第9話 ヘルスパイクベア討伐前編
M870を作った翌日、俺は討伐隊にバレない様にこっそりついて来ている。
一応ルネス兄さんとルイス兄さんが討伐隊に参加しているが、獣の勘を発動しなくても嫌な予感がガッツリ感じている。
その為、早く起きて二人にバレない様に尾行してきたのだ。
今の所なんも問題ないが、予備のために獣の勘を発動して不測の事態に備える。
謎のクマか……それは図鑑に乗って無い新種か、それともクマに近い生き物かだが、後者はそんな怪物はさすがにいないだろう。
そう思いつつニューナンブM60を握りながらついて行くと、目の前からどす黒い棘を生やしたクマが現れる。
何だ、あれ!? ファイティングベアに見えるが、棘がどす黒く、その上瞳は赤く光らせている。
すると自立補助精霊は異常なファイティングベアについて説明する。
《マスター、あれはヘルスパイクベアと呼ばれる造魔です》
俺は自立補助精霊の言葉に首を傾げてしまう。
造魔? それって確か古代の技術で生まれた悪魔で、古代魔術と同じ今では使えない技術だったよな?
なのに何でその造魔が目の前にいる事に疑問を感じるが、傭兵達はヘルスパイクベアの姿を見て恐れる。
「何だよ、あれ! あんなの聞いてないぞ!」
「けど、依頼料貰ったからやるしかないだろ!」
一人の傭兵はヘルスパイクベアの姿を見て怖気づき、もう一人の傭兵は片手剣を抜いて覚悟を決める。
ヘルスパイクベアは討伐隊に向けて棘が生えた腕を振り下ろす。
「そうはさせない!」
ルネス兄さんはそう叫びながら直剣を抜き、振り下ろされる腕を刀身で防ぐ。
ルネス兄さんが攻撃を塞いでいるうちに、ルイス兄さんは杖をヘルスパイクベアに向けて詠唱する。
『火のエレメントよ。我が体内の魔力を糧に、火の矢を放て!』
「火矢!」
ルイス兄さんは詠唱し終えると杖から火の矢が五本ほど生み出され、それらがヘルスパイクベアに向けて放つ。
火の矢がヘルスパイクベアに向かうが、ヘルスパイクベアの毛皮で防がれてしまう。
一瞬だが何か黒い渦が火の矢をはじき飛ばしたように見えたぞ。
そう考えているうちに傭兵達は弓矢で攻撃するが、ヘルスパイクベアは体中に生えている棘をミサイルのように飛ばして弓矢をはじく。
「矢に関する攻撃が効かないなんて、ならば剣技・疾風斬り!」
ルネス兄さんはそう言うと、直剣に風を纏わせてヘルスパイクベアを袈裟切りにする。
ヘルスパイクベアの身体が袈裟切りにされて血が出るが、傷自体は浅く、ヘルスパイクベアは叫びながら棘を討伐隊に向けて放つ。
討伐隊は即座に棘を回避する。
だが、棘が地面に刺さると爆発して討伐隊を吹き飛ばす。
「「うわぁぁぁぁぁぁぁ!」」
「グゥ……何だよ、あれ! ファイティングベアに近いが、棘が爆発するなんておかしいだろ!」
ルイス兄さんは盾を展開して爆発から身を守るが、棘が爆発した事に文句を言う。
確かにファイティングベアは棘を飛ばす事はできる。
だけど棘を爆発させ、黒い渦で火の矢をはじき飛ばすなんておかしい。
そう思っているとヘルスパイクベアが棘を飛ばし、その棘が俺に向かってくる。
嘘だろ! まさかこっちに来るなんて。
俺は偶然とは言え、棘が来た事に驚きつつ爆発する範囲を考えながら回避する。
さっき俺がいた場所に棘が刺さって爆発する。
もしも避けずにいたらただじゃ済まされないな。
そう思っているとルイス兄さんは俺を見て驚く。
「ルイ! どうしてここにいるんだ!」
「アッ……」
俺はルイス兄さんの驚きに気付いて硬直する。
しまった! ルイス兄さんがいる事を少し忘れてた。
俺はルイス兄さんに気付かれて少し気まずそうに謝る。
「ゴメン、森に出た怪物が気になって……」
「ルイ、後ろ!」
申し訳なさそうに謝っていると、ルネス兄さんは強張った表情で後ろを指しながら叫ぶ。
俺はそれを聞いて振り向きざまでニューナンブM60の引き金を引く。
.38スペシャル弾が腕を振り下ろそうとしたヘルスパイクベアの傷口に当たる。
ヘルスパイクベアは傷口に攻撃されると、苦渋な表情になりながら少し下がる。
危なかったな。ルネス兄さんが叫んでいなかったら、背中が裂かれることになったな。
そう思いながら空間所持から装填済みのM870を取り出し、銃口をヘルスパイクベアに向ける。
ヘルスパイクベアは俺を鋭く睨みながら突進するが、俺はヘルスパイクベアの傷口を向けて引き金を引く。
12ゲージの弾丸がヘルスパイクベアの傷口に当たり、ヘルスパイクベアは弾丸で傷口を抉られて叫ぶ。
「ガァァァ!」
「よし、傷口を当て続ければいけるな」
ヘルスパイクベアが苦しんでいる様子を見て俺はにやけ、向けたままグリップを引いて排莢し、もう一度引き金を引く。
ヘルスパイクベアは迫りくる弾丸を腕で払い、俺に向かって襲い掛かる。
「チッ!」
俺は弾丸を払われた事を舌打ちし、ヘルスパイクベアの攻撃が来る前に詠唱する。
『風のエレメントよ。我が体内の魔力を糧に、風の玉を生みだせ!』
「風球!」
詠唱し終えると両手から数個の風球ができ、俺はその片方を使って回避する。
ヘルスパイクベアは突風で発生した砂埃を正面で受けて目を細める。
少しぐらい時間を稼げるが、傭兵達やルイス兄さんは俺がいた事に驚いて固まっている。
五歳くらいの子どもがここに居るなんておかしいからな。
俺はそう思いながらヘルスパイクベアを陽動させる。
「こっちに来いよ! クマ野郎!」
「ガァァァ!」
俺の挑発にヘルスパイクベアが叫び声を上げながら俺に向かって行く。
よし、このままルネス兄さんやルイス兄さんを含む討伐隊から距離を開けれるな。
俺はそう思いながらヘルスパイクベアを陽動するためにココから離れる。
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ルイがヘルスパイクベアを陽動しながら離れた。
しかし傭兵達はルイの事について話す。
「何だ、あのガキ? いきなり現れては筒状の何かを使ったぞ」
「確か近くにある貧乏貴族の末っ子だよな? それにあの二人も貧乏貴族の息子だしな」
傭兵達は話していると、ルイスは声を荒げながらルネスに質問する。
「おい、何でルイがココにいるんだよ!」
「ルイス……」
ルイスはそう叫びながらルネスの襟を掴む。
ルネスはルイスの苛立ちを見て申し訳なさそうにする。
それもそのはずだ。自分の弟がココにいる上に、自らヘルスパイクベアを陽動した事は誰だって信じれないものだ。
傭兵達はルイスに聞こえないぐらいで話し、彼の怒りを注がない様に細心の注意を払う。
そんな重い雰囲気の中で、ルネスはルイスに向けて重々しく言う。
「すまない、実は少し前に誰かが付いてきている事に気付いていたけど、まさかルイとは思わなかったんだ……」
ルネスはそう言うが、それを聞いたルイスは怒髪天を貫いて叫ぶ。
「ふざけんな、アイツは子どもだぞ! 俺達でも苦戦する怪物をアイツだけ……下手すれば死ぬかもしれないんだぞ!」
ルイスは怒りのままに叫び、傭兵達はルイスの言葉にうなずく。
ただでさえ強いヘルスパイクベアに、幼い少年が一人で戦うなんて無謀に等しい。
ルイスは今すぐルイを救出しようとするが、ルネスはルイスの肩を掴んで言う。
「待ってくれ、ルイなら大丈夫だと思う」
「何でだよ! アイツは……ルイは! 無力な子どもなんだよ、多少魔法を使いこなしても無理なんだよ!」
ルネスの言葉にルイスは鋭く睨みながら叫ぶ。
しかしルネスはルイスの睨みを臆することなく言い続ける。
「確かにルイは幼い子供だ。だけど練習試合で見た時に人影が見えたんだ。それは子どもに見えず、誰かのために戦う姿を……」
「ウォ……」
ルネスは真剣な表情で言うと、ルイスはそれを見て驚く。
他の傭兵達もルネスの表情を見て立ち止まり、ルネスはルイの安否を祈る。