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経営者の遺産

作者: 葉沢敬一

毎週日曜日午後11時にショートショート1、2編投稿中。

Kindle Unlimitedでショートショート集を出版中(葉沢敬一で検索)

 未だ悪夢を見る。朝、父が起きてこないので父の部屋の襖を開けると、ぶら下がり健康器に紐を括り付けて首を吊っている父の姿が。


 慌てて下ろし、救急車を呼んだけどすでに手遅れで警察が来る前にどこから知ったのか借金取りが数名来てた。


 いや、警察の方が先だったはずだが、なぜか夢の中では借金取りが先に来ていて家を勝手に漁っていた。


 父が莫大な借金を背負っているとは知らず、家はそこそこの資産家と思っていた。実際、車はベンツとマセラティがあったが、2台とも借金取りに持って行かれてしまった。


 家を売っても返せそうもなかったので、弁護士さんの勧めで相続放棄した。経営していた会社は潰れ、いずれ2代目として継ぐつもりも四散した。


 今は壁の薄いレオパレスの一部屋に移り会社員をやっている。上司に正直に話して辞めようとしたら引き留められ、なんとか食っている。


 結婚の話はなくなった。離婚していた実母に報告したら

「まあ、あの人は見栄っ張りで、昔からそう、中身のない人だったわ」と散々な言われようだった。

 後日、愛人という人が来たけど、お金がないと知るととっとと帰って行った。相続でお金を貰うつもりが借金相続なんてしたくないだろうとちょっと同情する。


 まあ、つむじ風のような出来事で、だけど心の小骨に刺さるものだったのは確かだ。


 さて、一段落したところで、父の経営の何が不味かったのか調べることにした。2代目と目されていたので、起業や、自己啓発の本は沢山読んでいる。僕も継ぐつもりだったので、それなりの勉強はし、目標としてきた。


 何が不味かったのか? 社員さん達に連絡を取り話を聞いて回った。もちろん、迷惑料として菓子折を持って。


 まず、父は従業員を信頼してなかった。無能だと思っていた節があった。低賃金、残業、パワハラ、昭和の時代の企業体質を引き摺っていた。社員のモチベーションは全然上がらず、よって業績も上がらない。経済環境が悪化すればもろにその影響を受ける状態だった。


 そして、薄利多売をしていた。体力のある大企業ならともかく、数十人規模の企業では利益が出ない。ちょっと競争するだけで負けてしまう。


 安く売ろうとすると、客の苦情率も異常に多かった。客質が悪かったのだ。だから回収率が悪く業績が簡単に傾く。


 そんなことを仕事の合間に聞き取り、レポートとしてまとめ、葬儀に来た父の懇意の方たちに送ってみた

 すぐに、電話が掛かって来た。父のゴルフ友達のAさんからだ。


「君、大変だったろうに、貴重なレポートありがとう」

「いえいえ、生前、お世話になったお礼です」

「お金の貸し借りはなかったが、よく話したものだったよ。実は、私の方でこんど会社を作るんだけど役員にならないか?」

「え? いいんですか?」

「このまま潰れるかと心配になっていたけど、やり直す気があるように見えたからね」

「ありがとうございます。一つ条件を付けて良いですか?」

「なんだね?」

「父の会社で転職が決まってない人も雇ってほしいのですが」

「採用するとは約束できないが、面接はさせてもらうよ」

「はい、それでいいです」

「賢者は失敗から学ぶものだ。その努力を続ければ君は一流の企業人になれるだろう」

「そうだといいですが。いえ、ご期待に添いたいです」

「とりあえず、今度の休みにランチでもしよう」


 悪夢は見る。だけど、僕が自殺する夢ではない。


 ぶら下がり健康器は処分し、腰が痛いときは整体にいくことにした。


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