♡ 夜の寮
授業を終え、寮へと戻った紗英は、自分の部屋のドアを開けるとすぐにベッドに倒れ込んだ。全身の疲れと今日の出来事が頭の中で渦巻いている。特に蓮が自分を助けてくれた場面が繰り返し浮かび、頬が熱くなるのを感じた。
「落ち着け、私……ただ助けてもらっただけじゃない!」
自分に言い聞かせるが、あのとき手を握られた感触が鮮明によみがえる。
しばらくして、ノックの音が響いた。
「花村、起きてるか?」
聞き慣れた低い声に紗英は驚き、慌てて身を起こす。
「有馬くん? どうしたの?」
「少し話がある。」
紗英がドアを開けると、そこには蓮が立っていた。相変わらずのクールな表情だが、どこか少し疲れた様子が見て取れる。
「入ってもいいか?」
「えっ、あ、うん……どうぞ。」
紗英は慌てて部屋の中を片付けようとするが、蓮はそんな様子を見て小さく笑った。
「気にするな。すぐに済む話だ。」
蓮は部屋の中に入り、机の前の椅子に腰掛ける。
「さっきのことだが……お前、本当に無茶するよな。」
蓮の視線が真っ直ぐに紗英を捉える。
「でも……私、どうしても力をうまく使えるようになりたくて……」
紗英が小さく答えると、蓮はため息をつき、立ち上がった。そして彼女のすぐ前まで歩み寄る。
「わかる。でも、無理をしすぎるな。お前が傷つくのは、見ていられない。」
その言葉とともに、蓮は紗英の髪に触れた。指先が軽く彼女の額に触れる感覚に、紗英の心臓が大きく跳ねる。
「お前の力は危険だが、同時にすごい可能性を秘めてる。俺が……お前を支えるから、頼ってくれ。」
蓮の声はいつもより低く、優しい響きが混じっている。その距離の近さに、紗英は息が詰まりそうになる。
「有馬くん……」
彼の瞳を見つめると、何か言おうとした言葉が喉で詰まる。代わりに顔が熱くなり、視線をそらしてしまった。
「俺がいる限り、お前は一人じゃない。」
蓮はそっと紗英の肩に手を置き、微笑んだ。そして次の瞬間、気まずさを紛らわすように立ち上がる。
「じゃあ、そろそろ戻る。無理しないようにな。」
蓮が部屋を出ていった後、紗英はその場に座り込んだ。胸の高鳴りはしばらく収まらず、彼が触れた場所の感覚が残ったままだった。
「……ずるいよ、有馬くん。」
一人ごとを漏らしながら、紗英は頬を押さえて小さく笑った。その夜、彼の言葉と笑顔が頭から離れなかった。