牢から出て
〔 Side リィカ 〕
牢に入れられてから二週間。
わたしは、外に出ていた。
国王陛下直々に処分が下されるらしく、謁見の間へと向かっている。
腕の拘束くらいされるかと思ったけれど、何もなかった。
周囲を兵士さんに囲まれているだけ。
この二週間、牢番をやっていた兵士さんたちばかりだ。寒くないか、お腹は空いてないか、体調は大丈夫か、など色々気遣ってくれた方たちだ。
余談だけど、この二週間、連日のようにアレクシス殿下が会いに来て下さった。
気に掛けてくれるのは嬉しかったけど、殿下も忙しいだろうに申し訳なかったと思う。
そう言ったら、殿下は一瞬言葉に詰まった顔をされた。
「俺が来たいから来ているだけだから。気にするな」
地下牢から出て貴族牢に移ってからずっと、アレクシス殿下には甘え通しだ。
何かお礼をしたいと思うのだけど、なぜか殿下が赤くなって黙ってしまうので、結局何も聞けずじまいだ。
※ ※ ※
「ええい、離せ! 離さんか! 私はベネット公爵だぞ!」
「大人しくしろ!」
謁見の間に近くなったら、そんな声がして、わたしは思わず立ち止まってしまった。
久しぶりに聞いた、公爵閣下の声だ。
(どうしよう、怖い)
公爵閣下と離れてからの日々は、本当に穏やかだった。
何も飾らず、自然体で過ごせた。
自分らしい自分でいられたのだ。
たった二週間だというのに、それにすっかり馴染んでしまった。
否応なしに、今まで公爵閣下に言いつけられてきた事、されてきた罰。そういったものが頭を巡って、まるで金縛りにあったように体が動かなくなる。
「リィカ様、大丈夫です」
「そうです。オレらがお守りしますから」
周囲の兵士さんたちが、声をかけてくれる。
ずっと気遣ってくれていた方たちの言葉が、動かない体に染み渡る。
一度、深呼吸をする。
「――はい、お願いします」
精一杯、笑顔を浮かべる。顔を上げて答えて、そしてまた歩き出した。
近づいていけば、公爵閣下の姿が見えた。
怒鳴り散らしているけれど……、わたしと違って腕を縄で拘束されている。
「暴れたんでしょう。素直に従わない場合は拘束していい、との許可がありましたから」
兵士さんの言葉に、そうだったんだ、と思う。
わたしが何もされなかったのは、素直に従ったからだったのか。
「なっ!? リィカルナ!!」
気付いた公爵閣下に名前を、貴族として付けられた名前を呼ばれる。
もう違和感しかない名前だった。
黙って一礼したけれど、さらに怒号が飛んできた。
「貴様、その頭はどうした!」
「……あ」
言われて、頭に手をやる。
カツラはすでに処分されている。
髪が伸びるまでは付けているか、とアレクシス殿下に聞かれたけれど、わたしは首を横に振った。
せっかく、リィカ、と元の名前で呼んで頂けるようになったのだ。自然のままでいたかった。
「決して外すな、と言い置いていたはずだ! 指示に従え!」
ツカツカとわたしに歩いてこようとした公爵閣下を、周囲にいた兵士さんたちが押さえ込む。
「勝手に動くな、ディック・フォン・ベネット。そして、黙れ。これ以上騒ぐなら、猿ぐつわを噛ませるぞ」
言ったのは、わたしに付いてくれている兵士さんたちより、一回り以上は年上の兵士さんだ。
公爵閣下に、全く怯むことなく言い放っている。
「兵士ごときが私を呼び捨てにするのか! 私は公爵であるのだぞ!」
「……………」
年嵩の兵士さんは、無言で顎をしゃくる。
すると、他の兵士さんが動いて、本当に公爵閣下に猿ぐつわを噛ませてしまった。
「うー、ううー、うううーー!!」
公爵閣下は何か呻いているけど、兵士さんたちは誰もそれを気にしなかった。
ただ、勝手に動かないように押さえているだけだ。
「うわぁ、大変そう」
「オレら、リィカ様の担当で本当に良かったッス」
「貴様らも私語を慎め」
「――ぅひゃっ、こえぇ!」
多分、その年嵩の兵士さんは上司なんだろう。
わたしの周囲にいる兵士さんたちは、おどけたように肩をすくめる。でも、ウインクなんかを飛ばしてくるんだから、ずいぶんと余裕だ。
謁見の間の扉の前に行くと、名前を呼ばれて、扉が開かれた。
ついてきてくれた兵士さんたちは、ここまでだ。
「ご武運を」
そんな言葉で、送り出してくれた。




