07 決闘(アル視点)
ミレーヌの兄とかいう男に決闘?を言い渡された。剣術で負ければミレーヌの身の回りの世話と護衛を解任するそうだ。それはすなわちここから出ていけ、ということだろう。
正直、記憶のない今の状態で仕事と住まいを奪われるのは手痛い。
それに何より、ミレーヌともう会えなくなってしまうことが辛い。それほどまでに俺はもうミレーヌに心を奪われていた。一緒にいて世話をするうちに情が移ったのかもしれない。だがそれだけではない何かが、もう俺の中に生まれていた。
「お兄様、なぜこんなことを?こんなことしなくてもアルは怪しい人ではありません」
ミレーヌが兄のクリスへ慌てたように進言している。だが、クリスは張り付いた笑顔を崩すことなくミレーヌへ向ける。
「ミレーヌは優しいからそう思うんだ。そもそも見ず知らずの男をミレーヌの側に置いておくなんて耐えられないよ。せめてその強さを証明してもらわねば納得いかない」
でも……とおろおろするミレーヌに、兄のクリスが顔を近づけてあやしている。距離が妙に近いな。
さっき話をした時の態度といい、兄としてというより一人の男としてミレーヌに接している感が否めない。
心がざわつく。これはなんとしても勝たなければいけない気がしてならない。
屋敷の側にある少し広い空き地のような場所で、ミレーヌの兄と向かい合う。
それぞれ木刀を構えた。ミレーヌの兄の構えからして恐らくはなかなかの剣術使いと見受けられる。
木刀を握る手に力が入る。
「それでは両者よろしいですかな?始め!!!」
ジェームス様がそう言うと同時に、クリスが攻撃をしかけてきた。動きが速い。まるでどこかの騎士かのような洗練された動きだ。
カン!カン!
なんとか受けをとり打ち返すがクリスは怯むことがない。
「へぇ、なかなかやるな」
木刀を合わせながら言うクリスの顔は、ミレーヌへ向ける笑顔とは全く別の生き物のように俺へ冷たい瞳と憎悪を向けている。
カァン!
思い切り木刀を打ち返してクリスを一度遠ざける。このままやられっぱなしは性に合わない。
すぐにクリスの前へ移動すると、木刀を上からひと振りする。それを受けようとするのを確認しながら木刀を止めすぐに横へ振りかぶった。
「!!!」
クリスも気づいて木刀をすぐに合わせるが、急すぎて力が弱かったのか、そのまま木刀が飛ばされた。
クリスの目の前に木刀の先を向けて止める。
「そこまで!」
ジェームス様の声が鳴り響いた。
「お兄様!アル!」
二人とも怪我は?大丈夫ですか?
慌てて駆け寄るミレーヌに、クリスも俺も大丈夫だと声をかける。
「なかなかやるな」
ぽつり、とクリスは呟くと、じっと俺を睨み付けた。
「俺が少し手を抜いていたとはいえ、お前が勝ったことには変わりはない。このままミレーヌの世話と護衛をすることを認めよう」
クリスの言葉にミレーヌは目を輝かせる。
「だが」
クリスは拾った木刀を俺に向けてこう言った。
「ミレーヌの身にもしも何かあった時は、絶対にお前を許さない。地獄の底まで突き落としてやるからそのつもりでいろ」