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魔女の日銭稼ぎ

「お風呂にはいりたい」

『チユはいい匂いだよ?』

「うぅ」

 君の基準で誉められても困るのよ。

『あ、そこで砂浴びしようよ!』

「私は遠慮しとく」

 私とミーミルは二日ほど、荒涼とした暑く乾いた土地を進んだ。不便な野宿の旅をつづけ、ようやく町にたどり着いた。

 乾いた大地の裂け目、巨大な谷底にある町ユグカウンダ。

 東西に点在する都市や村々とを結ぶ流通の拠点、ハブと呼ばれる「陸の港」らしく、荷車が何台も行き交っている。

『にぎやかな町だね!』

「商売には良さそう」

 通行税ひとり銅貨十枚に馬一頭あたり銅貨十枚。銅貨十枚は銀貨一枚。銀貨二枚を払い町へと入る。

「高い」

 ミーミルに跨がり道を進む。道は混んでいて牛車や馬車、竜馬にのった旅人もたまに見かける。


『これ、崩れてこない?』

「大丈夫よ、でも圧迫感あるね」

 町の景色は独特で、左右にそそりたつ岩の壁。

 断崖絶壁に挟まれた町の両側に、階段のように石積みの建物が並んでいる。空は左右の崖で切り取られ、川のよう。太陽も一定時間しか当たらないので涼しい。

 目の前が広くなり、中央広場へと出た。

 荷車や竜馬は乗り入れ禁止なので、併設された駐馬場に預ける。ここでも銀貨一枚。

『お水とご飯もらえる?』

「うん、お利口にしててね」

 ミーミルの背中から荷物を外し自分で背負う。

 ずしりと重くて潰されそう。

『あ、お友だち!』

 ミーミルは世話係の少年に引かれ、竜馬の繋がれているエリアへ。友だちが出来るといいね。


 私もまずは屋台で腹ごしらえ。

 揚げパン二個と果汁入りの瓶詰め飲料のセット。これだけで銀貨一枚。物価が高くて財布があっという間に軽くなる。

 屋台脇のベンチに腰かけてまずは食事。中は野菜と挽き肉の餡。スパイスが利いていて美味しい。


 揚げパンをかじりながら人の流れ、衛兵さんの動きを観察する。どうやら商売をするには広場を管轄する衛兵に「袖の下」を渡す仕組みらしい。

 見たところ小銭、銅貨三枚ほどだろうか。

 怖いチンピラや、冒険者ギルドの武装した戦士が仕切っている町もあるけれど、ここはまだマシなほうだろう。


「宿代を稼がなきゃ」

 気合いをいれていざ商売。

 広場はいろいろな出店が建物沿いに並び、旅の商人や魔法を売る人たちが並んでいる。これは常連か大手の人たちだ。

 私のような「流れ者」は路地裏あたりかな。

 でも薄暗い路地裏も、絨毯を土の地面のうえに広げて、商売をする人たちで溢れていた。

 向こうから二人組の衛兵さんが来た。革の鎧を身に付けて、剣を腰に提げた若い男たち。

「ここで商売したいのですが」

 近づいて、腰のあたりで素早く銅貨三枚を手渡す。

「あんた魔女かい」

「はい『痛み屋』です」

「珍しいな、今日は二人目だ」

 もう一人の衛兵は腰を伸ばしながら手を差し出した。あからさまに要求され呆れつつも三枚の銅貨を手渡す。

「二人目?」

 同業者(・・・)がいるってことか。

 それも同じ『痛み屋』が。

 同じ系統の魔法を使う人がいない訳じゃない。だけど効果は人それぞれ。微妙に異なる。


「路地の、そこでやるといい」

 路地からすぐ、太陽のあたる位置を指差す。

 商品によっては光を嫌うので人気がないのかもしれない。あるいは偽物がバレるのを嫌い、薄暗い路地裏を好む商人もいるだろう。

でも私にとっては一等地だ。

「ありがとうございます」

 ぺこりと礼をすると、衛兵さんたちは広場のほうへブラブラと歩いていった。

 早速、背中のリュックから折り畳み式の簡易椅子を取り出し腰かける。骨組のあるリュック自体が椅子になる構造なので、盗まれる心配もない。

 脇に『痛み屋 ~痛み消し 一回、銀貨一枚』と書き直した看板を立て掛ける。

 これでよし。


「あの……痛みをとってくれるんですか?」

 早速お客さんだ。

 老婦人と若い娘さん。どうやら老婦人のからだの調子が悪いらしい。

「はい。病気や怪我は治せませんが、痛みだけならば消すことが出来ます」

「おねがいします、母がずっと胸が痛いと言っていて……」

「わかりました」

 娘さんに手を添えられて立っている老婦人に、手を触れて痛みを受けとる。

 ドクン、と心臓が収縮する痛み。

 実際に自分の心臓はどうにもなっていない。単に痛覚だけが押し寄せてくる。

 これは心臓の病特有の痛み。消してしまうことで突然死んでしまうことにもなるのだけど……。

「ま、まぁ!? 本当に楽になったわ!」

「よかったわね、母さん!」

「申し上げにくいのですが、心臓の病だと思います。良くはなっていないので無理をなさらず」

「えぇ、お医者様にもそう言われているの。でも、こんなに楽なら忘れちゃいそうだわ」

「これ、少しだけどお礼」

「そんな」

 銀貨三枚を置いて彼女たちは去っていった。

 申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

 心臓の痛みが取れたことで無理をして、身体の負担が増え、逆に命を縮めることになるかもしれない。

 でも私は仕事をするだけだ。


「すげえなアンタ、痛いのを消せるのか?」

「あ、はい」

 次は男の人だった。簡単な歯の痛み。

 けれど評判は評判を呼び、しばらくすると行列が出来るほどに。

 それから商売はすこぶる順調だった。おかげで財布もずっしりに。

 早めに切り上げて今日は休もう。

 痛みを十数人ぶんもらったせいで、全身に痛みの感覚が残っている。何よりも精神的にガタガタだ。

 病気や怪我、中には命に関わりそうな痛みを抱えた人もいた。

 美味しい食事をとり、熱いシャワーを浴び、ふかふかのベッドで眠りたい。あ、ミーミルにも骨付き肉を買ってあげようかな。


「ハァハァ……! ねぇ君ィ、きき、君もぉ、気持ち良く……してくれるのぉ?」


 変なのが来た。

 目は虚ろで口から涎を垂らしている。

 だけど腕には見るも痛々しい火傷。それをボリボリと掻きむしり傷を深めてゆく。

「傷が」

「これぇ? ぜんぜん、痛くないんだよ? ぇへへ、気持ちィイ……! んー、ふぅふぅふぅ」

 路地の向こうから来た男は、痛みを感じていない。

 ブツブツと言いながら、そのまま何処かへ行ってしまった。

 路地には血の痕が点々と残されていた。


 魔法だ。

 魔法で痛みを麻痺させている。

 私の同業者。

 だけどちょっとヤバめの魔法だ。


 衛兵さんは私を「二人目」といった。同業者がこの路地の向こうにいる。いったいどんな魔法を使っているのか興味が湧いた。

 私は荷物を片付けると、薄暗い路地へと足を踏み入れた。


<つづく>

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― 新着の感想 ―
[一言] 6話目は短いながらも土地の風を感じる回です。 >町の景色は独特で、左右にそそりたつ岩の壁。 >断崖絶壁に挟まれた町の両側に、階段のように石積みの建物が並んでいる。 街の風景が短い文章で的…
[良い点] 日銭を稼ぐと言いつつも大盛況だったのはお客様への対応が誠実だったからでしょうか。 さて、近くにいるという同業者ですが地雷臭しかしませんね。(汗) 綺麗なお題目を並べ立ててぼったくりの商売を…
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