プロローグ-2 ロドル伯爵家
本日、プロローグ三話を更新します。
こちらは2話目になります。
前話を読んでいない方は、そちらからお読み下さい。
〔 Side カルビン 〕
「資金援助なんかいらない。だから、婚約も必要ない。リィカルナ、あんたとの婚約は、破棄する」
国立アルカライズ学園の卒業パーティーの場にて。
俺は、目の前にいる二人、ユインラムとリィカルナの兄妹に向けて、宣言した。
※ ※ ※
俺の名前は、カルビン・フォン・ロドル。ロドル伯爵家の長男であり、嫡男だ。
今日は、学園の卒業式であり、今は卒業パーティーだ。国立の学園らしく、上座には国王陛下が座しているが、卒業生も在校生も無礼講で楽しんでいる。
本来であれば、在校生の俺もパーティーを一緒に楽しめるはずだが、俺にはそれが許されていなかった。
原因が、俺の目の前のテーブルにいる二人の兄妹にある。
兄のユインラム・フォン・ベネット。そして妹のリィカルナ・フォン・ベネット。
ベネット公爵家の令息令嬢だ。
妹のリィカルナは、俺の婚約者でもある。
しかし、その実態は婚約者ではなく、体の良い奴隷だ。
「何をしている、カルビン。ワインがなくなったぞ」
「食べ物もないわ。ボーッと突っ立ってないで、動いて」
彼らが休んでいるとき、俺が休む事は許されない。
学園での昼食時なんかもそうだったが、彼らのために動かなければならないからだ。
俺の、ロドル伯爵家は困窮している。
その資金援助をベネット公爵家から受けているのだ。
資金援助と引き換えの、俺とリィカルナとの婚約だから、それで貸し借りゼロであるはずだが、金を握られているというのは辛い。
援助を止めると言われれば、困るのはロドル伯爵家だった。
他にどうすることもできず、彼らの指示・命令に従わざるを得なかった。
こうやって学園生活を過ごした一年間は、辛かった。
正直、学園に通うことを後悔しているくらいだ。
指示されたものを持ってきて、テーブルに並べて、俺はまたその脇に立つ。
俺自身は何も口にできていないが、二人がそれを気にする様子はない。
ベネット公爵は、下の地位の者を人とも思っていないような人間だが、その子供であるこの二人も、父親そっくりの考えの持ち主だ。
俺の伯爵という地位も、「その程度」でしかないのだろう。
――バシャッ!
突然、顔に何かをかけられた。
甘い匂いがする。
目が染みて、開けていられない。
「貴様! これはジュースだぞ! ワインを持ってこいと言ったはずだ!」
「申し訳ありません、お兄様。カルビン、何をやっているの!?」
目は見えないが、怒り狂ったユインラムと、どこか慌てたようなリィカルナの声は、残念ながら聞こえてしまう。
ああ、そうか、と納得する。
何せやる気がないせいで、ジュースとワインを間違えて持ってきてしまったということか。
だからといって、顔にかけなくても良いだろうに。
タオルくらい、もらえないかと思ったけれど、残念ながら婚約者も婚約者の兄も、そんなに優しくなかった。
「カルビン、何を突っ立ってるの。さっさとワインを持ってきなさい!」
こっちは目を開けていられないというのに、容赦ないリィカルナの命令が耳に飛び込んできた。
――もう、いいかな。
プチッと切れる、というのはこういうことを言うんだろうか、と他人事のように考えた。