表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/42

通じる気持ち

アレクシス殿下の、色々な顔を見た。

どこにいくにも、殿下が一緒にいた。

殿下が側にいるのが、当たり前になった。


殿下に甘えるのが癖になっていたわたしだ。

そうなると、ますます殿下から離れ難くなる。


(でも、わたしでいいのかな)


この頃には、認めていた。

わたしは、殿下が好きだ。

殿下の側に、ずっといたい。


でも、殿下は、王子様だ。

対するわたしは、侯爵家の娘ではあっても、罪を犯して降格された家の娘だ。

他に殿下に相応しいご令嬢は、たくさんいるのに。


「どうした、リィカ?」


一緒にお茶をしていた殿下に声を掛けられて、コップを持つ手が一瞬震える。

動揺を押し隠して、笑顔を浮かべる。


「い、いえ、なんでもありません」


殿下が不思議そうな顔を見せた。

けれど、何を思ったのか、手招きしてきた。


「こっちにこい、リィカ」

「……………?」


椅子から立ち上がって、向かいに座る殿下に近づく。

――と、腕を引っ張られて、気付けばわたしは殿下の膝の上に座っていた。


「で……! で、で……でででで……」

「殿下と言ったら、罰としてキスするからな」


動揺して言葉が出てこなかったのは、正解だったらしい。

……なんて事が、頭の隅に浮かんだけれど、動揺が収まらない。


「アレク、様。一体、何を……!」

「リィカ、最近元気ないな。どうした、母親に会いたいか? 会いたいなら、口実作って連れてってやるぞ」


殿下の腕の中から抜け出そうともがいていた動きを、止めた。

優しくて、涙が零れそうになる。


でも、今はそうじゃない。

黙って首を横に振る。


「違うのか。じゃあ、何だ?」

「……………………」


言えるはずがない。

悩みは、殿下のことだ。


黙ってうつむいたら、殿下の腕の力が増した。


「リィカ。言わなきゃずっとこのままだぞ」

「………………」


再び無言を返す。

さっきの無言とは種類が違うけど。


――ずっと、このまま?


いやでも、先に疲れるのは殿下の方だろう。

わたしを膝の上に乗っけているだけでも大変だろうし、腕だって疲れてくるはずだ。

無言を貫けば、先に音を上げるのは殿下のはず。


そのはずだ。そのはずなのに、そう思えない。わたしの方が先に音を上げるような気しかしない。


「リィカ?」


耳元で名前を呼ばれて、体が跳ねた。

吐息が、くすぐったい。


「…………………うー……」


唸って。でも結局、わたしは口を開いた。


「で……アレク様は……なんで婚約者を作らなかったんですか?」

「婚約者になる予定の女性は、今俺の腕の中にいるが」


ボッと顔が赤くなる。

わたしの可愛くない聞き方もいけないのだろうが、そういうことを聞きたいんじゃない。


「そうじゃ、なくて。今までに、いいと思うご令嬢は、いなかったのですか?」


王族だから、恋愛感情だけで婚約を決められないだろうけれど。

それでも、全く話も何もなかったのか、どうしても気になった。


「いなかったな。兄上に早々に婚約者ができてしまったから、俺の方に令嬢が集まることも多かったが……。こう言うとご令嬢方に失礼なんだろうが、皆そろって派手なドレスを着て、豪華な宝石付けて、化粧していると、誰が誰か区別がつかない」


思わず笑った。

確かに失礼と言えば失礼だ。皆、真剣に着飾っているんだから。

その方向性が、殿下にとっては逆効果だった、と知らされれば、何だかおかしい。


わたしも、パーティーなんかに参加するときは、これでもかと着飾られた。

似合ってるのか合ってないのかは分からなかったけれど、とにかくベネット公爵家に相応しい高価な物を、身に付けさせられていた。


「だから、女性に見惚れるなんて、リィカが初めてだった」


続けられた殿下の言葉に、体を固くした。


「リィカがいい。リィカに一目惚れして、ずっとリィカを見てきた。ますます好きになった。今じゃ、リィカ以外、考えられない」


……どうして、殿下はいつも、わたしが欲しい言葉を言ってくれるんだろうか。


「アレク様、腕、離して下さい」


頼んだら、あっさり離してくれた。

さっきまでは絶対離さない、って様子だったのに。

わたしの心でも、読めるんだろうか。


殿下の向かい側に立つ。

少し緊張したけど、口を開けば、なめらかに言葉が出た。


「わたしも、アレク様が好きです。わたしみたいな罪人じゃなくて、もっとアレク様に相応しいご令嬢がいる、って思うのに。申し訳ありません、アレク様のこと、好きなんです」


「なんで謝るんだよ」


腕を引かれて、抱き締められた。

わたしが、他のどこよりも、安心できる場所だ。


「嬉しいよ、リィカ。謝るな。お前がいいんだから」


殿下の腕が少し緩む。

一瞬不安になったけど、殿下の右手が、わたしの顎を捕らえた。

顔を上げさせられる。


「もう取り消しは効かないからな。――リィカ、俺と婚約してくれ」

「はい、アレク様」


躊躇いがなかった、と言えば、嘘になるかもしれない。

でも、断るなんて、考えられなかった。

言われた瞬間、どうしようもなく、幸せだったんだから。


涙が落ちる。

殿下は、そんなわたしを優しい目で見て、その手でそっと涙を拭ってくれた。


殿下の近づいてくる顔に、わたしは、そっと目を閉じたのだった。



次回が最終話となります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ