表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/42

第二話 寒い夜の中

結果から言えば、公爵閣下はあっさりと母に罰を与えないと仰って下さった。

これまでそんな事を言って下さったことがないから、驚いた。


今の母はひどく衰弱しているから、これ以上罰を与えられてしまえば、どうなるか分からない。閣下のお言葉は、有り難かった。


「服を脱げ」


わたしへの罰として言われた言葉が、これだった。


さすがに固まった。

けれど、公爵閣下に嘲るように笑われた。


「何も全部脱げなど言わぬ。貴様の裸を見てどうする。下着姿になれ」

「………………はい」


仮に全部脱げと言われたって、逆らう選択肢なんてない。

言われたとおりに脱げば、ジロジロ見られた。


「顔立ちはいいから、もう少し利用できると思ったのだがな」


「体つきは残念ですからね。あのような小さな胸では、例え伯爵程度の男でも、引っかけるのは出来ないのでしょう」


公爵閣下に、ユインラム様に、嘲笑される。


「折角引き取ってやったというのに、役に立たぬ娘だ」


わたしは、唇を引き締めてうつむく。


「申し訳、ございません」


謝罪した。


別に望んで引き取られたわけじゃない。

その言葉は、表には出せなかった。


「リィカルナ、私がいいと言うまでそこで立っていろ。その間は食事も抜きだ。良いな」

「……寛大な処分、ありがとうございます」


わたしは頭を下げた。


寛大なのは事実だ。

一晩通して立たせられるのは初めてじゃないし、今まではそれと同時に母への罰も行われていたのだから。



※ ※ ※



なぜ、服を脱げと言われたのか。

その理由は、すぐに分かった。


「寒い……………」


両手で体をさする。

今は、春も近づいているとはいっても、まだ冬だ。夜は冷え込む。


昼間は暖炉が付いているけれど、夜は消される。

ここで働いている使用人たちは、わたしが立ったままであろうとお構いなしに、暖炉を消して、明かりも消す。


暗くなった室内は、あっという間に冷えた。


脱いだ服は、とっくに回収されている。

わたしは、下着姿でこの寒さを乗り切らなくてはいけないのだ。



「姉様…………」


耳に届いた声に、一瞬寒さも忘れて、口元が綻んだ。

弟のクリフォードだ。


「どうしたの、クリフ」

「姉様、あの、毛布です。使って下さい」


暗いからボンヤリとしか見えないけれど、クリフが何か大きな物を差し出しているようだ。

たぶん、毛布なんだろう。


本音を言えば、欲しい。

毛布を被れば、この寒さもかなり楽になるはずだ。

けれど、手を伸ばすわけにはいかなかった。


「……ありがとう、クリフ。でも、わたしは罰を受けている最中だから。毛布を使うわけにはいかないの」


「でも、姉様は何も悪くないじゃないですか! それにこんな寒いのに、そんな格好で……!」


良い子だな、と思う。

クリフがいたから、まだここでの生活もマシだった。


公爵閣下は、長男であるユインラム様が産まれた後、娘が欲しかったらしい。政略結婚に使える娘を欲した。

けれど、なかなか次ができず、やっと産まれた子は男だった。


そのせいか、公爵閣下は次男であるクリフには興味を示さなかった。


自分に自信がなくてオドオドしているけれど、それでも良い子に育ったのは、公爵閣下の影響を受けなかったからだと思っている。


正妻に娘が産まれず、外で手を付けた女性がいたことを思い出して調べてみたら、娘が産まれていたことを知った。


それで、わたしは、公爵閣下に引き取られることになったのだ。

わたしが、父親のことを知ったのは、まさに引き取られるその時だ。


公爵閣下は、冷徹な目をしていた。


『貴様には、私の役に立ってもらう。それ以外に貴様に存在価値はない。貴様が私の役に立たぬ何かをしたときには、貴様の母が代わりに罰をうける。いいな』


言われて思ったのは、「いいわけがない」だった。

けれど、それを口にすることもできなかった。


母と引き離され、母は閉じ込められた。

ほとんど事情を理解できないまま、一人取り残された。


次に母を見たのは、罰だと言ってムチを打たれて悲鳴を上げている姿だ。

この人たちの言う事を聞かなければ、母がひどい目に合うんだと、思い知らされた。


それからは必死だった。

必死になって、公爵閣下やユインラム様の命令に従い、その意に沿うように動いた。


でも、上手くいかない。

何回罰を受けたか、なんて覚えていない。


わたしのせいで、ひどく衰弱してしまった母が心配だった。

だから、これからの罰は、全部わたしが受ける。


吐く息が白い。

寒さが増してくる。


でも、母を思えば、こんな寒さは平気だった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ