01 出会いは突然に ♢
題名に♢がついているものは主人公視点になります。
なんて美しい人なのだろうと思った。気を失って目を閉じ横たわっているのだけれど、そんな状態でもわかる美しさ。
その場がまるで清浄化されているような、キラキラとまばゆい光を放っているような。
彼との出会いはあまりにも突然だった。
「お嬢様、お待ちください!」
執事のジェームスが後ろから追いかけてくるけれど、早く帰りたくて仕方ないのだから待てと言われても無理なの。
舞踏会に私のことを毛嫌いしているお継母様もいるのだから、一刻も早くその場から逃げ出したいに決まっているじゃない。
私が赤ん坊の時に亡くなったお母様の代わりに後妻としていらっしゃった新しいお継母様は、私の姿を見た途端に嫌そうな顔をした。あの顔は今でもはっきりと思い出せる。
そして
「その顔を見るのは耐えられない」
そう言って私を辺境にある領地の1つに追いやった。あれは私が14歳の時。
今日の舞踏会でも私に対する当たりは相当キツかった、もう気にもしていないけれど。
「ミレーヌ、もう帰るのかい?」
「クリスお兄様」
呼び止められて振りかえると、そこには美しいサラサラの金髪に蒼い瞳。色白でスラッとした身体。お母様の連れ子、クリスお兄様がいる。
やっぱり今日もお美しい……!
「ごめんなさい、クリスお兄様。こういう華やかな場は苦手で」
そう言うとお兄様は憂いを秘めた顔を向けてくる。私の返答にそんな悲しげな顔をしないでください!すごく申し訳なくなってしまうから……。
「君はいつも人の少ない辺境の地にいるからね。仕方ないよ。そうなってしまったのは母のせいでもあるし……寂しい思いをさせてしまってすまない」
「いえ、いいんです。お兄様が会いに来てくださるから寂しくなんてありませんわ。それにごちゃごちゃした場よりもゆったりとした住まいで気に入っています」
にっこりと微笑むとお兄様もつられて嬉しそうに微笑んでくれた。やっぱりお兄様には笑顔が似合うわ!
「またそのうちお土産を沢山持って会いに行くよ。お母様の目を盗んでね」
そう言ってお兄様はウインクする。美しすぎてなんて絵になるのかしら。
「はい、お待ちしていますね!」
馬車を走らせてお屋敷近くの森に入る。と、突然馬が嘶き馬車が大きく揺れて止まった。
「一体どうしたの?!」
何があったのかしら。驚いて従者に訪ねる。
「ひ、人が突然道の前に出てきて倒れてしまいました」
人が?まさか轢いてしまったなんてことは……
恐る恐る馬車の窓から顔を出して見ると、確かに人が倒れている。ただの人なのだけれど、なぜか気になってしまったので馬車から降りてみた。
「お嬢様、危ないです、お気をつけください」
そう言われても気になって仕方ない。近づいてよく確かめてみたい。
そして顔を見て胸が大きく高鳴った。
なんて美しい人なんだろう……。
サラサラの黒髪から覗く顔は、目を伏せているけれど睫毛が長く端整な顔立ちをしているのがよくわかる。
クリスお兄様も美しいけれど、それ以上に、なんというか美しいだけでは済まされない高貴な何かを感じてしまう。
それにしても、服装もぼろぼろだし至るところに傷がある。一体何があったのかしら。
「もし、大丈夫ですか?」
肩を揺すって声をかけて見ても反応がない。息はしているようだから死んではいないみたい。
「いかがいたしましょう」
このまま放置しておくわけにはいかないし、かといってお屋敷には戻りたくない。お母様とまた顔を見合わせなきゃいけないなんて無理だわ。
そうなると、答えはひとつ。
「馬車に乗せて。怪我をしているみたいだから治療してあげないと」
お読みいただきありがとうございます。感想やブックマーク、いいね、☆☆☆☆☆等で応援していただけると執筆の励みになります。