カルビンとの対話③
「辛い一年でした。父が、必ず借金した本人たちを見つけ出すから、と言っていたので、それまで我慢だと耐えていました」
カルビン様が語った。
わたしの知らない、カルビン様のとっての一年。
騙された、と分かった時点で、そこに公爵閣下が関わっているだろう事は予想したらしい。
三名とも公爵閣下の関係者だし、困窮したのを見計らったかのように支援を申し出てきた。
これで、無関係だと思う方がおかしい。
だから、徹底的に公爵閣下の周辺を探った。
もっと時間が掛かることも予想していたのに、一年で国王陛下に上奏できるまで証拠を集められた。
そして、今の状況を作り上げた。
「やっと終わった。解放された。ざまぁみろ、ですかね。お二方が地下牢に入れられたときに思ったのは。ユインラム様に何もないことが不満でしたが」
カルビン様が思い出すように笑っている。
「でも、クリフォード様の話を聞いて、まさかと思って。あなたの姿を見て、感じていた疑問を、違和感を思い出して。ざまぁと思ったことを後悔しました」
カルビン様が、一歩、前に出た。
「リィカルナ様。俺に気に病むなと言うのなら、あなたも気に病む必要はありません。あなたたちが地下牢に入ったその時点で、俺の仕返しは終わりました。――でも、どうしてもと言うのなら」
さらに一歩、前に出てくる。
わたしたちの間には、牢の柵があるけれど、その柵の間から、手を差し入れてくる。
「リィカ、と呼ばせて下さい。婚約者とかそういうんじゃなく、あなたと友人になりたい。爵位が下の男に、対等だと呼び捨てにされる屈辱を味わって下さい」
わたしの手を取って、柵の間から出す。
パーティーの時に男性が女性にするように、手の甲にキスをした。
一体何が屈辱なんだろう。
名前を呼ばれて、こんなに嬉しい事なんてないのに。
おどけたように言われた後半の言葉に、涙が溢れる。
許されるのが怖い、なんて思っていた気持ちが、流れていく。
手を取られている反対の手で、目元を拭う。
拭っても拭っても、溢れる涙が止まらない。
諦めて零れるままにしていたら、カルビン様が手を離した。
「な、なんで、泣いてるんですか?」
ギョッとしたように言われて、少し笑った。
泣きながら、自然と笑顔になる。
「嬉しいんです。すいません。嬉しくて……止まらない……」
「……ああ、もう、本当に。勘弁して下さいよ」
困ったように言ったと思ったら、もう一度カルビン様の手が柵から中に入ってきた。
頭に手を置かれて撫でられた。
カツラのない、頭。栗色の、短い髪。わたしの髪は必要ないと、常に短く刈り込まれていた髪。
「そんなに泣き虫だとは思いませんでした。一つ忠告しておきますが、あまり男の前で泣かない方がいいですよ。引っかかる男が増えるだけです」
「………………………?」
涙が引っ込んだ。最後の言葉に首を傾げる。
「あー、無自覚か。……もう沢山引っかけてるみたいだし、手遅れかな。頑張って下さいね、アレクシス殿下」
なぜここで殿下の名前が出てくるんだろう?
意味が分からない事ばかりだった。




