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43 邪魔な女

「これはこれはクラリーゼ様。お元気そうで何よりです」

「あら、シャルド。アルフォンスお兄様を守れない無能な側近がまだお兄様の側にいるのね」


 ティムール王国王城内の庭で話をしていた、アルフォンスとミレーヌ、クラリーゼの元に、シャルドが顔を見せる。


「クラリーゼ」

 シャルドを無能呼ばわりされたことが余程気にくわなかったのだろう、アルフォンスの声音はドスが効いていた。


「だって!お兄様は危うく殺されかけたのでしょう?お兄様が隣国に逃げなければならなかったのも記憶を失ったのもシャルドがきちんとお兄様を守ることができなかったからじやない」


 頬をふくらまし涙目で言うその姿は一般的に見ればとても可愛らしいものだろう。だが、その姿に反して言葉には相当な刺がある。


「シャルドはいつだって俺のために最善を尽くしてくれているんだ。それをそんな風に言わないでくれないか」

 表情を変えず淡々と言うアルフォンスに、さすがのクラリーゼもしゅん、となった。


「……わかりました。ごめんなさい、アルフォンスお兄様」


「そんなことよりクラリーゼ様。アルフォンス様が隣国に逃げたことも記憶を失ったことも限られた人間にしか知らされていませんが、なぜクラリーゼ様は知っておられるのですかね」


 シャルドの言葉に、クラリーゼの表情が一瞬だけ固まる。だがすぐに可愛らしい笑顔をシャルドに向けた。


「あら、私だってこれでも侯爵家の者ですもの。それに一度はアルフォンスお兄様の婚約者候補になったのですから、アルフォンスお兄様のことについては情報が流れてきますわ。それの何がおかしくて?」


 アルフォンスの手を握ったまま可愛らしく首をかしげる。


(このお方はこういうことをいけしゃあしゃあとやってのけるからな。怖い怖い)


 クラリーゼの返答に口の端をあげながらシャルドは心の中でつぶやいた。


「悪いがそろそろ城内に戻るとするよ。クラリーゼ、久々に会えてよかった」


 クラリーゼはアルフォンスの言葉にぱあぁぁっと顔を輝かせる。


「私もお兄様のご無事な姿を拝見できて嬉しいです!またそのうちゆっくりお話しましょうね!……そうだ」


 アルフォンスからミレーヌへ目線を移し、クラリーゼはとびっきりの笑顔を向けて言う。


「ミレーヌ様も、まだ当分こちらにいらっしゃるのでしょう?またお話したいわ。そのうち女同士二人っきりでお茶会でもしましょう」


 ね?と頬笑む顔は相変わらず可愛らしいが、ミレーヌにはその笑顔すら恐ろしく感じられた。





「相変わらずでしたね、クラリーゼ様は」

 庭から城内へ戻るために三人で歩いていた。クラリーゼから距離が離れたことを確認すると、シャルドはあきれたように言う。


「まったく。見た目だけは可憐で可愛らしいのだが」

 アルフォンスもため息をついた。


 ふと、シャルドがミレーヌを見て声をかける。

「ミレーヌ様、大丈夫ですか?嫌だったでしょう。申し訳ありませんね」


 アルフォンスとシャルドの様子にミレーヌは心細さと不安を感じていた。だが、こんな時にここでそんな様子は見せてなるまい、と思っていたのだが、シャルドにはバレバレだったらしい。


「いえ、そんな……」

「あの方の言うことは気にしちゃいけませんよ。ミレーヌ様のことを良く思ってはいないでしょうからきっとこれから嫌がらせを受けるかもしれませんが、その時は我慢しないで俺やアルフォンス様にちゃんと助けを求めてくださいね」


 シャルドの言葉に一抹の不安を覚えるが、嫌がらせの類いは昔から身近な人物でじゅうぶん慣れている。


「大丈夫です、ご心配ありがとうございます」

 笑顔で答えるが、アルフォンスが眉をしかめながらミレーヌの髪の毛をそっと指でとかした。


「そうやってまた一人で抱え込もうとするな。俺達をちゃんと頼ってほしい」

「そうですよ。あの方が色々気になることを言っていたでしょう、婚約者になりそうだったとかなんとか」


 シャルドの言葉に思わず顔をあげるど、アルフォンスと目が合う。


「それについてはしっかりアルフォンス様から説明がありますから。ね、アルフォンス様」

「あぁ、城内に戻ってゆっくり話そう。ミレーヌに勘違いをされては困るからな」





 アルフォンス達が立ち去るのをクラリーゼは冷ややかな目で見つめていた。


「あれが邪魔な女ね。アルフォンスお兄様の横に当然のようにいるなんて信じられない。それにシャルドも相変わらず気にくわない嫌みな男ね」

 ドレスのスカートの布地をギュッとキツく握りしめ忌々しそうに言うクラリーゼ。


「アルフォンスお兄様と一緒になるのがふさわしいのは誰なのかちゃーんと教えてあげなきゃ」


 うふふ、とクラリーゼは意地悪な笑みを浮かべた。



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