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それぞれの処罰

「さて、皆も驚いただろう。リィカルナの髪だ」


国王陛下の最初の一言に、あ、と思う。

今までは、貴族っぽい髪色のカツラを被っていたけれど、今はいくら髪は短くても、栗色の、平民の髪色だ。


「リィカルナは、ベネット公爵の子ではあるが、その妻の子ではない。平民の子だ。その事実は、これまで隠されてきた」


基本的にこの国は一夫一妻制だ。結婚して二年、子供が出来なかったときに限り、側室を取る事ができるようになる。


けれど、わたしみたいに、余所の女性に手を付けて子供ができてしまう、という事例も少なくないらしい。

そういう場合には、きちんとその届け出をすればいいだけなのだけど、公爵閣下は、それをしていなかった。


「届け出をしていなかった。それ自体も問題だが、とりあえず今は置いておこう」


陛下の声は苦々しい。

貴族の筆頭である公爵家が、従うべき決まりに従っていなかったのだ。

本来であれば、その事自体も追求したいのだろう。


「問題は、母親を人質として取られ、指示命令に従うことを強制されていたリィカルナが、ベネット公爵の指示無しに、今回のような事件を企むことなど出来るはずもない、ということだ」


わたしの母の保護は、クリフの求めに応じて陛下が動いて下さったおかげだ。


けれど、別に陛下もただ同情したわけではなく、事情を明らかにするために、それが必要だと判断されたのだろう。

わたしの話だけではなく、母からも色々話を聞いて確認をしていたようだった。


「ベネット家当主が何も知らぬ可能性は、ないに等しい。リィカルナの行動の裏には、ベネット家当主の指示がある。指示なしには動けなかったようだからな」


公爵閣下は押さえ込まれたまま、うめき声を上げた。


「さて、そこまで明らかになった上で、処罰を言い渡そう。猿ぐつわはその後取ってやる」


チラッと公爵閣下に視線を向けた上で、国王陛下は仰った。


「まず、ベネット家当主ディックには、その座を降りてもらう。今後、表舞台に立つことは許さぬ。さらに、ベネット家の位を、公爵から侯爵へ一段階下げ、それに伴い、領地も一部没収させてもらう」


あらら、というのが、わたしの感想だ。

完全に他人事なのは、勘弁して欲しい。


「ユインラムが当主の座を継ぐことは認めよう。ただし、今回の事件で、ロドル伯爵家が借金として支払った金額を、ロドル伯爵家に支払うように」


今度はユインラム様が、抗議するように唸りだした。

伯爵家の財政を傾けたほどの金額だ。いくら公爵家でも簡単に支払える金額じゃない。しかも、その先に格下げがあるから、今後の財政は悪くなる一方だ。


「本来であれば、ロドル伯爵家への慰謝料の支払いも要求すべき所だが、そもそも証書を作らないことを了承した伯爵も悪いからな。慰謝料はなしだ。よいな、ロドル伯爵」


「は。承知いたしました」


ロドル伯爵と、カルビン様も陛下に向かって頭を下げた。

そして、国王陛下の視線が、わたしに向けられた。


「リィカルナ、お前の望みは聞いている。元の平民として暮らしたい、ということだが、その望みは叶えてやれぬ。目の届かぬ所に行かせることはできない」


「はい」


ここまでの話を聞いていれば分かる。

貴族位の剥奪は、それこそ死刑の次に重い罰だ。公爵閣下でさえ、その罪にならなかったのだ。いくらわたしが望んだとしても、その罪が与えられることはないだろう。


「お主は王宮預かりとする。成人までは王家の監視の下で暮らしてもらう。態度しだいだが、成人になり次第、その監視を解くこともあるだろう」


わたしは、了承の意を込めて、頭を下げた。


王宮預かり。

つまり、少なくとも成人するまでは王宮で暮らす、と言うことだ。監視付きだし、自由はないだろう。


でも、嬉しかった。

それは、ベネット邸に、ユインラム様の元に戻らなくていい、ということだ。それだけで、気持ちが楽になる。


「もう一つ。今後はベネット公爵に付けられた名ではなく、本来の名、リィカを名乗るが良い」

「…………………!」


驚いて、不敬とは思いつつも、国王陛下を凝視してしまった。

どこか優しい目で頷かれて、涙腺が崩壊する。


アレクシス殿下も、カルビン様も、兵士さんたちもリィカと呼んでくれた。それでも、公式的にわたしの名前は『リィカルナ』だった。

陛下からの言葉で、わたしは公に『リィカ』だと認められたのだ。


こんな場所で、今処罰を受けているのに、泣いたらダメだと思っても、零れだした涙は止まらない。


「……はい、はい。ありがとう、ございます……」


震える声で、何とかお礼を伝えるだけで精一杯だった。


「最後、クリフォードには特に何もない。リィカとその母親の窮地を伝えてくれた事に感謝する。望むなら、お主も王宮で過ごす事を許そう。どうする?」


聞かれたクリフは、頭を上げた。

ずっとクリフも王宮にいたから、このままいればいい、と思ったのだけど、クリフの返事は予想外だった。


「いえ、ベネット邸に戻ります」

「えっ!?」


思わず、声をあげてしまった。


クリフは、わたしを見た。

ずっと、オドオドしていた。自己評価が低く、いつも公爵閣下やユインラム様の顔色を窺っていた。


それなのに、今のクリフは、すごく堂々としている。


「僕も、今のままじゃ駄目だと思いましたから。変わるために、家に戻ります」

「良かろう」


陛下が頷いた。


「そなたの、姉への面会は許す。会いたくなれば、王宮へ来るが良い」

「ありがとうございます!」


喜色満面の笑みで、陛下にお礼を伝える。

せっかく堂々として格好良かったのに、微妙に台無しだった。



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