第7話 最初の銃
鉱石を採掘してから三日経った。
親から少し遅く帰った罰で一週間の外出禁止を命じられたが、ルネス兄さんの願いと俺の謝罪で二日になった。
ようやく外出禁止が解除され、久々に小屋に訪れる。
しかし小屋の中は埃まみれで、汚く感じてしまう。
う~ん。掃除しても時間が掛かるし、少し気になる魔法で試してみるか。
俺はそう思いながら詠唱する。
『無のエレメントよ。我が体内の魔力を糧に、汚れを洗う光を放て!』
「洗浄光!」
詠唱し終えると手のひらから白い光が生み出され、小屋の中を包み込む。
眩しさを感じず、少ししたら小屋内の埃が無くなって綺麗になった。
よし、これで綺麗になったし、さっそく始めるか。
小屋の掃除を終えてさっそく銃器開発に取り掛かる。
最初に倉庫に置いていた鉄鉱石を十個ぐらい取り出し、それを炉に入れて火をともす。
肌に熱がひりひりと感じつつ、魔力で生み出して棒でかき混ぜる。
そうしてしばらくかき混ぜていると自立補助精霊が報告する。
《鉄の精錬をしたことで鍛冶師Ⅰを獲得しました》
自立補助精霊はそう答えると視界に数字が表示され、それはどれほど鉄が精錬された数字だ。
そして今ので百パーセントになった。
よし、そろそろ型に流し込むか。
俺は鋳造するための用意した土の型に溶かした鉄を流し込め、魔力で固めた手袋で型を持ち上げて近くの川まで運んでいく。
もちろん肉体全強化を発動してからだ。
もし転んでしまったら大惨事になってしまう恐れがある。
鉄を流した型を川に入れると大量の湯気が起きて視界が遮られてしまう。
少ししたら湯気が晴れ、大き目の鉄インゴットが出来上がった。
それを型から取り出し、作業部屋まで運ぶ。
鉄インゴットを作業部屋まで運んだら、物体投影を発動して小さめのインゴットに変える。
出来たインゴットの数は三百本ぐらいあり、そのうち二十本は弾丸として分ける。
さて、この世界で初めて銃を作成するか。
一応発火物は倉庫に置いてあるし、銃を作成するための知識は、自立補助精霊から教えられたから大丈夫だ。
「スゥ、ハァ……よし、始めるか」
俺は一呼吸を挟んでから銃器開発に取り掛かる。
最初に作るのはニューナンブM60だ。
それは新中央工業が開発したリボルバーで、警察や麻薬取締部、さらに海上保安庁が今でも使われている代物だ。
最初はトンプソンコンテンダーやM950Aなどの前世で使っていた物にしようと思ったが、問題が二つあった。
それは圧倒的に実力不足と、肉体的に使えるかどうかの問題であった。
その問題はチート能力を使えばいいのでは? と思ったものの、もし見た目だけの偽物になったら使えないし、まだ幼いから実力を高めてから作る方がいいからな。
鉄インゴットが大量だが、失敗した物はリサイクルすれば鉱石を集める手間を減らせるからな。
そう思いつつ作業を行う。
まずはレンコン状のシリンダー、マズル、フロントサイト、リアサイト、ハンマー、グリップ、マガジンキャッチ、トリガー、トリガーガードを作成する。
シリンダーの装弾数は五発だから穴を五つ開け、マズルの口径を9mmになるようにする。
そして出来上がったパーツを組み立てれば、ニューナンブM60の完成だ!
鉄をそのまま使ったから本来とは違い色だが、形や仕組みは同じだから問題ない。
これを十丁ほど作成した。
これらは弾丸を開発するための実験体であり、壊れた時の予備として用意したものだ。
さて、次は撃つために必要な弾丸を作成するか。
俺は残していた鉄を取り、.38スペシャル弾の弾丸を作成する。
弾丸は9.1mmまで投影し、雷管は代わりとして強い衝撃で爆発するボムストーンで代用する。
ボムストーンは小石で変換したもので、物体投影で細い上に短い棒を大量に生み出したものだ。
そうしていると.38スペシャル弾のパーツを完成したが、問題はどれほど火薬を入れれば安全かだ。
その為に大量のニューナンブM60を用意したからだ。
倉庫から持ってきた火薬を薬莢に入れ、弾丸と雷管付きの蓋を付ければ.38スペシャル弾の完成だ。
さっそく試し撃ちをしようとテスト用の人形を練習場に設置、その人形にニューナンブM60を取り付け、離れてもトリガーが引けるように縄を通す。
次にシリンダーに火薬を大量に入れた.38スペシャル弾を装填し、ハンマーを起こして離れる。
一応爆発に巻き込まれた笑い事じゃないからな。
そう思いながら縄を強く引っ張る。
すると縄が引っ張られた事でトリガーが引かれ、ハンマーが落ちて雷管に衝撃を与える。
その時に爆音が辺りに響きわたり、ニューナンブM60の破片が辺りに飛び散る。
「クッ! やっぱり火薬の量を多くしたから暴発したか……」
俺は爆音に驚きつつもニューナンブM60の破片を全て回収し、物体投影で鉄インゴットに戻す。
人形の方は火が映らぬように中に石を仕込んでいるからな。
そう思いながらトライアンドエラーを繰り返し、火薬の量を慎重に確かめる事数十分でようやく暴発せずに発砲した。
「ヨシ! ようやく成功だ!」
俺はようやく暴発しない事に喜び、無事だったニューナンブM60を回収する。
すると自立補助精霊が報告する。
《銃器を製作した事で概念・銃職人Ⅰを獲得しました。これで火薬のバランスを表示する事ができます》
俺は自立補助精霊が言った言葉に驚く。
オォ! それはとてつもなく凄い便利な概念だな。
これを使えば一々火薬量を確かめる作業をせずに済むから、俺としては嬉しい概念だ。
しかし喜びの後に疑問が生じる。
そもそも概念ってなんだ? チート能力と似ているが、実際はどうなんだ?
概念について考えていると、自立補助精霊が説明する。
《概念とは経験や努力で得たものであり、様々な加護を発動する事ができます》
俺は自立補助精霊の説明を聞いて例えを思い浮かべる。
それって採掘師や鍛冶師のような事か?
《ハイ、その通りです》
そう思っていると自立補助精霊はその例えにうなずく。
へぇ、概念は経験を積めれば詰める程能力が上がるんだな。
チート能力の強化方法は未だ不明だけど、概念の方は熟練度って感じか。
考えをまとめつつ、ニューナンブM60と.38スペシャル弾を倉庫に入れる。
今回はかなり進展したな。リボルバーとはいえ、立派は現代兵器だからこれからも研鑽を積んでいくか。
そう思いながら夕暮れになる前に家に帰る。
▲▽▲▽▲▽
ルイが下山して数時間後、小屋がある場所からかなり森深くある場所に、強靭なクマと忍者の男が対峙していた。
人物の前に立つクマは両腕に茶色の棘が生えており、首の周りに白い毛があるクマ・ファイティングベアだ。
忍者の男は黒一色の忍び装束で、顔には頭きんの代わりに血のように紅いドクロの仮面を着けている。
忍者の男は忍者刀のような剣・黒嵐刃を構えており、ファイティングベアは叫び声を上げながら襲いかかる。
「グァァァァァァァ!」
「ヘッ、強そうだ。だけどな……」
忍者の男はそう呟きながら地面を蹴り、瞬時にファイティングベアの右腕を切り落とす。
ファイティングベアは右腕を切り落とされて叫び声を上げる。
「グァァァァァァァ!」
「突進何てつまらねぇ、それにあいつから言われた事をやってみるか」
忍者の男はそう言いながら黒嵐刃を納刀し、印を結んで詠唱する。
『闇のエレメントよ。理性を奪い、破壊に溺れる呪いを与えよ』
「発狂修羅!」
忍者の男は詠唱し終えると叫ぶ修羅の魔法陣が浮かび、どす黒いクナイを取り出す。
どす黒いクナイに魔法陣が付与され、それをファイティングベアの傷口に向けて投擲する。
どす黒いクナイがファイティングベアの傷口に刺さると、傷口から黒い霧がファイティングベアを包み込んだ。
そして霧が晴れるとどす黒い棘が全身に生えたファイティングベア・ヘルスパイクベアに変異する。
ヘルスパイクベアは瞳を赤く光らせながら叫ぶ。
「グァァァァァァァ!」
「これが造魔か。中々面白そうなことになりそうだ」
忍者の男はそう呟きながらこの場を去り、ヘルスパイクベアは叫びながらエロヒム村に向かって行く。
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