第2話 老衰死から異世界転生
俺の名前は黒鉄健吾、最強の殺し屋と呼ばれた人殺しだ。
今では無茶な動きはできず、これまで報酬で手に入れた金で一人寂しく生きている。
俺は身体の節々がヒシヒシと痛みを感じるが、そのまま庭に向かって歩いて行く。
庭に着くと庭の桜が満開となっており、その景色はとても心を現れそうだ。
俺は満開の桜の下に座って休む。
「ふぅ、やっぱり年を取るのは嫌だな……」
俺は一人で呟くが、なぜか眉が重く感じてしまう。
アア、やっぱり頃合いか……。
俺はそろそろ死ぬだろうと感じ、過去の事を思い出す。
俺は昔、父親がいた。だがその父親はかなりのろくでなしで、幼少期の頃の俺は父親から虐待を受けられた。
殴るや蹴るは当たり前、タバコのつけ焼きや外に放り出されるなどだ。
今ではこの世にいないが人として、親として最悪な印象しかない。なんせ父親は俺に殺されたからな。
その後は路地裏に彷徨っていたけど、たまたま殺人術を持った師匠に出会い、身体の限界が来るまで人を殺して続けてきた。
今思い返せば父親とは違うが、とても人ではない所業を繰り返してきたな。これは必ず地獄に行きそうだな。
俺は心の中で自虐していると、なぜかおぼろげに川みたいな景色が見え始める。
「そろそろ……だな」
俺は呟きながら桜に触れる。
これまで色々な事が起きたが、親の愛を知らず、学も無く、そのまま孤独に生きて死ぬ。
俺はそう思いながら、少しだけ遠目になって言う。
「神様……もしチャンスがあるなら優しい親に生まれ、平穏な人生を味合わせてくれよ……」
俺はそう言うとまぶたを閉じる。
無神論者なのに神様に願いを言うなんて皮肉なことだな。
▲▽▲▽▲▽
そして黒鉄健吾は11時半で心肺停止となり、人として生を終えた。
偶然やって来た者が桜の下で眠っている老人を見つけ、声をかけた時にはもう来途切れていた。
葬式は役所の人達だけで済ませ、墓も戸籍に則って父親と同じ墓に入れられた。
そしてその魂は黒い空間に移されていく。
その黒い空間に業火な椅子に座る美女が魂に触れ、辺りが眩しく輝いて行く。
▲▽▲▽▲▽
う~ん、あの世ってとても静かなのか? ただ何も聞こえず、無音と言っていいほどの静かだ。
そう思いながらまぶたを開けると、目の前に豪華な椅子に座った美女がいた。
腰まで届くピンクの長髪、クリッとした桃色の瞳、首には六つの宝石が付いたネックレスを付け、キトンを着た豊満美女だ。
豊満美女は俺が起きた事に気づいて話しかける。
「あら? お目覚めになられましたのね、救世主様」
「……ハイ?」
俺は豊満美女の言葉に理解できずに首を傾げるが、コンマ一で一つの回答に至った。
うん、コレ幻覚か何かの類だわ。
俺はそう結論付けるともう一度まぶたを閉じて横になる。
しかし美女は俺の行動に首を傾げながら声をかける。
「ネェ、聞こえているでしょ? 貴方は救世主に選ばれたのよ!」
無視だ、無視。こういうのは無視が最適解だ。
「聞こえているでしょ!? ネェったらネェ!」
「うるせぇ!」
しかし豊満美女がしつこく声をかけるため、うるさくて全然集中できない。
それに死んだけど俺は老人なんだよ、
「あのな? 俺は老人だからもうちょっと優しく――ナッ!?」
俺はしつこく声をかける豊満美女に文句を言おうとするが、その時にチラッと見えた俺の右腕を見て驚く。
それは枯れ木ほどの細さの上にカサカサだったのに対し、今では全盛期そのものとなっている。
俺は瞬時に理解するが、こんな常識外れな事はあり得ない。
豊満美女は俺の様子を見て何かを察し、どこからか取り出した鏡を俺に見せる。
鏡には高校生くらいの青年が映っているが、その姿形は全盛期の俺に似すぎている。
若々しくなった俺の姿にあ然としていると、豊満美女は頬を掻きながら説明する。
「アァ、ちょっと若くしたほうが良いかなーって、思ったけど少し若返らせ過ぎたかしら?」
豊満美女はそう言いながら申し訳なさそうにするが、今の俺には全然聞こえずにいた。
「一体全体、何がどうなってんだよー!」
俺は豊満美女の言葉に理解できずに人生で初めて叫んだ。
しばらくしたら豊満美女は申し訳なさそうにしながら自己紹介する。
「本当にごめんなさい。私の名前はリーン、貴方のような死者を転生させる女神よ」
豊満美女もといリーンは自己紹介を終え、俺はどうして若返らせた事と救世主と呼んだ事について聞いた。
どうやらリーンは自分が管理している世界のうち、剣と魔法の世界が滅亡の危機に瀕していた。
天の力を得た魔人・天魔の侵略、人間達の退化にリーンは世界滅亡を防ぐために俺を選んだという。
ちなみに俺を選んだ理由は現実世界でも戦闘慣れしており、ちょうど死亡したからだと言う。
それと天界では救済措置として、若く死んだ者や不慮の事故で亡くった人のために転生システムを築くためだからだ。
それを聞いた俺は頭を掻きながら呟く。
「だからか……」
どうりで俺の事を救世主って呼んだり、魂だけど若くしたりしたんだな。
そう思っているとリーンは巻き物らしき道具を手渡してくる。
俺は首を傾げながら聞く。
「それは何だ? いかにも巻き物っぽいが……」
「これは転生するときに決める法具・転輪書物よ。これを使えば転生するときに好きな容姿やチート能力を持つ事ができる」
「へー」
俺はリーンが持つ転輪書物を貰って開く。
すると書物からウィンドウらしきものが表示される。
えっと、書かれているのは容姿とチート能力が説明付きになっている。
一応容姿は生前と同じにして、チート能力は戦闘や製作に関係するものにしておくか。
そうして一時間ぐらいで転輪書物の設定を終えてリーンに渡す。
リーンは転輪書物を一通り見て聞く。
「うん、これでいいなら今すぐ転生させるけど大丈夫よね?」
「アア、問題ない。やってくれ」
「了解」
俺は承諾するとリーンはピースしながら頷き、俺を光に纏わせて転生させた。
周りが眩しくなって目を瞑ったが、しばらくすると英語とは少し違う言葉で話しかける声が聞こえた。
俺はゆっくりと目を開ける。
すると最初に映るのは親らしき男女であり、親らしき男は俺を見て声を変える。
「お、起きたか? 俺達の息子よ」
俺は微笑む親らしき男に話しかけようとする。
しかし――。
「あー、うぁー」
「フフ、とても可愛らしいわね。あなた?」
「アア、そうだな」
俺は呂律がうまく回らず、親らしき女はそれを見て微笑み、親らしき男も同調するように頷く。
俺は辺りを見渡していくと、窓には赤ん坊が抱きかかえているが、それは俺であった。
普通は驚く事だろうが、リーンから聞いたからヘッチャラだ。
だけど一つだけ思う事がある。
(本当に異世界転生したんだな……)
俺はそう思いながら両親と触れ合う。
今はどんな世界や生まれた場所については分からないけど、少しずつ知ればいいからな。
俺はそう思いながら両親と触れ合って行く。
▲▽▲▽▲▽
森深くある祠・ディザスター祠に近づいてくる男がおり、男は黒いフードを深々と被り、片手には禍々しい魔導書を持っていた。
男はディザスター祠に着くと魔導書を開いて呟く。
「さて、天魔を生み出していきましょう」
男はそう呟くとディザスター祠に手を向けて詠唱する。
『天は厄災に堕ち、魔は禍を生み出す獣と化す。天性堕落』
男は詠唱し終えるとディザスター祠に黒ずんだ霧が纏わり、どす黒い光が漏れる。
男はそれを見て即座にこの場から立ち去っていく。
そしてディザスター祠の奥深くに赤黒く光る瞳が映り、どす黒い瘴気が少しだけ漏れ出た。
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