57 幸せのその先へ
「おめでとう!」
レンブランド夫妻、ラインハッシュとシャルド、駆けつけてきたジェームスが笑顔で口々に祝ってくれている。
クリスはというと、号泣していた。クリスにとっては複雑な心境なのだろうが、ミレーヌにはその姿が泣くほど喜んでくれているように映ったらしい。
「お兄様、泣かないでください」
「ミレーヌ、本当に綺麗だ、綺麗だよ」
クリスはミレーヌの幸せそうな姿を見てさらに号泣する。
(本当によかった、これでよかったんだ。俺ではミレーヌを幸せにすることはできない。俺の望みを、癪だがこの男が叶えてくれた)
「アルフォンス様、ミレーヌのことを抱きしめても?」
クリスが言うと、その場にいた誰もが騒めく。クリスとミレーヌが血の繋がらない兄妹だと言うことは知られており、その関係性を勘繰るものも少なくない。だが、クリスの真剣な表情にアルフォンスは頷くしかなかった。
「ミレーヌ、本当に本当におめでとう。……愛しているよ」
(もう、気軽に会えることもできなくなる。こうして抱きしめることも、触れることさえ叶わない。これが最後だ)
「……ありがとうございます。私も愛しています、お兄様」
フワッと笑うミレーヌの笑顔を、一生忘れないとクリスは心に誓った。
「あれ、どう思う?」
クリスの様子を見て、シャルドが横にいたラインハッシュに小声で聞く。
「どうって、別に」
ラインハッシュのそっけない言葉に、シャルドはへいへいそうですかとつまらなそうに返した。
「ミレーヌ様は愛されているんだろう、どういう形であれ。クリス様はお辛いかもしれないが、あれだけ心から愛することのできる存在がいるのはやはり幸せなことなんじゃないか」
静かに言うラインハッシュを、驚きの目でシャルドは見つめた。
「俺たちにはそう思えるような相手がいないからな」
「出会えるとも到底思えないけどねぇ」
「お前はモテるだろ、女の影が絶えないと聞いてるぞ」
「お、俺様のこと気になっちゃう?ってゆーかお前こそモテるだろ。いつも仏頂面なのにキャーキャー言われやがって」
小声で話をしながら、ぷっと二人で吹き出し、笑う。
「いつか出会えるんだろうか、俺たちも」
「さぁね。でも出会えようが出会えなかろうが、俺たちは今でもじゅうぶん幸せでしょうよ。あのお二人の側にいられるんだから」
レンブランドとアルフォンスを見てシャルドは満足げにつぶやく。そしてラインハッシュもまた、その言葉に頷いた。
「そうだな、俺たちも愛をもらっているからな」
「そうそう、その愛にちゃんとお答えしていかないとね」
お、そうだとシャルドはラインハッシュを見て笑う。
「俺様もお前のことちゃんと愛してるから安心しろよ」
「やめろ、お前が言うとなんか気持ち悪いんだよ。……ま、そんなことはわかってるけど」
「だったらこれからもちゃんとその愛に応えろよ馬鹿」
「馬鹿馬鹿うるさいんだよ馬鹿」
ラインハッシュとシャルドが小突き合いを始めた様子に気づいたレンブランドは、二人を見て嬉しそうに微笑んだ。
結婚式が終わったその日の夜。ミレーヌは寝室で一人ソワソワしていた。
(今日は、初夜、ということになるのかしら……どうしよう、アルフォンス様と、そ、そういうことをするの?!)
コンコン、とドアがノックされる。
「ミレーヌ、入るよ」
「は、はいっ!」
思わず声が裏返ってしまう。
(どうしよう、とても恥ずかしい……!)
部屋には入ってきたアルフォンスは、クスクスと笑っている。
「緊張しているのか?」
ベッドの端に座るミレーヌの横に座り、アルフォンスはミレーヌを見つめて微笑む。
「き、緊張します!アルフォンス様はそんなことないのかもしれませんが……」
「様はつけない。もう夫婦なんだから。敬語もなしだ」
アルフォンスは少し怒ったようにミレーヌに言いながらミレーヌの手を握る。
「ごめんなさい、アルフォ…アル」
言い直すとアルフォンスは優しく微笑んだ。
「俺だって緊張してるよ。ずっと触れたくてたまらなかったミレーヌの全てに、今日こうして触れることができるんだから」
ミレーヌの手を取って自分の胸元に当てる。ミレーヌの手には、アルフォンスの心臓音が伝わってくる。その音は予想以上に早い。
(アルも緊張しているんだわ……)
思わず自然にほうっとため息をつくと、アルフォンスがミレーヌの頬に手を添えて優しく口づけた。
(暖かい……)
唇をゆっくりと離しミレーヌを見つめるアルフォンスの瞳は、どこまでも果てしない優しさを含んでいた。
「愛しているよ、ミレーヌ。どんなことがあっても君だけを愛し、守りぬく。一緒に幸せになろう」
その言葉に、ミレーヌが嬉しそうに微笑み頷く。
アルフォンスはまたゆっくりとミレーヌに口づけ、そのままベットに倒れ込んだ。
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