指輪の力
翌日の午前中、魔術学校の大講堂では「属性魔術の基礎応用」という授業が行われていた。大勢の生徒が集まり、教壇に立つ教員が力強い声で講義を進めていく。
「皆、注目!属性魔術を使う際に最も重要なのは、自分の魔力と属性のバランスを保つことだ。これが崩れると制御を失い、最悪の場合、大事故になる。」
教員の厳しい口調に、生徒たちは静まり返りながらも真剣な表情でノートを取る。
「では、実践に移るぞ。全員、順番に基礎魔術を発動し、魔力制御を試すように。」
紗英や蓮、哲也、紫音を含む生徒たちは、指定された場所に並び、それぞれの順番を待つ。紗英は、少し緊張した面持ちで自分の手元を見つめていた。
「紗英、大丈夫か?」と蓮が声をかける。
「うん、平気……たぶん。」
彼女は小さく頷いたが、内心では不安が募っていた。紗英にとって、魔力制御はまだ不慣れな分野であり、自信を持てていなかったのだ。
紗英の順番が回ってきた。彼女は手を前に出し、小さな火球を作り出すための呪文を唱える。だが、その瞬間――
指に嵌めていた家宝の指輪が不意に強い光を放ち始めた。
「えっ……!?」
紗英の驚きとともに、火球が突然巨大化し、制御不能なほど暴走し始める。周囲にいる生徒たちが慌てて避ける中、火球は激しい勢いで大講堂の天井に向かって飛び上がった。
「紗英!止めろ!」
教員が叫ぶが、紗英自身も何が起きているのか分からず、ただ震えるばかりだった。
「危ない!」
その時、蓮が素早く紗英の隣に駆け寄り、彼女を引き寄せて地面に伏せさせた。火球は天井に衝突し、大きな爆音とともに消散する。
「紗英、大丈夫か?」
蓮が心配そうに彼女を覗き込むが、紗英は混乱したままだった。指輪が静かになったのを確認しながら、彼女は呆然とその輝きを見つめる。
授業が中断され、紗英と蓮は教員に呼ばれて大講堂の隅に移動した。
「紗英、その指輪は一体何だ?見たところ、ただの装飾品ではないようだが。」
教員が鋭い視線で問いかけるが、紗英は首を振る。
「わ、分かりません……。これは、家に代々伝わるものだとしか聞いていなくて。」
教員はしばらく指輪を観察した後、難しい表情を浮かべた。
「どうやら、その指輪には特別な魔力が宿っているようだ。今後、訓練中は外しておくようにしなさい。」
「はい……。」
紗英はしおらしく頷きながら、そっと指輪を外してポケットにしまった。しかし、彼女の中にはどこか拭いきれない不安が残る。
その後、授業は再開されたものの、紗英は指輪が何を意味しているのか、そして自分がなぜこんな目に遭うのかを考えずにはいられなかった。
それを見ていた蓮は、少し距離を置きながらも紗英の様子を気にかけていた。指輪の秘密が、この先の何か大きな出来事につながっている――そんな予感が、彼の胸の中で静かに膨らんでいくのだった。