興味
ベネット公爵とリィカルナを一緒の牢に入れたのは、二人の会話を確認するためだ。
権力ばかり持っているが、それ故に何か自分が失言しても権力で押しつぶしてきた輩だ。
一緒にいれば、何かしらの失言があるかもしれない。
それを期待して一緒に入れたら、笑えるくらい直後に、その効果が出たわけだ。
ベネット公爵がリィカルナに三名の殺害を命じていたこと。
その命令にリィカルナが従わなかったらしい事。
ベネット公爵がリィカルナに暴力を振るっていた、という報告と共に、二人の会話も、当然ながら報告があった。
けれど、どうしようもない高慢な一族ではあっても、ベネット公爵家の仲は良い。
他に癇癪を向ける相手がいなければ、仲の良い娘にそれが向かうのか。そのうち収まるだろう。
報告を受けたとき、父の指示は「放っておけ」だった。
「朝王城に着いた途端、牢番の奴らに詰め寄られましたよ。実際を見てみろと。どこが仲がいいんだと。放っておいたら死んでしまう、と言われて、牢屋まで見に行きました」
「行ってきたのか」
「行きますよ。自分の目で見るのが一番早い。――で、そこで見たのは、毛布二枚と誰かが脱いだらしい囚人服に丸まって寝ているベネット公爵。まったく血の気のない真っ白な顔で、下着姿で立っているリィカルナです」
「そんなっ……!?」
クリフォードの悲鳴のような声が響いた。
しかし、イメージが違いすぎて、まったく理解が追いつかない。
ミラー団長は話を続けた。
「牢に入ってから食事は全部ベネット公爵が食べて、リィカルナは一口も食べてないらしいですよ」
驚きに息を呑んだが、話はそれで終わらなかった。
立っていろと言われて、文句を言わずに立っていた。
寒いからお前の服を寄越せと言われて、素直に脱いだ。
ベネット公爵の言う事に、ただ黙って従っていたらしい。
夜、顔色がどんどん悪くなるリィカルナを見かねた牢番が、放っておけず、命令破りと言われても、毛布を差し出そうとしたらしい。
だが、立っているだけで精一杯のリィカルナは、まるで反応を示さなかったそうだ。
「リィカルナを見ましたが、あれは本当にヤバいです。体を温めてやらないと、本当にどうなるか分かりません」
視線を向けられた父は、少し考えたようだった。
俺も、ここまで来てようやく、言葉が浸透してきた。
「ふむ……、アレクシス」
「はい」
名前を呼ばれて返事をする。
普段は、アレクと愛称で呼ばれることがほとんどだが、国王として父が俺に何かを言うときは、しっかり本名で呼ばれる。
「リィカルナを貴族用の牢に移せ。火を入れて、部屋を暖めておけ。ベネット公爵は、そのままで良い」
「承知しました」
俺は一礼する。
例え罪人であっても、牢で命を落としていいはずがない。
きっと、父であればそう言うと思っていた。
しかも、話を聞いた限り、リィカルナが本当に罪を犯したのか、そこから判断のし直しが必要になる。
「アークバルト、ミラー団長。そして、クリフォード」
「はい」
「はい」
「……は、はい!」
兄上とミラー団長は静かに返事をしたが、クリフォードは名前を呼ばれると思っていなかったのか、一拍遅れてかなりうわずった声で返事をした。
「兵を率いて、ベネット公爵邸に乗り込め。リィカルナの母親を保護しろ。兵数はミラー団長に任せる。クリフォードは案内しろ。できるな?」
「――はい、できます! ありがとうございます!」
クリフォードの顔が、明るくなった。
ベネット公爵を、ユインラムを裏切る行動だろうに、何の躊躇いもない。
本当に、リィカルナやその母親を心配しているんだろう。
俺は、これまでリィカルナと接触を持ったことはほとんどない。
わざわざ近づきたい相手でもなかった。
けれど、少し興味を持った。本当のリィカルナは、一体どんな娘なのだろうか。
次回で、リィカルナ編最後の話と繋がります。
亀展開で申し訳ありません。




