♡ 赤い炎
午後の授業は「魔術実技演習」。学院の広い訓練場に生徒たちが集まり、教師の指示を受けながらそれぞれの課題に取り組んでいた。訓練場は屋内でありながら高い天井と広い空間を誇り、魔術の練習で生じるエネルギーや爆発音が響き渡っている。光の魔法、風の操作、召喚術など、各自の得意分野が次々と披露されていく。
「花村紗英、次は君の番だ。」
実技担当の教師、浅井玄一が紗英を指名する。黒い陣羽織をまとった彼は厳しいが、公平な指導で生徒たちから一目置かれている存在だった。
「は、はい!」
緊張しながらも一歩前に出る紗英。今日の課題は「魔力の制御を用いた火球の生成」。魔術の基本ではあるが、未熟な魔術士にとっては魔力の暴走を防ぐ繊細な技術が求められる。
紗英は目を閉じ、心を静めるよう深呼吸をした。そして手を前に差し出し、集中して魔力を指先に集める。すると、ぽうっと小さな赤い光が現れ、それが次第に炎へと変わっていった。
「いいぞ、その調子だ。」
浅井の声が飛ぶ。だが次の瞬間、炎の勢いが急激に増し、紗英の周りに熱風が巻き起こる。
「紗英、力を抜け!」
蓮が後ろから叫ぶが、紗英は必死に炎を制御しようとする。しかし魔力は暴走し、火球はさらに膨らんでいく。
「まずい!」
浅井が魔法陣を描き、制御魔法を発動しようとしたその時、蓮が紗英の背後から飛び出した。
「落ち着け、紗英!」
蓮は紗英の手を掴み、その手に自分の魔力を注ぎ込むように集中する。冷たい風が二人を包み込み、紗英の炎は徐々に弱まっていった。やがて火球は小さな光の粒となり、完全に消えた。
紗英はその場にへたり込み、息を切らしていた。
「ごめんなさい……私、また失敗して……」
顔を伏せる紗英に、蓮は静かに手を差し出した。
「お前の力はすごい。ただ、まだ使い方を学んでいないだけだ。」
彼の声は冷静だが、優しさが感じられる。紗英は躊躇しながらもその手を取った。
「次は俺が隣で見ててやる。だから諦めるな。」
蓮の言葉に紗英は少しだけ笑顔を浮かべ、頷いた。
その後、授業は無事に終了したが、紗英の胸には蓮の温かい手の感触が残り、なんとも言えない気持ちでいっぱいになっていた。