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学園生活⑤

「あ、あの……、本気で署名を集めようとしていたわけではなくて……」

「分かってるさ。君はそこまで無責任ではないからね」


王太子殿下に遮られる。

レーナニア様と同じように、ふんわりと笑った。


「自分でどうにかしようという君の姿勢は悪くない。私たちもできるだけ側にいるつもりだけど、どうしても出来ないこともあるからね」


でもね、と続ける。

とても優しい笑みだ。


「私たちに頼っていい、ということも覚えておいて。一人で頑張る必要はないんだ。ずっとそうしてきた君には難しいかもしれないけど、私たちは無条件で手を貸すよ。それを忘れないで」


どうして、こんなにも優しいんだろうか。

手を差し伸べてくれるんだろうか。


今まで、ほとんど接点はなかった。

公爵閣下から、王族には近づくなと言われていたから、可能な限り避けていた。


万が一にも気に入られて、カツラの下の髪を、栗色の髪を知られては困る。だから、わたしが交流していたのは、公爵閣下が権力で黙らせる事ができる相手だけだった。


「今のお前は、ベネット公爵に従うしか出来なかったリィカルナじゃないんだ。お前は、リィカだろう?」

「アレクシス殿下……」


母以外で、最初にわたしをリィカと呼んでくれた人。

その人が手を伸ばして、わたしの頬に触れてきた。


「お前たちを見て、普通に仲が良いと思い込んでいた俺たちが言えることじゃないが……。いや、そう思い込んで見抜けなかったからこそ、せめて今、力になりたい。俺たちを、俺をどうか受け入れてくれ」


頬に触れた手が頭の後ろに回されて、抱き締められる。


すごく、ホッとする。

この手が、わたしを公爵閣下の元から連れ出してくれた。

泣きじゃくるわたしを、黙って受け入れて慰めてくれた。


申し訳ないと思いながらも、毎日会いに来てくれる事が、嬉しかった。待ち遠しかった。

こうして抱き締められていると、頑張らなくて良いのだと、甘えていいのだと、そう思ってしまう。


だから、わたしは、腕に力を入れた。

アレクシス殿下から離れる。


「……リィカ?」

「ありがとうございます、殿下。元気が出ました。お気遣い、感謝致します。おかげでまた、頑張れそうです」


精一杯、笑顔を浮かべる。

大丈夫だと、問題ないのだと、伝えたかった。

けれど、アレクシス殿下は苦しそうにする。


「……リィカ、俺はそんな出来た人間じゃないぞ。慰めるのも、会いにいっていたのも、みんな下心があってのことだ」

「……下心?」


そんな感じを受けたことはなかった。

いつも、わたしのことを気にかけてくれていたと思う。

でもその裏に、何か意図があったのだとしたら。


「それは何でしょうか? 何でも仰って下さい。どんな裏があっても、アレクシス殿下がわたしを気遣ってくれていたことに変わりありません。殿下のために、わたしに出来ることがあるなら、やりたいのです」


「……何でお前は気付かないかな。俺の周囲には、何も言ってないのにどんどん気付かれるのに」


「気付く……ですか……?」


首を傾げた。

何のことだろうか。


「つまり、こういうことだ」


アレクシス殿下が、赤い顔をして笑う。

その顔が、わたしの顔に近づく。


唇に、何か柔らかいものが当たった。


それが何なのか考えが及ばず、呆然としたわたしに、アレクシス殿下の声が聞こえた。


「お前のことが好きなんだ、リィカ」

「……………」


ただただ、唖然とアレクシス殿下を見返すことしか出来なかった。


その言葉の意味を理解して、キスされたことにも気付いて、顔が真っ赤になるのは、もう少し先。



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