カルビンとの対話②
カルビン様の、こんな穏やかな笑みは初めて見るかもしれない。
虚を衝かれて、言葉が出なかった。
「今から思えば、ユインラム様といた時のあなたは、不自然だった。――自分の不幸ばかり嘆いていなければ良かった。ユインラム様以外で、一番近くにいたのは俺なんだから」
何も言わないわたしに、カルビン様の表情は沈鬱になっていた。
「申し訳ありません。あなたは俺以上に苦しんでいたのに、何も気付けなかった。気付いていれば、もっと早く、あなたを辛い日々から解放させてあげられたかもしれないのに」
「――待って下さい、カルビン様。そんなことは……」
息を呑んだ。
慌てて否定しようとしたけれど、カルビン様は首を横に振った。
「違和感がありながら、疑問に感じながら、それらをすべて気のせいだと流しておりました」
カルビン様がわたしと会うときは、必ず公爵閣下やユインラム様が一緒にいたこと。
学園でも、いくらでも傲慢に振る舞って、取り巻きを作って、我が儘し放題できたのに、そんな様子がなかった事。
むしろ一人でいることが多く、ユインラム様と一緒じゃないと、行動らしい行動をしていなかった事。
「疑問を、違和感を、そのままにしなければ、きっと、もっと早く、あなたをベネット公爵から助けることができたんです。申し訳ありませんでした」
わたしが謝罪しなければならないはずが、逆にカルビン様に謝罪されて、どうしていいか分からない。
カルビン様が責任を感じることなど、何もないのに。
「ありがとうございます。そう言っていただけて、嬉しいです」
考えて、選んだ言葉は、感謝の言葉だ。
「誰かに助けを求めるなんて、思いつきすらしませんでした。確かにその方法もあったんですね」
仄かに笑った。
クリフが国王陛下に助けを求めたら、ここまで状況が劇的に変わったのだ。
カルビン様は、アレクシス殿下と同じクラスだったんだから、話を殿下に通すなんて簡単だったはずだ。
わたしが助けを求めていれば、もっと早くに、手が差し伸べられていたのかもしれなかった。
でも、そんな事ができるなんて、思いもしなかった。
わたしは、母のためにがんばると決めたのだ。
辛い日々の中で、その気持ちだけがわたしを支えた。
自分の言動が、カルビン様にどれだけ大変な思いをさせているかを知っていながら、わたしはわたしの願いのためだけに動いたのだ。
「公爵閣下との事は、わたしの問題です。カルビン様が気に病む必要はありません。今こうして、アレクシス殿下や兵士の方々、カルビン様も、みんなが気遣ってくれる。それで十分なくらいに幸せなんです」
母が無事だった。
会わせてもらえた。
皆が、わたしのために、心を砕いてくれている。
「わたしにどんな事情があっても、わたしのせいでカルビン様が大変な思いをされた事に変わりはありません。本当に、何でも言って頂いていいんです。何か、ございませんか?」
わたしも辛かったのだから、とただ許されてしまうことが怖い。
わたしは、他人を不幸にしても、自分の我が儘を貫き通す事を選んだ。
その報いは、受けたかった。
「――本当に、何もないんですよ」
だから、カルビン様の言葉は、ある意味残酷な言葉だと思った。




