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32 償い

 大粒の涙を流し、嗚咽を漏らすレンブランドを見て、ラインハッシュの顔が一瞬だけ悲しそうに歪む、ように見えた。


「お前が俺を殺すことができないなら、俺がやる」

 そう言ってラインハッシュはレンブランドを突き飛ばし、そのままミレーヌの元へ剣を構え走り出した。

 ミレーヌの前にはアルフォンスとクリスがミレーヌを庇うようにして剣を構えている。


「お前の相手は俺だって言ってんだろ!」

 シャルドが突然攻撃魔法をラインハッシュに向け、それをラインハッシュが避ける。が、その間にシャルドが間を詰め、剣を振り下ろす。

 剣と剣が激しくぶつかりあうが、シャルドが優勢だ。シャルドの剣がラインハッシュの剣を弾き、そのままラインハッシュの剣は宙を飛んだ。


「お前みたいな馬鹿には剣なんか必要ないんだよ」

 そう言ってシャルドはラインハッシュに拳を入れ、さらに腹部に蹴りを食らわせる。


「ガハッ」

 そのまま吹っ飛び、床に横たわるラインハッシュ。

「お前はいつも俺に勝てなかったもんな。唯一魔法だけはお前の方が得意だったが、発動させなければいい」

 そう言って、シャルドはラインハッシュの腹部に足を押しつける。

「グェ」

 苦しそうに呻くラインハッシュ。


「シャルド様!」

 ミレーヌが思わず叫ぶが、クリスがそれを制した。


「いいか?簡単に死ねると思うなよ?お前は生きて償わなければいけない。レンブランド様とアルフォンス様に。そして、この俺にもだ」

 ラインハッシュのお腹に足を押しつけたまま、冷めた瞳で見下ろすシャルドだが、ミレーヌの目にはそのシャルドの表情にほんの少しだけ悲痛さが見えた気がした。


 騒ぎを聞きつけて近衛兵が駆けつける。

「シャルド様、これは一体……」

「こいつを魔法縄で縛って地下牢に連れていけ。魔法が発動できないように普通の縄ではなく魔法縄で、だ」

「シャルド様!」

 ミレーヌが懇願するようにシャルドを見つめるが、シャルドは踵を返す。


「これはこちらの問題です。あなたを巻き込んだことは本当に申し訳ないと思っていますが、こちらの国の事情に首を突っ込まないでいただきたい」

 シャルドの言葉に一瞬苛立ちを覚えるクリスだが、ミレーヌがこれ以上関わることは良しと思わないので黙っていた。


 シャルドの言葉を聞いて、ミレーヌは目を瞑りすうっと深呼吸した。


「お待ちください。みなさんにお話したいことがあります」

 そう言って目を開けしっかりとその場を見渡すミレーヌの顔には、とてつもなく硬い意志のようなものが見えた。




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