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リィカの実力

公爵閣下が、兵士に捕らえられて、床に引き倒される。


「リィカ、大丈夫なのか!?」


アレクシス殿下に聞かれて、わたしは頷いた。

どこも何も問題ない。


「……だが、どうして」


アレクシス殿下が何を言いたいのか、すぐに分かった。


魔法は、まず詠唱をしてから魔法名を唱える事で発動する。

熟練すれば、詠唱を破棄して魔法名だけで発動させることも可能だとは言われているけれど、ひどく難しく、それができる人は少ない。


でも、今わたしはそれをやった。


学園で最下位を独占していたわたしが、詠唱破棄での魔法発動をやってのけたのだ。

疑問にもなるだろう。


「魔法を習い始めて、そうたたないうちに出来るようになっていました。学園では、わざと魔法を使えない振りをしていたんです」


学園でのわたしの魔法は、何回も詠唱して、やっと発動したかと思えば的に届かず、地面に落ちて消える、という感じだった。


実際の所は、そういう発動のさせ方をするのに大変な苦労があったわけだけど、それは別にいい。



わたしは、公爵閣下とユインラム様に目を向けた。


これがきっと最後だから。

恨み辛み、というわけじゃないけど、最後の最後、言っておきたかった。


「公爵家で、家庭教師から魔法を習わせて頂いた事は感謝しています」


最初に告げたのは、感謝だ。


公爵家の令嬢として、恥ずかしくない程度に身に付けろと家庭教師をつけられた。

魔法だけではなくて、それ以外も。


もちろん出来が悪ければ、罰を受けた。

けれど、それまで読み書きすらできなかったわたしは、新しい世界が開けたような、そんな感動を覚えたのも確かだったのだ。


「覚えておいでですか? ユインラム様と魔法の打ち合いをしたときに、わたしが勝ってしまったんですよね」


感動して、頑張って、その結果は最悪だった。


わたしには、多分魔法の才能があったんだろうと思う。

習い始めてそう経たないうちに、わたしはあっという間にユインラム様に追いつき、そして追い越してしまったのだ。


あの時のことは、思い返すだけでも辛い。


「平民がどんな卑怯な手を使ったのだと怒られましたよね。わたしは水攻めの拷問をされて、母は鞭を打たれて、さらに一週間ほど食事を抜かれました」


顔を見せるなと言われて、部屋に監禁された。

外から鍵を掛けられた。


誰もわたしの所に来る人はいなくて、母がどうなったかを知ることもできず、ただ不安と空腹と戦った。


だというのに、監禁されて一週間後、部屋から出てこないで何をしている、と怒られた。

食事抜きを命じていたことすら、覚えていなかった。


パーティーがあるのだからさっさと準備しろ、と言われて、そのパーティーで一週間ぶりの食事にありつけた。

パーティーに出されていた食事は、一週間何も食べていない身には辛かった。


わたしが食事をしても、公爵閣下やユインラム様が何も言わなかったことで、食事抜きの命令が解除された、と使用人たちも判断したんだろう。

母に食事を出す、という会話を漏れ聞いたときは、無事でいてくれたことに安心した。


わたしが鞭を打たれなかったのは、いずれ政略結婚に使う予定だったからだろう。

体に、鞭の痕を残すわけにはいかなかった。ただそれだけだ。


公爵閣下とユインラム様は、それでも何も思い出せないらしい。

何のことだと不快そうな表情に構わず、話を続けた。


「だから、何もできない振りをしました。勉強も魔法も……剣は元々出来ませんけど、ユインラム様より上の成績を取ってしまわないように」


ある意味、実力通りの結果なのは、剣だけだ。

筆記試験ではもう少し点数を取れるし、魔法なら上位に食い込める自信がある。


成績が悪いと、それはそれで「出来損ない」「恥さらしだ」と言われるけれど、公爵閣下もユインラム様も機嫌はいいから、罰はそんなに重くない。


でも、もしユインラム様を上回ってしまったら。

そう考えるだけで怖かった。


「最初は、ギリギリ下くらいの成績にしようと思っていたんですけど、ユインラム様の成績がどんどん落ちてくるものですから、苦労しました。最終的には、ほとんど点を取らないようにしたほうが早い、と思うようになりました」


「貴様! この俺を愚弄するのか!」


愚弄も何も事実だ。

ユインラム様の成績は悪くなる一方だった。

だから、わたしは最底辺の成績に甘んじた。


「別に恨んではいません。手を抜いていることがバレないようにするにも、実力がなきゃ出来ないと分かりましたから。おかげで、沢山のことを学びました」


魔法の発動も大変だったけど、筆記試験だって大変だ。

全部を空欄にすればいいわけじゃない。


答えられなきゃおかしいって問題もあるし、不審がられないようにちょっと勘違いしたような回答を書いてみたり、となかなかに大変だった。


「色々学ばせて頂きましたが、もう十分です。ありがとうございました」


最後に、大きく頭を下げた。


「どうか、公爵閣下もユインラム様も、ご壮健でありますように。もう二度と、お目にかかることがないよう、祈っております」


顔を上げて、二人を見る。

これで話は終わるつもりだったけど、自然と言葉が口から出てきた。


「仕返しなどするつもりはありませんので、どうかご安心下さい。あなたたちには、その価値もありませんから」


言ってみたいけど、多分言えないな、と思っていた言葉だ。それが、スルッと口から出てきて驚いてしまった。


でも、公爵閣下とユインラム様の屈辱的な表情は、わたしの気持ちをすっきりさせたのだった。



※ ※ ※



ちなみに、公爵閣下は再び拘束されて、牢に戻された。

謁見の間で、兵士の武器を奪い取り、人に剣を向けたのだ。

その相手がわたしであっても、謁見の間でのその行為は、反逆罪に等しいものだったのだ。


今後一生を牢で過ごすことになるだろう、とアレクシス殿下から伺った。

それに対して、わたしは「ふーん」としか思えなかったけど。



ついでについでに、軍の訓練が厳しくなったのだとか。


剣を奪った公爵閣下が悪いんだけど、簡単に奪われてしまった事も問題だった。


わたしに怪我も何もなかったからいいけれど、そうじゃなかったら大事だった、というのがその理由らしい。


わたしのせいでごめんなさい、と訓練している方角に向かって頭を下げた。





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