19 抱きしめたい(アルフォンス視点)
ミレーヌの兄クリスのおかげでミレーヌと一緒に建国祭を周れることになったけれど、ミレーヌが静かだ。兄のためにと言っていたが、やはり自分の置かれた立場を悲しんでいるに違いない。
ここの家族はおかしい。ミレーヌの父は実の親のくせに後妻の言いなりのようだし、ミレーヌを溺愛しているクリスでさえも母親には逆らえないらしい。一体、ミレーヌの継母はどんな恐ろしい女なんだ。
「ミレーヌ、大丈夫か」
顔にかかる髪をそっとすいて聞くと、ミレーヌは顔を赤らめて驚く。そんなところも可愛いな。
「だ、大丈夫です。すみません、ご心配をおかけして」
無理して微笑むミレーヌが健気で愛おしい。どうしてこの子はこんなにも自分より他人を優先してしまうのだろう。
生い立ちのせいなのだろうか。その優しさは美しく素敵なものだが、時に自分へ刃を向け身を滅ぼしかねない。
「いいんだ、こうして二人で建国祭を巡ることができるんだ。かえってよかったよ」
「ちょっとお二人さん、二人の世界に入っちゃってますけど俺のこと忘れてやいませんかねぇ」
後ろからシャルドの声がする。
「別に忘れてはいない。そういえばお前もいたな、と思うくらいだ」
「何それ、ひどくないですか、ねぇミレーヌ様なんとか言ってやってくださいよ」
俺とシャルドの掛け合いを聞きながら、くすくすと楽しげにミレーヌが笑う。
「よかった。やっぱりミレーヌには笑顔が似合う」
そう言うと、ミレーヌは驚いたように両目を見開き、そして嬉しそうに満面の笑顔を向けてくる。
「ありがとうございます」
ふわぁっとそこらじゅうに光が刺すような暖かい笑顔だ。あまりの愛おしさに抱きしめたくなる。
「おい、少しの間いなくなってくれないか。無理なら後ろを向いてくれ、今ミレーヌを抱きしめるから」
「はぁ?何言って……」
シャルドが呆れた抗議の声を上げようとして、一瞬止まる。何かに気づいたようだ。
「よかったですね、俺様ってば急用が出来ちゃいましたよ。夜までには屋敷に戻ってくださいね」
それじゃ、とシャルドは急足でどこかに向かっていった。
「あの、シャル……シェール様はどうなさったのでしょう。何かあったのでしょうか」
ミレーヌが心配そうに言う。シャルドのことは外では念のためシェールという偽名で呼ぶことにしてある。
シャルドのあの様子だとおそらく追っ手を見つけたか、もしくはこちらの密偵から何か連絡が来たかだろう。
「大丈夫だ、あいつのことなら心配ない。そんなことより、今すぐ抱きしめたいのだが?」
「こ、こんな人の多いところでですか?!」
「人気の少ないところでならいくらでも構わないのか?」
有無を言わさずぎゅっと抱きしめると、腕の中でいじわる〜!という可愛い声が聞こえた。




