プロローグ-3 婚約破棄
本日、プロローグ三話を更新します。
こちらは3話目です。
まだの方は、1話目からお読み下さい。
一年、我慢に我慢を重ねた限界が、訪れた。
「知るか。自分で持ってこい」
言い放って、制服で目を拭う。
痛みはあるが、何とか目を開けられた。
リィカルナが、驚いた顔をしている。
あまりお目にかかれない顔だ。
――まだそういう顔の方が可愛いかな、と思う。
俺に対しては、キツい顔で命令してくるばかりだから、なかなか他の表情を拝むことがない。
リィカルナは、正直言って可愛いと思う。
顔立ちが可愛いのが一番だが、ストロベリーブロンドの髪も見事だ。
貴族の中にあっても、なかなか見ることのできない珍しい髪色だ。長く伸ばして、緩やかに波打っている。
リィカルナとの婚約を強要されたせいで、好きな女性との間に決まりかけていた婚約話は無くなった。
けれど、その後のリィカルナとの初顔合わせで、正直思った。
「こんな可愛い子とだったら、仲良くしたい」と。
薄情という無かれ。男なんてこんなものだ。
その気持ちも、数分程度で消え失せたが。
「何だと? 貴様、誰にむかって、どんな口をきいている!!」
怒鳴ってきたのはユインラムだ。
下の地位の者を人とも思っていない、人でなしのベネット公爵一家だが、家族間の仲はいい。
今も一緒にいるように、学園の登下校も一緒、昼食を食べるのも一緒だった。
もう少し妹に向ける優しさを向けて欲しい、と思ったこともある。
「もういい。お前らで勝手にやれよ。俺はもう知らない」
これまでの鬱憤を晴らすように、俺は宣言した。
「資金援助なんかいらない。だから、婚約も必要ない。リィカルナ、あんたとの婚約は、破棄する」
言い放ったら、思いの外気持ち良かった。
※ ※ ※
どこか強張った顔をしているリィカルナを見る。
さすがに婚約破棄を言われたことはショックだったのか。そんな顔は初めて見た。
「貴様! 何を言っているのか、分かっているのか!!」
ユインラムが怒鳴った。
リィカルナは、何も言わない。顔が強張ったままだ。
「もちろんです。ロドル伯爵家は、ベネット公爵家との婚約を破棄します」
少し悩んだが、伯爵家の名前で宣言した。
父には呆れられるだろうが、怒られはしないだろう。
ユインラムの形相が、怒りに染まっていく。
身分が下の、見下している相手から言われれば、それも当然か。
「貴様!!!」
「静まれ!」
ユインラムの叫び声がさらに大きく響いた瞬間、別の声が重なった。
気付けば、この国の第二王子、アレクシス殿下が、俺たちの近くに来ていた。
ちなみに、俺やリィカルナの同学年で、俺はクラスさえ一緒だった。
俺がベネット兄妹に振り回されているのを、よく影から助けてくれていた。
王族とは思えないほど気さくな人物だが、今の彼は「王子」の顔をしていた。
「国王陛下の御前で何をしている。そして、ここは卒業を祝うための場だ。諍いの場ではない」
もっともだ。
言い返す言葉もない。
「ベネット公爵家のユインラム、リィカルナ。ロドル伯爵家のカルビン。三名ともこの場から退場を命じる。いいな」
上座にいる国王陛下も、厳しい顔でこちらを見ていた。
俺は陛下に頭を下げる。
「申し訳ありませんでした」
心から謝罪する。
ユインラムにもリィカルナにも、視線を向ける事無く、パーティー会場から去ったのだった。
ここまでがプロローグになります。
次回から、主人公リィカルナ視点の一人称で、話が始まります。