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第92話 チェラグニュール山脈5

「コケ?コケコッココケ?」


「後を追うのはもう無理だしやめておいたほうが良い。あのレベルがいるとはね。流石にこの研究者達全員を守りながら戦うのは無理だ。」


 正直メスティはあの男がいなくなってくれてホッとしている。あの男のレベルはこの国の騎士団の隊長レベルだ。まともに戦っても勝率は五分五分と言ったところだろう。


 本当に戦うのであればもう少し場を整えて、準備をしてから戦いたいところだ。この楽しみは先にとっておく。


「それに今回の目的はそこにいる死神くんだ。というかここにいる全員生きたまま連れて帰る。」


 やる気に満ち溢れるメスティ。まさか死神と呼ばれる男を確保しにきたら邪悪な研究をしている研究者を捕えることができる上に、暗殺教育を受けた大勢の子どもたちを手に入れられるのだ。


「ほ〜ら、大丈夫だぞ。怪我させないように気持ちよく寝かしつけてやるから。」


 悪〜い笑みを浮かべるメスティ。すると死神と呼ばれる男は皆の前に歩み出してきた。その光景に他の者達から驚きの眼差しが向けられる。


「…俺のバックアップをしろ……」


「おっと…そいつは厄介だ。でもこの感じ……お前仲間内では実力隠してたな?そんな状態でうまく連携取れるか…」


 メスティが言い終える前にメスティの首元に鎖鎌の刃先が飛んでくる。それを動揺することなく半歩下がり躱すメスティ。


 そんな鎖鎌に合わせて数人の者達がメスティに詰め寄る。これまで実力を隠してきた割には上手く出来ている連携だ。


 その上手く出来ている連携に防戦一報になるメスティ。しかし守り続けていれば急造の連携に綻びが見えてくる。その綻びをついて一人、また一人と気絶させていく。


「やっぱお前強いよなぁ…お前を弱いと言い切るあの男……よほど見る目がないのか、それともあいつの手下にはお前より強い奴らがわんさかいるのか………」


 メスティは不思議でしょうがない。この死神はさっきからメスティが攻勢に出ようとすると背後の研究者を狙い、前に出させないようにする。かといって背後の研究者ばかりを狙うわけでもなく、しっかりとメスティの命を狙っている。


 強者相手の状況分析がしっかりと出来ている。惜しい点といえばこの場から逃げないことだ。現状どんなに頑張ってもメスティに勝てる可能性はゼロに等しい。


 時間が経つにつれ仲間が一人、また一人とやられていく。どう足掻いても勝てるはずがない。だからこそ本来は逃げの一択だ。


 しかし決して逃げようとしない。その理由はあの男にそう命令されたからだろう。命令とあれば結果が分かっていても決して逃げようとしない。


「でも逃げないのは欠点だが、利点でもあるよなぁ。どんな強者が相手でも逃げずに戦う。強くなるのには一番良い方法だ。まあ生きていられたらの話だけど。今まで運が良かったな。」


 メスティはお喋りしながらまた一人気絶させた。これで残りの数は半分だ。もう少しで方が付く。しかしその時、嫌な魔力反応を感じ取った。


「いやいや…この鉱山結構地盤硬いぞ。それをお前…こんな事にまで金を掛けるなよ。」


 メスティが魔力反応を感じ取ってから数秒後、死神も気がついた。地面が揺れているのだ。


「休戦といこう。あの野郎俺たちを生き埋めにする気だ。どこにそんな魔力源があるんだよ。」


「こ、この揺れ…まさか緊急シーケンスが作動されたのか!?や、やめてくれ!」


 研究者達が発狂し始めた。どうやらあらかじめ仕組まれていた緊急装置のようだ。メスティは手頃な研究者を捕まえると往復ビンタで正気を取り戻させる。


「よく聞け。止める方法は?それから助かる方法はあるか?」


「こ、この緊急シーケンスは騎士団達が入り込んできた際に奴らを一掃するシステムで…あ、あらかじめ逃げておかない限り助かる場所はない。騎士団を崩壊させるために徹底的に生き埋めにするシステムで…い、入り口崩壊から1分以内に全ての施設が埋まるように仕組まれている。」


「逃げ場は無しか。こりゃ参ったな。崩壊の音が近づいているからもう移動する時間もないか。おい死神の。全員一箇所に集めろ。仲間を死なせたくないだろ?」


 メスティの言葉に一瞬の迷いもなく、駆け寄る死神。一瞬まだ戦う気なのかと思ったが、その背後には鎖によって繋がれた仲間達の姿がある。


 そしてその場にいる全員が一箇所に固まった瞬間、この部屋も崩壊を始める。この部屋もものの数秒で崩れ落ちる事だろう。


「やれやれ…放出系の魔法は苦手なんだけどな。コカちゃんは何かできる?」


「コケコケ!」


「オッケ。じゃあ俺が頑張んないとね。」


 メスティは全員の中心に立つと膨大な魔力を放出させ、魔力障壁を発生させる。だがメスティの魔導農家の加護はこの手の魔法を苦手とする。今この障壁を発生させているのは単にメスティの才能によるものだ。


 そして研究者の言っていた通り、1分ほどで研究所の崩壊の音は止まった。全てが瓦礫の下に埋まった。ただし、メスティ達を除いて。


「うぐっ……これやばい……コカちゃん…」


「コケーー!!!」


 コカトリスが大きく鳴くとメスティの魔力障壁によって堰き止められていた土砂が結合し、ガッチリと固定された。地龍の影響を強く受けているコカトリスならば造作もない芸当だ。


 それを確認したメスティは魔力障壁を解く。メスティの額には汗が溢れ出ていた。


「や、やばかった…コカちゃんいなかったら流石に無理だったわ。」


「コケ。」


「さて、それじゃあいい加減研究者達を殺そうとする手を止めてくれるか?」


 メスティは手を伸ばし、自身に突き立てられているナイフを掴み取る。この暗殺者達は自分達もこのままでは死ぬというのに最後まであの男に言われた命令をこなそうとしたのだ。


 ただしそれはメスティによって止められた。魔力障壁をこの場にいる研究者達にもかけていたのだ。それがなければ今頃この場の研究者達は皆殺しになっていただろう。


 そんなメスティの言葉など知ったことではないと暗殺者達は何度も何度も研究者達を殺そうとする。それを見たメスティは大きなため息をついて全員を気絶させた。


「全く…どこまで命令に忠実なんだよ。嫌になっちゃうな。…でもお前はおとなしかったな。」


 メスティが目を向ける先には死神と呼ばれる男がいる。死神は何もせずにじっとその場で座っている。この男が研究者達を殺しにかかっていれば流石のメスティでも研究者達を守りきれなかった。


「…一応話しかけたんだから返事してくれると嬉しいんだけど。」


「…………」


「ダメか。」


「コケ。」


「ああ、分かっているよ。まあ返事なくても良いから手伝ってくれよ。そうじゃないと俺たちはあと数分で酸欠で死んじまう。」



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