05 胸のトキメキ ♢
生き倒れたアルを拾ってから数ヶ月が経った。
アルは執事補佐としてジェームスから執事の職務について様々なことを学んでいる。
執事、というお堅い感じよりも身の回りの世話係として私の側にいると言うのがしっくりくるかもしれない。
今ではメイドのリルラよりも私の側にいることが多い。そのことについてリルラは
「ミレーヌ様をとられたような気がして気にくわないです」
そう言ってアルを最初は煙たがっていたが、アルの努力を目にして思うところがあったのか最近はずいぶんと静かになった。
今日も、いままでリルラがしてくれていた髪の毛を櫛でとかす作業をアルがしてくれている。
「ミレーヌの髪の毛は美しいな。とかしがいがある」
そう言って優しく髪の毛を触ってくれるのだけれど、正直言って恥ずかしい!
ただでさえ美しいアルに髪の毛を誉められ、その美しい指先で触れられているのだから胸の高鳴りが止まらない。時折指先が首筋に触れるものだから、さらにドキドキしてしまう。
世話係のようなものと言ってもせっかく知り合ったのだし他人行儀なのは嫌だからと名前を呼んでもらい敬語もなくしてもらったのだけれど、その声で名前を呼ばれることがどれだけ胸のトキメキを巻き起こしてしまうのか、その時の私にじっくりと説明してやりたいくらい。
顔、赤くなっていないかしら。
「髪の毛をとかす時にはいつも顔が赤いな、熱でもあるのか?」
あぁ、やっぱり顔が赤くなってしまっているのね!心配そうに後ろから覗きこまれる。美しい金色の瞳と目があってしまって、思わずそらしてしまった。
「熱はないわ、大丈夫。あなたに誉められてちょっと恥ずかしいだけだから」
クスッ、と小さく笑う声がしてアルを見ると、まるでとてもいとおしいものを見るような瞳をして優しく微笑んでいる。
どうしてそんな顔をするの。そんな顔をされたら、勘違いしそうになってしまう……!
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