どっちもどっち
盗賊にあったせいでモヤモヤする。
なんとか無事だったけれど怖い思いをした。
村と町をつなぐ道は、治安の悪い場所もある。地方領主や王国直轄の「交易路」とは異なり、巡回兵もいないからだ。
すると訳ありの旅人や盗賊など、変な輩が人目を避けて使うことになる。まぁ、私も「その類」なのだけれど。
そもそも私にも落ち度があった。ムスペルが良い村だったせいで安心し油断していた。稼いだところを盗賊に見られたし、仲間の商人の鼻についたのかもしれない。
ある程度大きな町のほうが、稼いでも悪目立ちもせずに安心だろう。
『さっきは怖かった? ボクがいるから大丈夫よ』
「ミーミルありがと。頼りにしてる」
『まかせて!』
竜馬ミーミルが私を背に乗せて、意気揚々と進んで宿。
イザというとき役に立ってほしいけど、こうして旅ができるのもこの子のおかげだ。
私たちはその後も休憩しながら旅をつづけ、岩場だらけの谷間を抜けた。
険しい道が終わりに差し掛かったとき、二人組の冒険者に出会った。
戦士装備の大男と魔女、二人組のパーティ。
戦士の大男は「俺様は正義のハンター! ベイブル」と名乗った。
王国公認「銀色級」冒険者であり旅をしているとか、聞いてもいないのに鎧に刻まれた紋章を見せびらかしてくる。
自己顕示欲が強いのだろうが、逆にわかりやすくて助かる。魔女さんのほうはずっと申し訳なさそうに頭をペコペコ下げていた。
「私は『痛み屋』の魔女です」
二人は私に用があるらしく、通してくれそうもないので仕方なく名乗る。
「ちっ、なんだよ治癒師じゃないのかよ」
あからさまに舌打ちをされた。こんな辺鄙なところに治癒師なんているものですか。
「ベイブル、それは失礼です……」
「あぁ? いいじゃねぇか」
ガサツな感じの戦士に、気弱そうな魔女。
男女二人だけのパーティに私はちょっとだけ興味が湧いた。
単なる旅の友でもなさそう。恋人か夫婦かな?
友人や旅のパートナーが異性と一緒とか、ちょっと無理な気がする。
「俺たちは恋人同士さ! なぁレルラーロ」
バシン! と力強く肩を抱き寄せ、これ見よがしに顔を近づける。
「……いちいち言わなくても」
照れ臭そうに顔を赤らめる魔女さん。
「すてきですね」
聞いてもいないのに説明してくれた。思わず口調が棒読みだったかも。
「こんな美人はそうはいねぇ! 俺好みなんだ」
「やめてったら……」
彼女、魔女のレルラーロさんは恥ずかしそう。でもまんざらでもないのかな?
大男のベイブルさんはガサツな印象で正直、タイプじゃない。
というか、あんなに強く肩を叩いたり、引き寄せたり。痛くないのかなと心配になる。
現にレルラーロさんの頬には殴られたような痕があった。単に冒険の途中でぶつけただけかもしれないけれど。
戦士のベイブルさんは大剣を腰に提げ、使い込んだ鎧で身を固めている。自信に満ちた顔つき、グレーの髪を後ろに撫で付けている。
魔女のレルラーロさんは縮れ気のブロンドヘア。
細目で鼻は潰れぎみ、お世辞にも美人という感じではない。彼女のローブには魔法の紋様が刺繍されている、おそらく邪視避けか対魔法装備だろう。
「俺たちはよ! 盗賊や魔獣を狩る正義のハンターさ。王国から委託されてるんでな。すげぇだろ?」
自慢げに説明をはじめるベイブルさん。
話の波長が合わなさそう。
「盗賊ならさっき遭遇しました」
「なぬっ!? どこだコンチキしょう!」
「一時間ほどこの道を戻ると、倒れていると思います」
魔獣に食い散らかされていなきゃ、だけど。
「あなた平気だったの? 酷いことされなかった?」
魔女のレルラーロさんが心配してくれた。彼女は彼氏とは反対に優しい性格らしい。
「これでも魔女ですから」
「そうなんだ。私じゃ怖くて泣いちゃうかも……この人がいてくれるから……平気だけど」
「おうともよ! 俺様が盗賊なんざブッ倒して賞金いただきだぜ! よし、盗賊の仲間がいるかもしれねぇ、先を急ぐぜ!」
勢い進もうとする彼の腕を、彼女がそっとつかむ。
「あの……ベイブル」
「なんでぇ!?」
「だからその、この『痛み屋』さんに……お願いが」
「あー、そうだったな。チッ! おめぇ、どこか痛いんだっけ?」
いちいち舌打ちがウザい。
「……あの、えと。そういうわけじゃ……ないんだけど……」
彼女は言いにくそう。
どこか痛いのだろう。我慢していても痛みの「臭い」がなんとなくわかる。
「痛みなら消してあげられる」
「ほんとに?」
「うん。治癒はできないけれど、それでもよければ」
「チッ! しゃぁねぇな。早くしろよ! ……おぉ!? こりゃ珍しい竜馬だな!」
『ひぃ!?』
彼氏のベイブルさんがミーミルに気を取られている間に、私とレルラーロさんは近くの岩に腰かけた。
手を添えて、彼女の痛みを取る。
「結界や魔法耐性が強いとうまくいかないよ」
「私の魔法は幻術系ですから。その『惑わし』の魔女なんです」
「それなら大丈夫そう」
私は彼女に手を添えて痛みを吸いとる。
レルラーロさんを近くでよくみると、顔の痣の他に腕や首筋にも変な痕が残っていた。
「あ、すごい……! 痛みが消えてきた」
「うっ」
痛い……。
私は逆に全身がズキズキする。これは拳で殴られた痛み。それだけじゃない、下腹や股間に鈍い痛みもある。
「だ、大丈夫ですか?」
「慣れっこだから」
「そう……なの、すごいわね」
「こういう魔女なので」
平然を装いつつ『痛み箱』に、痛みが消えてゆくのを待つ。
「でも本当に楽になったわ、ありがとう」
「どういたしまして」
彼女は元気になった。
傷は治っていないことを伝えると、それでも感謝された。
「おいレルラーロ! そろそろ行くぞ!」
向こうでベイブルさんが呼んでいる。
「いかなきゃ。これ、お礼になるかな」
彼女が差し出したのはお金ではなく、魔法の丸薬のようなものだった。小指の先ほどの玉だ。
「いいよ」
魔法使いや魔女との取引は、お金ではなく魔法の効果やアイテムの交換でもよい。暗黙のルールというか、名刺交換のようなものだから。
「相手や地面に投げつければ幻を見せるわ。……うまく使ってね」
レルラーロさんがウィンクする。
私はそこで気がついた。
彼女は彼に幻を見せている。
好みの「美人」だと思い込ませている。
「ありがとう」
「じゃ、私いかなきゃ」
私は少し迷いながら、
「痛いなら、彼にちゃんと伝えたほうがいいよ」
殴られ、乱暴されれば誰だって痛い。
そんなことがわからない人間が、この世には大勢いる。レルラーロさんの彼氏はそれに気づいていない。
彼女の痛みを味合わせてやろうかと思ったけれど、けどそれは出過ぎたことだ。
「……うん、ありがと」
「良い旅を」
「あなたも」
私たちはそこで別れた。
『あの男、乱暴だから嫌い』
「わたしも苦手なタイプ」
竜馬ミーミルはバシバシ背中を叩かれて嫌がっていた。
彼女に対する態度と同じ。
支配的で暴力的。
都合が悪くなると殴っているのかも。
だけど、他人の痛みがわからない、それはある意味才能なのかもしれない。戦士がいちいち相手の痛みを想像し、剣を振るのを躊躇っていたらダメなのだから。
でもレルラーロさんも彼を騙している。
「どっちもどっち」
お似合いのカップルなのかもしれない。
暴力だけはいただけないけれど。
『さっきの魔女より、チユのほうが可愛いね』
ミーミルにも幻は効いていなかった。
「うまいこといっても何もないよ」
『チユは可愛い!』
「はいはい」
次の町で骨肉ぐらい買ってあげようかな。
<つづく>




