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21 ラインハッシュ ♢

「建国祭は昨日で終わりだ。ここにいていいのは建国祭までと言ったはずだが、お前達はまだここにいるのか?」

 眉間に皺を寄せクリスお兄様がアルフォンス様たちに言い寄っている。


「クリス様、アルはまだ記憶を取り戻せていないようです。そんな状態でここを追い出し、それがもし旅芸人の一行に伝われば、瞬く間に色々な国や地方に知れ渡ってしまうでしょう。旅芸人は顔が広い。そんなことになればハイエンド家の名も地に落ちてしまいます」


 ジェームスの話にクリスお兄様はふむ、と顎に手を乗せて考える仕草をする。アルフォンス様の美しさにばかり目を奪われていたけれど、やっぱりクリスお兄様もまた違った美しさがあるわ。


「記憶、ね。そのことで君たちに聞きたいことがある。ジェームス、お前もだ。ミレーヌ、申し訳ないのだけれど君は席を外してもらえるかな」

 クリスお兄様は笑顔だけれど有無を言わせぬ表情だ。こういう時のお兄様は怖い。


「……わかりました。ちょうど飲みたい茶葉の収穫があるので、茶畑に行ってますね」

「悪いね、終わったら声をかけるよ」





 自分で育てた茶葉を収穫するのはいつだって楽しい。でも、今日は楽しめない。

 クリスお兄様の聞きたいことって何かしら。アルフォンス様達のことがバレた?それともやっぱり理由をつけて無理矢理にでも出て行かせるおつもりなのかしら。

 ぐるぐると色々なことが頭の中を巡ってしまう。どうしましょう、私は一体どうしたらいいの。


「すみません」

 背後から声がして驚き、思わず振り返るとそこには一人の男性がいた。フードを被っていて顔はよく見えないのだけれど、声音は明るく優しそうだ。


「こちらがハイエンド家のお屋敷と伺ったのですが、ミレーヌ様はいらっしゃいますか?」

「あ、はい、私がミレーヌですが」


 名乗ると、その人はフードから驚いたという顔を覗かせる。

「ハハッ、そうですか。いや、すみません。茶葉を収穫なさっていたのでてっきりメイドか何かかと。いや、よく見れば確かにお召し物は高級感がある」

 クスクス、と楽しそうに笑っている。なんだろう、気さくな方だわ。


「それならちょうどよかった」

 あまりに小さい声だったのではっきりとは聞こえなかったのだけれど、そう聞こえたような気がする。


「ここに、アルフォンス王子がいますよね。シャルドも一緒に」

 フードの陰から目を光らせてそう言うので思わず心臓が飛び出そうになる。この人は一体何者?アルフォンス様達を狙っている人なのかしら。とにかく、冷静を装わなければ。

「?なんのことでしょうか」


「ふっ、ハハハ。警戒しないでください。私は敵ではありませんよ。むしろ味方です。確かに第二王子を探してはいますが、どうこうしようなんて思っていません」

 フードを下ろしながら、その人はそう言った。

「申し遅れました、私の名前はラインハッシュ。ティムール王国第一王子レンブランド様の側近です」


 第一王子の側近!?なぜそんな人がここに?どうしてこの場所がわかってしまったのだろう。


「あぁ、そんなに警戒しないで。誤解をしているようなので説明しますけど、レンブランド様はアルフォンス様を殺そうなんて思っていません。むしろ仕組んだのは旅商人のサイオスという男です。レンブランド様はアルフォンス様の誤解を解きたいと、その一心のみで私をここに使わしました」


 屈託のない笑顔でその人はスラスラと述べている。

「ですが、直接私が会おうとするとアルフォンス様もシャルドも警戒するでしょう。だから、あなたに協力してほしいのです」

 美しいサファイア色の瞳は、私をしっかり見据えて離そうとしない。どうしましょう、怖いのに、視線を逸らすことができないなんて。


「ご兄弟はそれはそれはとても仲睦まじいご兄弟でした。それなのに、今回の事件ですっかり決別させられてしまった。かわいそうだと思いませんか?私はお二人を元の仲の良いご兄弟に戻したいのです」

 確かに、お二人は仲が良いご兄弟だったという話は聞いている。そして、この人が本当にそれを望んでいるのだとしたら。


「今までに起こった全てをあなたにお話しします。そうすれば信じてもらえるでしょう。ただ、ここだとアルフォンス様に見つかり、もしかすると逃げられてしまうかもしれない。あなたもそれは困るでしょう」

 だから、とその人は私の手をとってにっこりと微笑んだ。


「ゆっくりお話しできる場所を設けますので、一緒に来ていただけませんか」





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