18 建国祭最終日 ♢
建国祭最終日。今の所特に動きはないようで、ただ黙っているだけでは息がつまるだろうからと建国祭を見に中心部の街へ出かけることになった。
「なぜクリス様までご一緒なんですか」
「当たり前だろう、ミレーヌの隣に立つのは俺だよ。お前達は少し後ろを歩いていればいい。一緒に行くだけでもありがたいと思ってくれ。ミレーヌが一緒でないと行かないと言うんだから仕方なくだ」
そう、そうなのです。お兄様がせめて最終日だけでもと声をかけてくださったのだけれど、自分だけ建国祭を楽しむなんてできない。だからせめてアルフォンス様達もご一緒に、と思ったのだけれど。
「街に出るのはかえって危険でしょうか?」
こそっとシャルド様に聞いてみる。もし街に出てアルフォンス様を狙っている者達に出くわしてしまったら、その危険性を今になって考えてしまう。
「いえ、どこにいたって危険なのは違いありませんよ。でもこんな建国祭という隣国の大事な時期に、わざわざ目立つようなことはしないと思います。奴らだって馬鹿じゃありませんからね」
それに、とシャルド様がにっこり笑う。
「もし俺達が留守番するとなると、きっとあなたも建国祭には行かないと言い出すでしょう。それではアルフォンス様がしょげてしまいます。自分のせいでミレーヌ様が楽しみにしていた建国祭に行くことができなくなるって。だから、気にしないでいいんですよ」
ね、とウィンクされてしまい、なんとなく頬を赤らめてしまう。この方はきっととんでもない人たらしなんだわ。でも、そんな風に言ってもらえてホッとした。
「ウダウダ考えていても何も始まりませんものね。せっかくの建国祭、楽しみましょう!」
「そんなことより、アルはまだ記憶が戻らないのか?もう建国祭最終日だぞ。旅芸人のくせに、舞台に上がらないでどうするつもりだ」
なんだかんだ言ってアルフォンス様達の事を気にかけている様子。ブツブツというお兄様に、思わず苦笑してしまう。
本当はアルフォンス様と二人で建国祭を周りたかったのだけれど、なぜかお兄様がピッタリと私の横にへばりついて離れない。
「ミレーヌ、ここのお店来たかったんじゃないかい?前にこの店の刺繍がとても素敵なのだと言っていただろう」
お兄様ったら、随分前の事をよく覚えていらっしゃるのね。でも、それがとても嬉しい。私にとって家族というものは、もうお兄様一人と言ってもいいようなものだから。
「これはこれはクリス様ではありませんか!……おや、妹君とご一緒でしたか」
街中を巡っている最中、お兄様に見知らぬ紳士が声をかけた。着ている服や持ち物からするに何処かの貴族の方のようだ。
私を見る視線が冷たい。クリスお兄様にとっては実母であるお継母様によって辺境の地へ追いやられた妹=私の存在は貴族中に知れ渡っている。どんな理由で追いやられたことになっているのかはわからないけれど、きっと有る事無い事勝手に尾ひれをつけて噂されているに違いない。
こんな私なんかと一緒にいると、クリスお兄様の立場も危うくなってしまう。
「お兄様、私は他にも色々と見て周ってきますので、どうぞそちらの方とお話をなさっていてください」
「いや、しかしミレーヌ……」
引き止めようとするお兄様にご挨拶をして、その場を後にした。背後でアルフォンス様達もお辞儀をして追いかけてくるのがわかる。
「いいのか、あれで」
「いいんです、そうした方がお兄様のためですから。お兄様に迷惑をかけたくないんです」
そう言うと、アルフォンス様が悲しげに微笑んだ。




