♡ 夕方の図書館 熱い体
授業が終わり、夕方の柔らかな光が窓から差し込む学院の図書館は、静寂に包まれていた。大理石の柱と高い天井が重厚な雰囲気を醸し出し、天井近くまで届く本棚が並ぶ空間は、どこか神聖な場所のようにも感じられる。紗英は魔術の理論書を手に取り、静かにページをめくっていた。
「ここにいたのか。」
低く落ち着いた声が背後から聞こえ、紗英は驚いて振り返る。そこには蓮が立っていた。いつもの冷静な表情だが、どこか疲れた様子がうかがえる。
「蓮? どうしたの?」
「授業で、お前が難しそうにしてたから気になってな。まだ復習してたのか?」
「うん、授業についていくのがやっとで……もっとちゃんと理解したいの。」
蓮は軽くため息をつくと、紗英の隣に座り込む。
「頑張りすぎるなって言っただろ。疲れてるときは頭に入らない。」
「でも……」
紗英が反論しようとすると、蓮が不意に彼女の手元の本を取り上げた。
「どれどれ。どこで詰まった?」
蓮は紗英の近くに身を寄せ、本のページを覗き込む。二人の距離が近すぎて、紗英の心臓は早鐘のように鳴り始める。蓮の整った横顔がすぐ隣にあり、彼の髪からふわりと香る清々しい香りに、思わず意識が揺れる。
「ここか……なるほど。魔力の循環についての説明が抽象的だな。」
蓮が自分のノートを広げ、さらさらと書き込みながら説明を始める。その声はいつも以上に優しく、低く響いていた。
「ほら、こうすると分かりやすいだろ?」
蓮がノートを指さし、紗英の方へ顔を向ける。その瞬間、二人の顔が不意に近づき、紗英は息を飲んだ。お互いの視線がぶつかり合い、静かな図書館の中で時間が止まったかのように感じる。
「……紗英、お前、顔赤いぞ。」
蓮がふっと笑う。その軽やかな笑顔に、紗英の心臓はさらに跳ね上がる。
「えっ、そ、そんなことないよ!」
慌てて顔を背ける紗英を見て、蓮はさらに微笑を深める。
「無理するなって言っただろ。素直に休むか、頼るくらいしろよ。」
蓮の手がそっと紗英の髪に触れ、乱れた髪を直す仕草を見せる。その仕草があまりにも自然で、紗英は再び固まってしまう。
「……お前は頑張りすぎる。もっと自分を大事にしろ。」
蓮の声は静かで穏やかだったが、その中に紗英を気遣う真剣さがにじんでいた。紗英は思わず蓮を見つめ、胸の中で膨らむ温かな感情に気づき始める。
「ありがとう……蓮。」
「いいさ。それが俺の役目だ。」
蓮の言葉に紗英の心がじんわりと温かくなり、隣で彼と過ごすこの瞬間が、彼女にとって特別なものに変わっていくのだった。