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思ってたのと違う

「我が神聖王国ムーンヘポリアへは初めての御入国ですね。まず入国審査手続きとなります。こちらの書類にお名前、出身とご職業、入国目的を御記入ください。魔女様でございますから魔力属性をこちらに」

「は、はぁ」

 キリリとしたお姉さんに指示されるがまま、私はペンを走らせた。

 ここは入国審査受付カウンター。正確には神聖王国ムーンヘポリア入国監理ゲートウェイ。

 月の塔を囲む街自体が神聖王国。ここに入国するには水が湛えられた深い(ほり)を渡らねばならず、橋は南北二ヶ所だけ。橋を渡ると必ず入国管理所を通る仕組みになっている。

 かなり厳重で驚く。

「魔法属性『その他』とありますが『痛み屋』はつまり治癒系ではありませんか?」

 受付カウンターのお姉さんの目が鋭く光る。

「あっ、その……本格的な治癒ではないので」

「治ったように思わせるのであれば、幻術系でよろしいです」

「幻術……じゃぁそれで」

 うーん。まぁいいか。メラルも幻炎系って言ってたし。

「魔法で商売をなさる場合、出国時に売り上げの2割、出国税を頂きます」

「えぇ!?」

「何か?」

「いえ」

 なんだか思ってたのと違う……。

「身に付けていただく入国許可バッジに魔法カウンターがございますので、それで申請頂きます」

「わかりました……」

 虚偽申請はできないってことね、厳しい。


「では書類関係はこれでオーケーです。審査するあいだ、あちらのビジターセンターで三十分ほどの講習を受けていただきます

「え」

 まだあるの!?

「規則や禁止事項などの説明です。住民と訪問者様が互いに気持ち良く暮らすためのルールだと思ってください」

「うぅ、わかりました」

 何これクソめんどくさい。

 月の塔は冒険とワクワクに満ちた、ふわっとした「夢の国」のイメージだったのに。


 メラルもメンバーも特に何も言っていなかった。入国審査で書類を書かされて講義を聞く。これってもしかして普通? 今までがガバガバだったのかな……。

「受講後にお渡しする『入国許可バッジ』を身に付けていませんと衛兵に拘束されます。ご注意ください」


 神聖王国を名乗るムーンヘポリアは厳格だった。

 遠くから街全体を眺めた印象は、白い漆喰の建物ばかりで綺麗で素敵。天にも届きそうな塔が神秘的で、壮大な夢とファンタジーを予感させてくれた。

 でも入国するとなると厳重で、国自体が要塞のよう。

 先日までいた湊町ポポロノイカは真逆でカオスだった。雑多でうるさくて賑やか。

 どちらが良いとかではなく、ギャップに驚く。まぁこれが旅の醍醐味なのだけど。


「なんか……めんどう」

 つい口にしてしまった。ていうかこんなの聞いてない。メラルに恨めしげな視線を向ける。

「ごめんねチユ! 決まりっスから」

 メンゴメンゴのポーズで謝る彼女にとって、これは当たり前なのだろうけれど。

「うん」

『ボクはー?』

「ミーミルは他の馬たちといっしょに、あっちで消毒だって」

 商人の馬や水牛が、係員たちに白い粉をぶっかけられている。

『小麦粉?』

「あれは石灰、消毒するっス」

『やだー!』

「がまんして。じゃないと神聖な国には入れないんだって」

『うー』


 はっ!?

 もしかしてアプローラはこの事を知っていた?

 だから一緒に来なかった? 

 あとで塔の上で会いましょう、と言っていたっけ。それはつまり、空を飛んで入国すると特別許可が下りる的な理由? 


 アプローラについてのモヤモヤはさておき、まずはビジターセンターへ。 

 森を抜けるまでのウキウキ気分もどこへやら、私は行商人や旅の魔法使いたちに混じり授業のような形式で講習を受けることになった。

 お茶とお茶菓子は自由にどうぞと言われたので、腹いせに焼き菓子をボリボリ食べまくる。


 ――じゃ明日ギルドで会おう!

 馬車で一緒に来たベイルカルダさん一行ギルドメンバーは塩を売りにいき、今日は解散するらしい。


「オラはチユに付き合うッス」

 メラルは私に付き合ってくれることになった。見知らぬ土地で友達がいっしょだと嬉しい。

「好き」

「いきなりどうしたっス!?」

「ごめん、脳が疲れてた」

 メラルはビジターセンターの外でミーミルの相手をしながら時間を潰してくるという。


 講習の内容は国の歴史と文化、街での「ふるまい」などなど。挨拶しましょうとか、剣や魔法で戦わないというような基本的な行動制限についてだった。


 神聖王国ムーンヘポリアは『月の塔』を守るために神託をうけた王国の始祖が興した国。貴重な金属を採掘、加工して貿易することで莫大な富を得ている国らしい。

 要はお金持ちの国だ。塔周辺の森約百キロメルテが国家の主権の及ぶ領土。経済は主に塔で採集される品々や、地面から採掘する貴重な金属資源で成り立っているという。

 森で獲れる恵み、つまり魔獣の肉や毛皮も重要だけどメインは金属の採掘。

 大昔に天から落ちてきたという伝説の『月の塔』は、地中深くに突き刺さり地下と地表に破片をまき散らした。

 それは魔法の超硬質金属「ミスリル系メタル」の材料であり、世界でここでしか採掘できないのだとか。

 地面を掘って出た土砂は積み上げられて街の基礎となり、採掘された金属片は超高温で精錬、延べ棒として他国に売る。

 ミスリル系メタルの延べ棒は二の腕ぐらいのサイズで金貨百枚以上するとても高価なもの。だから入国を厳しく制限しているのね。

 当然、高価な品を安全に輸送するための『護衛業者ギルド』も発展。街はさらに大きくなった。

 ちなみに採掘と金属精錬に関係する土属性、火属性の魔法を使える人間はとても重宝されるという。

 最初に魔法属性を書かされたのはそういう理由があったのか。私は特にスカウトされる要素は無い。

 メラルは火属性だけど「幻炎」なので金属は溶かせない。護衛業者系のギルドに籍を置いているのは適材適所というわけね。

 一時間ほど講義を受け終わったころには、すでにぐったり。


「チユ、おつかれ!」

「メラルの国について詳しくなったよ」

「ようこそムーンヘポリアへ! ミーミルは人気者だったスよー」

 嬉しそうなメラル。すっかりミーミルもなついている。

『チユ、みんなにいろいろ美味しいごはんもらったー』

「あら、よかったね」

 ぎゅっとミーミルを抱き締める。


 さてこれからどうしよう。定番は街ブラして宿屋を探して晩御飯……だけど。


「もう夕方も近いッスから。塔の本格探索は明日にして、ウチにくるっス!」

 夕焼け色の髪を耳にかきあげる。

「メラルの家に?」

「宿屋ほど立派じゃないっスけど、ご飯もあるし何泊でもいいっスから」

「そんな、悪いよ」

「大丈夫! 父母(ちちはは)には連絡済み、竜馬も全然オッケー。うちの庭があるっスから」

 メラルは親指を立てて微笑むと、私の手を引いて歩きだした。

「お、おぅ……」

 ご家族がいて、庭付きの家があって……。ちょっと胸の奥がきゅっとなる。


「ほら、あそこも坑道の入り口。ちょうど坑夫が出てきたっス」

「ほんとだ」

 街を歩くとあちこちに古井戸のような穴があった。泥だらけの男たちが出てきて、女性たちに採掘した金属片を渡すと、水場で頭から全身を洗っている。


「手のひらサイズでも金貨一枚ぐらいの価値はあるっス」

「ミスリルって王さまの装備品とか、そういうのに使われる……んだよね」

 王族や騎士団長の鎧とかそういうのに使われているらしい。みたことないけど。

「魔法の力を宿す金属ッスからね」


 街はゆるやかな坂になっていて、屋台や露店商のならぶ開けたエリアを過ぎ、徐々に住宅街へ。

「かわいい服屋さん」

 お店もかわいくてどこかおしゃれな感じ。

「あっちが雑貨屋でこっちがケーキ屋っス」

「なんか王都よりセンス良い感じ」

「旅人はみんな言うらしいっスね。王都にくらべたら十分の一ぐらいの小さい街ッスけど」

「いや、なんかこう……素敵」

 道を行くひとたちの服装もこじゃれていてセンスを感じる。余裕があるというか、なんというか。


 がっちりと森と堀で守られ、国も豊か。

 だからギャンブルやら何やらでギスギスしない。穏やかに安心して暮らせているのかも。


「明日お店もみてまわろう」

「うん、楽しみ」

「あ、こんにちわッス」

「おやメラル、帰ってきたのかい」

「はいー」

 道端の老夫人に挨拶するメラル。

 地元人がいると心強い。初めての街はいつもドキドキだけど、案内してもらうだけでこんなにも楽しい。


「で、ここがオラの家ッス」

「ぉお」

 月の塔を囲む丘陵の中ほどにメラルの実家はあった。白い漆喰塗りの壁、青黒い瓦の屋根。振り返って街を見渡す。街全体が青白く月の光に近い色合いに統一されていることに気がついた。


 家の前には石畳の道が整備され、十メルぐらいの道幅がある。螺旋状に月の塔につづく回廊のような道になっているらしい。街路樹が道にそって均等間隔に植えられていて、見下ろすとよくわかる。


「ただいまー」

 メラルがドアを開けた。

 家の前には植木鉢と色とりどりのお花。

 二階の窓辺にもプランターに植えられた花が咲いている。なんか品があっていいかんじ……。


「メラル、おかえりー。あらその子がチユさんね」

「おねーちゃん! わ!? 竜馬だ!」

 小綺麗なお母さんと弟君が出てきた。

「友達のチユと相棒のミーミル」

 メラルは私たちを紹介してくれた。

「どうも、チユです。こんにちは。あのその、メラルさんには大変お世話になっておりまして」

 深々と頭を下げる。

「あらまぁ、気楽にしていいのよ。ここは」

 お母さんは栗毛で弟君は赤毛。8歳ぐらいだろうか。瞳の色はグリーンぽくて綺麗。

「あ、これ弟のヒカル」

「かわいい」

 弟君はミーミルに飛び付いてモフモフしはじめた。


「ちなみにカプルとセルラは隣だから、あとで遊びにくるって言ってたッス」

 となりの家を指差す。同じような家があって、家の前に訓練用らしい木刀や人間を模った人形が置いてある。


「ほんとに仲良しなんだね」

「互いにご飯を食べに行き来するくらいは」


<つづく>

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― 新着の感想 ―
[一言] > 係員たちに白い粉をぶっかけられている。 あぁ、口蹄疫なんて出たら関所みたいに厳重になって、何度も何度もあちこちで愛車にぶっかけられますね…「ははは」って乾いた笑いしか出ないけど。これば…
[良い点] 遣って来ました神聖王国ムーンヘポリア。 月の塔の存在からファンタジー要素が強いのかと思いきや、入国審査が厳格でしたか。 商売をしても売り上げの二割が出国税にとられるとは……結構な重税ですね…
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