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解放

俺は、牢まで降りてきた。

カルビンも一緒にいる。


「アレクシス殿下、俺も一緒に行かせて下さい」


そう言ったカルビンは、どんな心境なのだろう。

リィカルナの婚約者として、その実ほとんど使用人のような立場でこき使われていたカルビンだ。


クリフォードとミラー団長の話は、ほとんど話す機会のなかった俺でさえ、かなりの衝撃だった。

衝撃の大きさで言えば、カルビンの方が余程大きいだろう。


牢にたどり着いて見たリィカルナの姿に、息を呑んだ。

ミラー団長が言ったままの姿。


女の子を下着姿にさせるな、という感想もなくもないが、それよりもその顔色の白さに目が行く。「これはまずい」という感想しか出てこない。


「お、おお! アレクシス殿下!」


俺が牢の前に立つと、ベネット公爵が阿るような声を出して、ドタドタと近づいてきた。

確かに、囚人服と毛布二枚を被って、体に丸めている。


その囚人服は、間違いなくリィカルナからひったくったものだろう。毛布だって、一枚はリィカルナのものだ。

こいつの顔色は、すこぶる良いのが、腹が立つ。


「殿下、ここから出して下さい。私は、あの女に嵌められたのです。私は何もしておりません。これは冤罪です。きちんと説明いたしますので……」


「何が冤罪だ? お前がリィカルナに、三人を殺せと指示をしたんだろう?」


「何のことでしょう?」


心底不思議な表情で惚けられた。腹は立つが、俺のやるべきことは、こいつの罪を暴くことじゃない。


「牢を開けろ」


指示を出せば、牢番と、ベネット公爵の顔が明るくなった。

牢番がホッとした顔で牢の鍵を開ける。


「さすが殿下。よく分かってらっしゃる」


ベネット公爵が出ようとするが、それを俺が押しとどめた。


「誰が、お前に出て良いと言った? 出るのはリィカルナだ」

「…………………は……?」


ベネット公爵としては、よほどの予想外の言葉だったらしい。

こちらから言わせれば、何が予想外なのかが分からないが。


「リィカルナ。こっちへ来い。出ろ」


牢の外から声を掛けるが、まるでこちらを見る様子がない。


聞こえていないのか。

ベネット公爵に言われた、立っていろ、との指示を守ることしか、意識にないのか。


俺は、牢番の兵たちを見る。

心得た兵たちが牢屋の入り口に立ち、それを確認して俺は中に入った。


兵たちに立ってもらったのは、ベネット公爵が逃げ出さないようにするためだ。

そして、俺はリィカルナの前に立つ。


「リィカルナ、動けるか?」


さすがに、目の前に立って声を掛けたら、反応があった。

顔が動き、視線が俺を捉える。

だが、その目はボンヤリしている。


下着姿の女性に触れるのはためらったが、そんな場合でもないだろう。


脇の下に手を入れて、持ち上げようとしたが、その肌の冷たさに動揺した。

温かみが全くない、氷のような肌。


動揺を隠し、抱え上げると、「ぇ」と小さくつぶやく声が聞こえる。

そのまま牢屋の外に出る。毛布を受け取り、リィカルナの体をグルグル巻きにして、今度は横抱きに抱えた。


「…………え……?」


またも、リィカルナがつぶやいた。


「なっ!? どういうことだ!? アレクシス殿下、なぜソレだけ出すんですか!?」


目の前で牢の扉を閉められたベネット公爵が叫ぶ。

自分の娘を、ソレ、ときたか。


いよいよ本当に、これまで自分が見てきたものが、表面上のものでしかなかったのだと思わせられた。


「行くぞ」


それだけ言って、リィカルナを抱えて歩き出す。

後方から、なおもベネット公爵の叫ぶ声が聞こえた。


――と思ったら、リィカルナの頭が、ガクッと崩れ落ちた。


「おい……!?」


咄嗟に叫んでしまったが、理由などすぐ分かった。


「寝たのか」


あるいは、気を失った、というべきか。

丸一日以上食事を抜かれ、二晩続けて立たされて休む事も出来なければ、それも当然だろう。


首が下に下がったままでは、苦しいだろう。

姿勢を直してやろうと思って、リィカルナの顔を、いや頭を見て、思わず目を疑った。


見事なストロベリーブロンドの髪。その髪が、ずれている。


「は……?」


いや、髪がズレるってなんだ。おかしいだろう。

そう思ったら、今度は間違えようもなく、その髪が下に落ちた。


出てきたのは、短く刈り込まれた栗色の髪だった。


下に落ちた髪を、カルビンが拾う。


「カツラ……だったんですね」


リィカルナの頭を見ながら、ポツリとカルビンがつぶやいた。


「貴族はほとんどが金髪だから……。栗色のこの髪の色は、平民に多いですものね。母親に似たんですね、きっと」


ポツポツと、感情をのせずにカルビンが言葉を紡ぐ。

だが、ふいにその顔が歪んだ。


「なんで……。ただの傲慢で我が儘なお嬢様だったら、嫌いなままでいられたのに。ざまぁみろって思えたのに。なんで、今になって、こんなこと、知らされるんですか……」


それに答えられる言葉は、俺はもっていなかった。

何も言えず、俺は黙って足を進めた。



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