冒険者
それからも、アレクシス殿下は、わたしを王宮から連れ出すようになった。
わたしは、王家の監視下にいなければいけない立場だ。
こんなに出かけていいんだろうか、と思うけど、殿下曰く「王子の俺が一緒にいるんだから問題ない」という事らしい。
でも、さすがにこれはダメじゃないのか、という事態に、今遭遇している。
「秘密だぞ」と言われて、連れてこられたお城の一画。
何やら殿下がいじったと思ったら、壁が開いて通路が現れた。
「行くぞ」
「……………………」
何も言えないわたしの手を引っ張って、殿下はズンズン先に進んでいく。
後ろで扉の閉まる音が聞こえて、我に返った。
「で……じゃなくて、アレク様! これって隠し通路ですよね!? わたしなんかに、こんな通路の存在教えて、いいんですか!?」
「あまり良くない。だから、秘密な」
茶目っ気たっぷりの殿下だけど、そんなふざけていい内容じゃない。
色々ツッコむ言葉は浮かんだけれど、衝撃で言葉が何も出てこなかった。
――そして、通路を抜けた先は、城の外だった。
うん。絶対これ、知っちゃダメな奴だ。
これはきっと夢だ。わたしは、普通に城の門を通ってきたのだ。
わたしは何も見てない。何も知らない。
そう必死に自分に言い聞かせていたから、いつの間にか貴族街を抜けて、一般街に来ていることに気付かなかった。
「リィカ、到着したぞ」
声をかけられて、初めて気付く。
目の前にある建物の看板を見て、呆然とした。
「冒険者ギルド……?」
なんでこんな所に?
なんの用があるんだろうか。
冒険者ギルドには、冒険者と呼ばれる人たちが登録されている。
冒険者は、簡単に言えば、出された依頼を受けて金銭を得て、生計を立てている人たちの事だ。
ギルドは、何かを依頼したい人と、依頼を受ける冒険者の仲介所のような場所、と言えば、いいだろうか。
ここに来た、ということは、何か、依頼したい事でもあるんだろうか?
「アレク…………と、リィカもいんのか」
「連れてきたんですね。こんにちは、リィカ」
考え込んでいたわたしの耳に、聞き覚えのある声がした。
振り向けば、そこにいたのは学園のクラスメイト、バルムート様とユーリッヒ様だ。
「……………………………」
まばたきを繰り返す。
見間違いだろうか?
二人とも、間違ってもこんな所にいる人たちじゃない。
だが、何回まばたきしても、その二人にしか見えない。
「リィカ、どうした?」
「……アレク、もしかして、リィカに何も説明しないで連れてきたんですか?」
バルムート様らしき声と、ユーリッヒ様らしき声が、また聞こえる。
……幻聴だろうか?
「……驚かそうと思ったんだが……失敗だったか。悪かった、リィカ」
アレクシス殿下に頭を下げられた。
まだ、わたしはまばたきを繰り返している。
「あそこにいるの、間違いなくバルとユーリだから」
困ったように殿下が笑って、説明してくれた。
何でも、殿下たちは、冒険者資格の取れる十二の頃から、一緒にパーティーを組んで冒険者稼業をしているらしい。
気分転換と実力向上のため、らしいけれど、気分転換でやっていいものなのだろうか。
「少し前から話はしていたんだ。剣士の俺とバルが前衛。ユーリが後衛でいるが、もう一人後衛が加わったら、パーティーとしてバランスいいよなって」
そうすると、必然的にユーリッヒ様と並んで魔法の実技で一位を取った、わたしの名前が出てくる。
だから、連れてこられそうなら連れてくる、という話をしていたらしい。
「………………………」
何というか、言葉が出てこない。
思い出すのは、学園でのお三方の、身分を超えた仲の良さだ。
冒険者を一緒にやってるのなら、あの仲の良さも理由が分かる。
そして、今までに何度も、殿下の姿が時々王宮から消えることがあったこと。
そういうときは、夜まで姿が見えない。
心配になって国王陛下とか王太子殿下に聞いたけれど、度々あることだから気にしなくていい、と言われたのだけど。
まさか、冒険者をしてたなんて、完全に想像の外だった。
「リィカ、説明もせず連れてきて悪かった。今日だけでもいいから、一緒にやってみないか?」
殿下に手を差し出される。
バルムート様もユーリッヒ様も笑顔だ。
――もう、ここまで来ちゃったしね。
そんな気持ちで、わたしはその手を取ったのだった。
※ ※ ※
結果として、それ以降もわたしは殿下方と一緒に、冒険者稼業を勤しむことになった。
魔物と戦っている時の殿下は、強い。分かっていた事だけど、目の前で見せられると、それを実感として感じる。
そして…………格好いいな、と思ってしまったのは、内緒だ。
街中を散策することもある。
その時の殿下は、やんちゃな男の子だ。
王宮や学園にいるときの殿下も、そこまで王子様、という雰囲気ではないけれど、街にいると本当にそこらにいる市井の男の子と変わらない。
無邪気な笑いに、心臓がドキッとなった。




