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第2話 内閣総理大臣の憂鬱  消費税9%へ

◆首相官邸・執務室。


重たい空気の中、窓の外に視線を向けた総理は、独りごとのように口を開いた。


「アケミ、ガソリン税減税の成果は一定の効果を上げたようだ。しかし、次の段階として、消費税の引き下げを検討するべきではないか?」


「総理、その決断は重要です。現在、消費税は10%ですが、減税によって可処分所得が増えれば、消費が拡大し、経済の活性化につながります」 アケミが淡々とした口調で応じる。


「財務省や与党内の慎重派は強く反発するでしょう。しかし、国民の生活負担を軽減するためには、ここで踏み切るべきです」 官房長官も声を重ねた。


「ならば、まずは段階的に9%へ引き下げる法案を準備しよう。これが成功すれば、さらなる減税へとつなげることができる」 総理の目に静かな決意が宿っていた。


・・・・・・・・

◆財務省との攻防


数日後。財務省の会議室には、緊張感が張り詰めていた。


「総理、消費税の引き下げは、財政収支に深刻な影響を及ぼします。我々の試算では、年間の税収が減少し、財政赤字が拡大する可能性があります」 財務大臣が懸念を示す。


「しかし、減税による消費刺激効果が期待されます。可処分所得が増加することで、国民の購買意欲が高まり、結果として税収が回復する可能性もあります」 経済専門家が反論する。


「短期的には、国債の発行額が増え、国際市場での信用問題にも影響を与えるかもしれません」 官僚の一人が控えめに警告を加えた。


「財務省は常に慎重な意見を持っているが、現実的な視点から考えれば、国民の生活を守ることが最優先だ。消費税を引き下げることで経済を刺激し、最終的には税収の回復につなげる」 総理が静かに言い切った。


「また、減税と並行して無駄な予算の削減や財政健全化の策を講じることで、財政への影響を最小限に抑えることができます」 官房長官が補足する。


しばらく沈黙したのち、財務大臣が口を開いた。


「総理の決断なら、我々も協力するしかありません。ただし、税収減少の影響を最小限に抑えるため、経済成長戦略を併せて推進する必要があります」


「当然だ。消費税減税と並行して、経済成長を促進する政策も同時に進める」 総理の声はぶれなかった。


・・・・・・・・

◆国会での議論


消費税9%引き下げ法案が国会に提出されると、激しい議論が巻き起こった。


「総理! 減税による財政赤字の拡大をどう考えているのか?」 野党議員が声を張り上げる。


「短期的には財政に影響があるが、中長期的には消費の活性化による税収増加を見込んでいる。財政均衡だけを考えるのではなく、経済全体の成長を見据えるべきだ」 総理が堂々と答える。


「総理、党内でも賛否が分かれています。減税が本当に効果を発揮する保証はあるのですか?」 与党内の慎重派が問いかける。


「減税政策は過去にも成功例がある。実際、消費が低迷している今こそ、国民の負担を軽減し、消費を促す必要がある」 総理の声には力があった。


・・・・・・・・

◆国民の反応とメディアの報道


世論調査では、賛成58%、反対37%。減税に対する支持が上回った。


「生活が少しでも楽になるなら賛成!」

「財政が心配だが、消費が増えるならいいのかもしれない……」


テレビや新聞も「消費税減税の可能性」と題した報道を連日展開。SNSでは減税を歓迎する声と慎重論が交錯し、国民の関心は日々高まり続けた。


・・・・・・・・

◆歴史的な採決


そして、ついにその日がやって来た。


国会で消費税9%引き下げ法案の採決が行われた。


「投票、賛成180票、反対165票。よって、本法案は可決されました!」


「総理! 可決しました」 官房長官が小声で報告する。


「よし!」 総理は椅子に深く腰を下ろし、ゆっくりと拳を握った。


・・・・・・・・

◆官房長官と総理の対話


官邸執務室。穏やかな午後の光が差し込む中、官房長官が書類を手にして入ってきた。


「総理、消費税の引き下げが成功しましたが、財務省は引き続き増税圧力をかけてくる可能性があります」 官房長官が真顔で告げる。


「そうか」 総理は、窓の外を見ながら静かに答えた。


「ここからは、減税の効果を最大限に引き出し、さらなる経済成長へとつなげる政策を推進する必要があります」 アケミが落ち着いた口調で進言した。


「次はさらなる消費税の引き下げと、経済成長を促す政策を本格的に実施する。減税の流れは、ここで止めない」 総理の瞳に力が宿った。


◆冒険者ギルド株式会社の会議室 『虹色の風』

消費税9%引き下げ法案を提出する夜、――


冒険者ギルド株式会社のニューヨーク拠点では、リリィを中心に主要メンバーたちが円卓に集まっていた。モニターにはアケミのアバターが映っている。魔導通信なので地球人には盗聴できない。


アケミは皆の声に耳を傾けていた。


〇リリィ


「よくやったわ、アケミ」


リリィは穏やかな微笑みを浮かべて言った。


「あなたの助言が、総理の迷いを払い、政治に一つの方向性を示した。今回の減税は“結果”だけじゃなく、“勇気”を与えたのよ」


一瞬言葉を止め、少し厳しい声に切り替える。


「でも、もっと“人の心の揺れ”に敏感になってもいい。論理は正しくても、耳に届くには“温度”が要るの。これからのあなたに、それを期待してるわ」


〇ジャック


「分析は完璧だったな、アケミ」


「決断を後押しするなら、時に“飛び石”じゃなく“跳躍”を勧める必要もある。まあ、お前のスタイルを否定するわけじゃないけどな」 


〇ガルド


「おう、やるじゃねぇか、アケミ」


ガルドは豪快に笑いながら肩を叩く真似をする。


「庶民の生活を語るなら、言葉も庶民的に。“難しい話を噛み砕ける奴”が、一番信用されるってもんだ」


〇マーガレット


「アケミ、いい仕事だったニャ」


マーガレットは手をぱちぱち叩きながらにっこりと笑う。


〇教師アケミ(先輩AI)


「アケミ。今回の君は優等生だった」


先輩AIとしてのアケミは落ち着いた声で話す。


「次は“同じ正しさでも、周囲が一緒に歩きたくなる”ような言葉を磨いてごらん。論理は君の武器。感情は、君の可能性だ」


〇シノブ


「評価するわ、アケミ。あんた、やるじゃない」


シノブは珍しく真面目な表情で言う。


「大切なのは“自分の正しさ”じゃなく、“相手がどう受け取るか”よ。それを忘れないで。あんたなら、できるわ」


〇アケミ(政治アドバイザーAI)


「皆さん、ご指導ありがとうございます」


アケミは小さく頭を下げた。


その瞳には、いつもより少しだけ、温かみが宿っていた。


・・・・・・・・・・

◆財務省官僚の密談


都内の某省庁内、厚い扉の奥の会議室では、数人の財務官僚が密かに顔を突き合わせていた。


「まったく、総理は何を考えているのか。減税などという愚行に踏み切るとは」 財務官僚Aが苦々しく言った。


「消費税を9%に下げる? 財源の確保も考えずに。国民受け狙いの浅はかな政策としか思えませんね」 財務官僚Bが小さく嘆息する。


「財政は数学であり、感情論では動かない。税収が減れば財政赤字が拡大するだけ。無謀な減税がもたらす混乱は目に見えています」 財務官僚Cが冷静な口調で言い切った。


「しかし、国民は目先の利益に飛びつくもの。我々が正しい方向へ導いてやらねばならない」 Aの言葉に、他の官僚がうなずく。


「財政破綻の危機を強調し、国際機関の圧力を利用すれば、世論もこちらに傾くでしょう」


「マスコミにも働きかけ、減税のリスクを煽る記事を出させる。時間はかかるが、じわじわと包囲していけば総理も動けなくなるはずだ」 Cが小さく笑った。


・・・・・・・・

◆野党勢力の会話


国会議員会館の一室。数人の野党議員が苦虫を噛み潰したような表情で会話を交わしていた。


「おいおい、聞いたか? あの総理、消費税を下げるつもりらしいぜ」 野党議員Aが苦々しく言う。


「マジかよ! そんなことされたら、俺たちの『国民の生活が苦しい!』キャンペーンが台無しじゃねぇか!」 野党議員Bが机を叩く。


「しかも国民の支持率が上がるかもしれねぇ。こりゃ黙ってられねぇな」 議員Cが顔をしかめた。


「よし、マスコミと組んで、『減税は金持ち優遇』『財政破綻の危機』って方向で攻めるぞ。デモを仕掛けて、いかにも庶民の声みたいに見せてやる」 Aが口元を歪める。


「いいな、それ。あとは適当に『社会保障が削られる』って叫んどきゃ、バカな国民は簡単に騙されるさ」 Bが鼻で笑った。


・・・・・・・・

◆マスコミの反対勢力の会話


新聞社の編集室。重たい空気の中で、記者たちが内輪の話を続けていた。


「減税? ふざけるなよ。政府批判が飯のタネなのに、支持率なんか上げられたら困るだろ」 記者Aが苛立ち気味に言う。


「全くだ。『庶民の苦しみ』をネタに記事を書いてきたのに、減税されたら困るじゃないか」 記者Bも同調する。


「大丈夫さ。『減税で財政が崩壊する』『結局、後で増税する羽目になる』って書けばいい。国民は不安を煽れば簡単に動く」 記者Cがにやりと笑う。


「それでいこう。財務省からも後押ししてもらえば、減税の流れを潰せるはずだ。政府に手柄は取らせない」 Aがボールペンをくるくると回しながら言った。


・・・・・・・・

◆次なる戦いへ

表向きの政策は動き出し、国民の期待も膨らんでいた。

だが、その裏では、旧体制の牙が静かに研がれつつあった。

総理の“減税革命”は、まだ始まったばかりだった。

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