表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/20

魔導の指輪「カデンツァ」

時は大正時代。華やかな文明開化が進む一方、社会の裏には「魔術士」と呼ばれる人々が密かに存在していた。彼らは魔術を操り、国家や名家に仕える一方で、平民との関わりを禁じられていた。


物語は、魔術士の家系でありながら没落した平民の少女はなむら 花村紗英さえと、華族出身であり魔術界でも名高い一族の御曹司有馬蓮ありま れんとの身分さの恋物語。 


大正時代を背景に、今、魔術師たちのバトルとスクールラブの物語が始まる。

挿絵(By みてみん)

「紗英、やめろー!」


有馬蓮の叫びが学院中庭に響いた。


紗英の右手に輝く銀色の指輪。中央の赤い宝石は、脈打つように光を放ち、周囲の空気を歪ませている。彼女の足元から吹き荒れる風は、まるで全てを拒絶するかのように蓮を寄せ付けない。


「蓮……ごめんね。でも、私にはやらなきゃいけないことがあるの」


声は震えていたが、その瞳には決意が宿っていた。



紗英の胸の奥にあるのは、幼い頃から何度も耳にした家族の言葉。


「この指輪は、持つ者が大切なものを守るための力を授ける――」


今ではその言葉が何を意味するのか、痛いほど分かる。自分がこの世界で負うべき役割を。




「私が……この世界を守らなきゃ!」


紗英が叫ぶと、指輪の赤い光が爆発的に輝き、巨大な魔法陣が足元に浮かび上がる。力を暴走させている指輪は、紗英の魔力をどんどん吸い上げ、彼女の体に耐え難い負荷をかけていた。




「紗英! お前の体が壊れる!」


蓮が力いっぱい叫ぶが、紗英は振り返らない。ただ前を見据え、指輪に手を添えたまま、力を解き放つ準備をしていた。



「みんなの未来を……私が守る!」


紗英の叫びとともに、指輪から放たれる力が光となり、学院全体を包み込む。そのまばゆい輝きの中で、蓮はただ叫び続けた。




「紗英ーーーっ!」


【半年前】


夕焼けの空が茜色に染まり、街灯に灯が入り始める頃、花村紗英は小さな骨董店の前で立ち尽くしていた。商店街を行き交う人々のざわめきが、どこか遠いもののように感じられる。店の曇りガラスに映る自分の姿が、やけに心細く見えた。


「これだけで……大丈夫?」


手に握った祖父母の遺品を詰めた風呂敷包み。それが紗英の「家族」の全てだった。両親を病で亡くし、祖父母に育てられたものの、その祖父母も数か月前に相次いで他界した。頼る者を失った紗英の生活は、大正という激動の時代の中で、日に日に限界へと近づいていた。


「私は、何のために生きてるんだろう……」


誰に言うでもなく、つぶやく。十七歳という若さには、背負いきれないほどの孤独がのしかかる。


その時だった。


背後から響いた重厚な声。


「花村紗英さんですね。」


振り返ると、そこに立っていたのは異様な風貌の男だった。黒い陣羽織をまとい、片手には錆びついた鉄扇。まるで時代を超えて現れた武士のような姿だ。


「どちら様ですか……?」


紗英の声には警戒心が滲む。だが男は、動じることなく一歩近づいた。


「私は浅井玄一あさい げんいち。君の家に伝わる『指輪』について話しに来た。」


心臓が跳ねた。祖父が大切にしていた、あの指輪。いつも「これは花村家の誇りだ」と言い聞かされていた品。


「どうして……そのことを知っているんですか?」


紗英の手は無意識に帯の中へ伸びる。そこには、祖父から託された銀製の指輪が隠されていた。


浅井は微笑を浮かべ、鉄扇を広げて振るう。すると、周囲の光景が歪み始めた。赤銅色の夕暮れが、淡い青光に染まり、店先には不思議な模様が次々と浮かび上がる。まるでどこか異世界の扉が開いたかのような光景。


「君は選ばれた存在だ。――この国を守るために。」


紗英の目の前に広がる非現実的な光景。それは、彼女の運命が大きく動き出す瞬間だった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ