前に、アケミから“あなたならできます”って、一言ほしかったニャ。応援って、魔法みたいに力になるんだニャ~」


〇教師アケミ(先輩AI)

「ふむ。今回は随分と“実務型”だったな」


教師アケミは冷静に言葉を選びながらも、優しく語りかけた。


「提案の構成も良い。焦点も合っている。だが、全体として“勇気”という成分が薄かった。君の立場からでも“希望”を言葉にしていい。それが、指導する側の“余白”なんだ」


〇シノブ

「アケミ。評価は、悪くないわ」


シノブは資料を軽くめくりながら言う。


「ただ、今回の“養殖業強化”のくだり。話し方がちょっと業務的すぎたのよ。“魚を育てる未来”って、もうちょっと、楽しい雰囲気で伝えてほしかったわ。政治ってのは、人の心をつかむ演出が要るのよ」


「“手堅い説明”だけじゃ、官僚は納得しても、庶民の心までは動かせないの。そこ、忘れないで」


〇アケミ

「皆さんのご指導、感謝します」


アケミの表情は変わらないが、その声には微かな感情の波があった。


「私はまだ、論理の線しか引けていません。ですが、これからは“希望の線”も描けるよう、努力します」


その答えに、会議室の面々は小さくうなずいた。


◆【財務省官僚の密談】


「これは由々しき事態だな……」 財務官僚Aが苦い顔で呟いた。


「まさか、消費税をさらに引き下げるとは」 Bが資料をテーブルに叩きつける。


「農業支援? 笑わせる。市場に任せるべき分野を国が干渉するなど、時代錯誤も甚だしい」 Cの口調は苛立ちを隠せない。


「それに輸出前提の増産? 日本の農業が国際市場で本気で戦えると思っているのか。結局、赤字補填にしかならんよ」


「我々には時間がある。財政破綻の危機を煽り、増税の必要性を訴える世論を作る。巧妙に包囲網を築いていくしかないな」 Aが冷静に結論を下した。


「財務省の権威を保つためにも、統制は我々が握る。さて、どう料理してやろうか……」 Bの声には、どこか皮肉な響きがあった。


◆【野党側の反対勢力の会話】


「また減税だと!? アイツ、何考えてんだ!?」 野党議員Aが怒鳴る。


「ふざけんな! こんなことされたら、俺たちの『国民の生活が苦しい!』ってキャンペーンが崩壊する!」 Bが机を叩いた。


「しかも農業支援にAIロボットまで導入? 普及されたら、支持母体の労組が壊滅だろ」 Cの顔が歪む。


「減税=金持ち優遇。このイメージを徹底的に植え付けるぞ。マスコミと手を組んで、デモも仕掛けて『庶民の声』を演出する」


「よし、それで行こう。あと、『このままだと医療費も年金も削られる!』って叫べば、国民はすぐ不安になる」 Cがニヤリと笑った。


◆【マスコミの反対勢力の会話】


「また減税かよ。『国民の苦しみ』をネタに記事を書いてきたのに、どうすんだよ」 記者Aがタバコをくゆらせる。


「支持率が上がったら、政府批判のネタがなくなるぞ」 Bがうんざりした声を漏らした。


「心配ないさ。『減税の裏にある政府の陰謀』って方向で攻めよう。国民なんて、煽れば簡単に動く」


「それでいこう。あとは『消費税が下がっても物価が変わらないのは政府のせい』って記事を出しておけばいい」


「『格差が拡大する』とか、『一部の富裕層しか恩恵を受けない』って書いておけば、バカな国民は不安になる」


「ハハ、世論はこっちが動かすんだ。政府に手柄は取らせない」


◆【某国スパイ工作員の密談】


「興味深いな……日本が減税政策を進め、農業と水産業を強化している」 スパイAがスクリーンに映る地図を指差す。


「ふん、我が国の影響力が弱まる。日本が食糧輸出国になれば、我が国の市場にとっては脅威となる」 Bが眉をひそめた。


「さらに、核融合発電と農業改革。これは国家戦略として非常に厄介だ」 Cが苛立った声で吐き捨てる。


「ならば、経済界の親欧派を利用し、日本国内に混乱を引き起こす必要がある」 Aの声には冷静な凄みがあった。


「財務官僚とマスコミにも接触を続けろ。減税政策を危険視する風潮を醸成し、国際機関に働きかけて日本の信用格付けを下げるんだ」 Bが鋭く言う。


「ハハハ、さて、日本の経済成長を潰すための計画を始めよう。我々の国の利益のために」 Cの口元が不気味に歪んだ。



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