第5話 強さの差
タックルボアを狩ってから数日くらい経った。
あの日の夜から両親とルネス兄さんが褒めてくれたが、ルイス兄さんは少し皮肉気に言いながら疑われた。
しかし両親が注意した事でこの件はうやむやとなった。
俺はバレたかと冷や汗を感じていたから両親の注意はある意味助かった。
このまま怪しまれた心身堪ったものじゃない。
俺はそう思いながら練習場でルネス兄さんの試合を見ている。
建前とはいえ、子どもが偶然魔法で魔獣を狩った事に村人達は驚きまくったからな。だからこの世界の強さを確認しなきゃいけない。
ルネス兄さんは直剣のような木刀を相手に向けて構え、相手は棒を強く握って様子をうかがっている。
ルネス兄さんから聞いたがこの世界は武器を使った戦い方は五種類あり、剣術はざっとこのぐらいだ。
・ミハイル流……魔法と共に使う剣術で、魔法を駆使しつつ空中戦もおこなえる。
・ヌァザ流……四元素魔術の土を合わせた剣術で、土の義手を生みだして怒号の連撃を与える。
・アーレス流……四元素魔術の火を合わせた剣術で、火の破壊力でどんな鎧も焼き切る。
・アテーナ流……四元素魔術の水を合わせた剣術で、水の柔軟性で魔法や攻撃を受け流す。
・イダ流……四元素魔術の風を合わせた剣術で、風の素早さを生かして高速のかく乱を見せる。
最初の方は魔法を組み合わせて使うが、他の四つは四元素魔術の内一つだけだな。
「ハァァァァ!」
そう思っているうちに相手は地面を蹴って接近する。
だがルネス兄さんは木刀を守りの構えを取りながら詠唱する。
『地のエレメントよ。我が体内の魔力を糧に、大地の壁を生みだせ!』
「地壁!」
「ウォ!?」
ルネス兄さんは詠唱し終えると前に土の壁が足元から出てきて、相手は慌てて止まる。
ルネス兄さんは土の壁から出て、相手の肩に向けて木刀を振り下ろす。
「ハァ!」
「あぶねぇ!」
相手は棒で木刀を受け止めるが、ルネス兄さんは相手の棒を掴んで強く押し出す。
相手はいきなり強く押し出されて慌ててバランスを取ろうとし、ルネス兄さんは木刀で足元を払って転ばせる。
「エイッと」
「ウワッ!?」
案の定相手は足元を払われた事でバランスを崩して尻もちをついて転ぶ。
相手は尻もちをしつつ立ち上がろうとするが、ルネス兄さんは木刀を相手の方に向けて聞く。
「どうする? 降参する?」
「こ、降参だ……」
ルネス兄さんの質問に相手は額に汗を流しながら頷く。
見学していた人たちは驚きながら拍手し、俺はルネス兄さんに労いの言葉をかける。
「お疲れ様、ルネス兄さん」
「ありがとう、今の試合を見てどう感じたんだ?」
「うん、魔法を使いつつ剣術を攻める姿を見て勉強になったよ」
「そうか、見学させたかいがあったな」
ルネス兄さんはそう言いながらホッとする。
前世では魔法もないから様々な戦術や銃器で戦ったけど、先ほどの試合を見てとても勉強になった。
俺はルネス兄さんにお願いする。
「あの、出来るなら僕も試合してみたいんだ」
「エ?」
それを聞いたルネス兄さんは目が点になりながら聞く。
「えッと、大丈夫か? まだ幼いし、剣術も習ってないぞ?」
「少し魔法のついでで練習しているので大丈夫だよ」
俺はルネス兄さんに向けて言うが、実際は戦闘の勘を取り戻したいからだ。
するとルネス兄さんの相手が立ち上がって言う。
「俺は良いぜ。でも子どもだからって手加減しないからな?」
「問題ない。ルネス兄さんは?」
俺は相手の言葉を受けつつルネス兄さんに質問する。
ルネス兄さんは少し苦々しくしながら答える。
「う~ん、力加減をするなら良いけど……」
「分かったそうするぜ」
相手はルネス兄さんの言葉に頷き、俺も短剣くらいの木刀を掴んで中に入る。
相手は子どもだから油断しているのが丸見えで、俺は相手に確認する。
「確認だけど貴方は力を加減するだけ、俺は魔法を使ってもいいか?」
「アア、子どもだから良いぜ」
相手はそう言うと棒を俺に向けて構える。
そして試合開始の金がなると、相手は初手から棒を振り下ろす。
「ほらよ!」
力加減はしているように見えるが、棒は徐々に勢いを増している。
だが俺はそれを見ても冷静に詠唱する。
『風のエレメントよ。我が体内の魔力を糧に、風の玉を生みだせ!』
「風球!」
詠唱し終えると両手から数個の風球ができ、俺はその片方を使って回避する。
突風で棒を回避し、棒は空ぶって地面を強くたたく。
相手は急速で避けた事に驚きながら辺りを見渡す。
「消えた!? ど、どこにいるんだよ!」
相手は慌てふためくが、俺はもう片方の風球で衝撃を緩和して呼び掛ける。
「鬼さん、こちら~」
「後ろか!」
俺の呼びかけに相手は気付き、振り替えると棒を俺に向けて走り出す。
多分このまま乱れ突きを放とうとするが、あいにく俺はそのまま受けるつもりはない。
俺は両手の風球を地面に叩きつけると砂埃が舞い、俺は疾風で上に飛ぶ。
「ナッ――!?」
相手は疾風で飛んだことに驚いてかたまるが、俺は木刀を強く握って言う。
「ぼーっとしたらまずいですよ?」
そう言うと相手はハッと我に返って攻撃しようとする。
だが俺は相手に額に向けて木刀を強くたたき込む。
「ハァ!」
「グァァァァァァァ!」
相手は額を強く叩かれた痛みで叫び、棒を手放して額を抑え込む。
俺は最後の風球を使って華麗に着地し、振り向きざまに質問する。
「大丈夫か? 少し強く叩いたけど」
俺はそう聞くが相手はあまりの痛さだったのか、いまだに額を抑えて苦しんでいた。
少しやり過ぎたか? 本当に少し強めに叩いたのに大げさだな。
そう思っているとルネス兄さんは目を輝かせていう。
「凄いじゃないか! この村じゃ一番の槍使いを倒すなんて中々だぞ!」
「そうなの!?」
俺はルネス兄さんの言葉に驚いてしまう。
だって俺からすればただお遊び程度の実力で、転生前の槍使いはリーチをうまく活用していたぞ!
俺はルネス兄さんの言葉に信じられないが、他の人達の驚きようを見れば本当の事だろう。
そして俺は一つの考えに至る。
それはこの世界はとても弱く、俺の知る強さとこの世界の強さの差がとても離れている。
通りで天魔たちとの戦いに追い詰められるわけだ。
幼いとはいえ、俺の強さに驚き、お遊び程度の実力も一番と呼んでいる。
この国の騎士の強さも気になるが、今はこの状況をどうにかしないと。
「た、たまたまだよ! もしかしたら風球を使えば素早くなるかな~って」
俺はそう誤魔化す。
他の人は少し首を傾げているが、子どもが青年に勝てるわけがないと思っているからか、俺の言葉を信じた。
ルネス兄さんも少し疑問を持ちつつも頷いた。
た、助かったー! このまま怪しまれるなんて笑えないからな。
俺はそう思いながら練習場から立ち去り、魔法の練習をしてから家に帰った。
その後は両親から昼の練習試合の事で褒めちぎられる事になった。
まさか、これほど驚くことだとは……これからは少し注意しないとな。
俺は両親に褒められながらそう決心する。
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山の奥深い所で怪しいフードを被った男がルイの練習試合を水晶で見ており、奥にいる謎の人物が首を傾げながら聞く。
「おい、そんなもん見て楽しいのか?」
謎の人物は男にそう聞き、男はほほ笑みながら答える。
「エェ、何故なら我らを楽しめる道具が出来るのですから」
「ハッ、そいつは良いね。最近じゃあんまり楽しめずにいるからな」
男の答えに謎の人物は獰猛な笑みを浮かべて言い、この場から去る。
男は謎の人物が去ったことを気にせずに水晶を眺めて呟く。
「私が新たに生み出した天魔(子ども)と戦うのが楽しみですねぇ」
男は狂気を孕んだ笑みを浮かべながら言い、ルイの成長を楽しみにしている。
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