王宮からの呼び出し
次の日の朝。
何とか一晩乗り切った。
寒くて震える。
足もガクガクするけれど、それでも何とか乗り切れた。
使用人が暖炉に火を入れた。
寒さは和らいでいるはずだけど、それでも冷え切った体は暖まってくれなかった。
起きてきたユインラム様が、わたしに冷笑を浴びせる。
公爵閣下は……わたしを見ようともしなかった。
何も言ってもらえない中、目の前で朝食を食べ始める。
『私がいいと言うまでそこで立っていろ』
公爵閣下は、そう言っていた。
どうして気付かなかったんだろう。
今まで立たせられていた時は、いつも次の日は学園に行かなければいけなかったから、朝には解放された。
でも、昨日卒業パーティーが終わった学園は、長期休暇に入った。
だから、学園は休みだ。
わたしに、視線を向けようともしない公爵閣下を見る。
いつ、いいと言ってもらえるんだろう。
たった一晩で、もうフラフラなのに。
今日一日だって、立っていられるかどうか分からない。
(――駄目だ、弱気になっちゃ)
母の姿を思い出す。
母のために、いつまでだって、立っているしかないのだ。
けれど、運が良かった。
朝食中に、状況が動いたのだ。
「国王からの呼び出しだと?」
「はい、閣下」
公爵閣下に仕える執事長が、手紙を持ってきた。
差し出された手紙を受け取った公爵閣下は、不機嫌そうにしている。
「私とリィカルナの呼び出し。昨日のロドル伯爵家からの婚約破棄の話か。しょうがなかろう」
不機嫌そうな顔から一転。
格下の弱者をどういたぶってやろうか。そう考えていることが丸わかりの表情になる。
「王宮に行く。ソレを着替えさせとけ」
「はっ」
執事長が頭を下げた。
ソレ呼ばわりは、いつものことだ。
立ったままのこの状況から、動けるのは有り難かった。
※ ※ ※
当たり前だけど、朝食は与えられなかった。
昨日の夕食から何も食べていなく、さらに体力が限界まで落ちていて、そこにドレスを着るのに容赦なくコルセットを締められて、頭がフラフラする。目がかすんでいる。
王宮に向かう馬車の中では、一応座らせてもらえた。
椅子ではなくて、公爵閣下の足下だけど。
けれど、それでも体を休められて、少しホッとした。