取り調べ
ロドル伯爵家の借金騒動についての取り調べも、もちろんあった。
全部素直に答えたけれど、知っている事はそう多くない。
ただ、いきなり街中に連れて行かれて、目の前にいる手足を縛られた三人を殺せ、と言われただけだ。
言うだけ言って、公爵閣下は帰っていった。
その場には他に誰もおらず、事情を知ったのは、その三人から聞いたからだ。
なんで公爵閣下が、そんなことを企んだのか。
その理由は、明白だった。
ベネット公爵領とロドル伯爵領は隣り合っている。
ロドル伯爵領は、広さはそこまででもないけれど、豊かな土地で、農作物もよく採れる。
以前から、公爵閣下はロドル伯爵領を手に入れたがっていた。
そのための、わたしと、次期伯爵となるカルビン様の婚約だ。婚約、そして結婚を足がかりに乗っ取りを企んでいた。
最初は、正攻法で婚約を申し込んだけれど、伯爵閣下に断られたのだ。
よく断ったなぁ、と思うけど。
だから、強引な手に打って出た。そして、資金援助と引き換えの婚約を、伯爵閣下に了承させたのだ。
「殺せという命令に、従わない選択をしたのは、なぜ?」
取り調べの兵士さんに、地下牢で公爵閣下としたやり取りについて聞かれたのは、意外でも何でも無かった。
やっぱり、報告がされていたんだな、というだけだ。
母を守ろうと思えば、公爵閣下の命令に従うしかなかった。
それなのに、わたしが従わないことを選んだのには、理由がある。
「公爵閣下を、陥れられるのではないかと思ったんです」
やっていることは、明らかに悪事。違反事項だ。
これが明るみに出れば、公爵閣下だって無事ではいられない。
今の状況が続けば、母がいつどうなるか分からない。このまま、公爵閣下に押さえつけられた一生を送るのは嫌だった。
失敗すれば、母もわたしもただじゃ済まない。それでも、賭けた。公爵閣下を陥れる事ができるかもしれないチャンスに、賭けたのだ。
それができた理由の一つが、縄で縛られた三名の他に、いるのがわたしだけだった事。
公爵閣下が帰っていっても、見えないところに見張りがいる可能性は、もちろんあった。
だから、待った。もし見張り役がいたら、しびれを切らして動くだろう長い時間を、動かず待った。
それでも何も動きがなかった。
誰もいないと確信して、わたしは三人の縄を切ったのだ。
騙されたロドル伯爵家が黙っているとは思えない。
だから、もしロドル伯爵家の捜査の手が伸びたなら、その時には素直に白状するように。それがあなたたちを殺さない条件だと。
ただの口約束だった。
でも、彼らはその約束を守ってくれた。
そして、わたしは賭けに勝った。公爵閣下を陥れる事に成功したのだ。
という話をしたら、取り調べの兵士さんは何とも複雑な顔をした。
側にいたアレクシス殿下が、困惑げに言った。
「確かにベネット公爵を陥れたんだろうが、その罠にお前自身も掛かっているじゃないか」
「別に何も問題ありません」
わたしは、少し笑って答える。
仮にも公爵閣下をどうにかしようというのだ。自分自身が罠から逃げることを、考えてなんかいられなかった。
「母に無事でいて欲しい。わたしは牢の中でも構わない。公爵閣下から逃れることさえできれば、とそう思っていました」
誤算はあった。
というか、計画とも言えない、ずさんな思いつきでしかなかったから、当たり前だけど。
ユインラム様は、逮捕されずに屋敷に残った事。
公爵閣下と一緒の地下牢に入れられたこと。
でも、最終的には上手くいった。
母は保護されて、わたしは公爵閣下から離れられただけではなく、本来の自分の名前で呼んでもらえるようになったのだ。
母に関しては、クリフのおかげでもある。
「罪に対する罰は受けます。こんな事を言っていいのか分かりませんが、できれば貴族位を剥奪して欲しいです。母と二人、また平民として暮らしたいです」
それが、わたしの願いだ。
けれど、アレクシス殿下の表情が、なぜか曇って見えたのが気になった。




