表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/93

第9話 収穫の時

「随分でかくなったな。」


 あれから数週間が経過した。メスティの魔力を吸って育った苗は随分成長し、木の枝で作った支柱に絡みつきながらメスティの背丈ほどの大きさとなった。しかし未だに可食部となる場所が現れない。


「メスティさん。また蕾ができましたよ。」


「そうか……でもやっぱり蕾ができても花は咲かないんだな。」


 これで蕾の数は何個目だろうか。最初のうちは蕾ができて喜んでいたが、そこから一向に成長しないのを見て何が悪いのかと不安になって来た。そこへアリルが土の入ったバケツを持ってやって来た。


「メスティさん。また試作品ですが…使えそうですか?」


「ああ、良い土だな。向こうの畑に撒いてくれ。そういえば前の肥料で育った作物は実りが良いぞ。」


「ありがとうございます!」


 アリルは嬉しそうに駆けていく。アリルの魔力コントロールはある程度の形になった。機材が揃えば本格的に錬金術の加護の力を発揮できるだろう。ただ今は何もないため、肥料作りだけで練習している。


 錬金術の加護をこんなことに使うのは世界中でここだけだろう。こんな勿体無い使い方は聞いたことがない。早く街に行って機材を揃えてやりたい。


 そしてその日の夜。夕飯も食べ終え、明日に備えて眠る時間となったのだが、メスティは例の苗のそばから離れなかった。


「寝なくて良いんですか?」


「ああ、今日は…つきっきりで見ておくことにした。何が悪いのか知りたいからな。」


「じゃ、じゃあ私も…」


「お前は寝ておけ。俺は明日の日中は寝ておくつもりだ。その間の仕事を頼むな。」


「わ、わかりました…」


 トボトボと帰るアリル。メスティと一晩中一緒に居られると思ったのだろうが、そううまくはいかなかった。そしてメスティ以外の皆は寝静まり、夜は更けていった。


「しかし…本当に何が悪いんだろうな……」


 じっと観察しても何が悪いのかまるでわからない。少し退屈になって来たメスティは魔導の力の訓練をする。


 魔導の力の理解を深めていって最近わかったことだが、魔導の力はそれ単体で使うものではない。魔力にわずかな魔導の力を混ぜることでその力を発揮させるのだ。10の魔力に1の魔導の力を混ぜる。するとその力は100の力となる。メスティはこの力を魔導魔力と呼んだ。


 そして混ぜた状態で体内保持をし続けるのは実に困難。というよりこの状態で保持し続けるべきではないだろう。使うときだけこの魔導魔力を生成するのが正しい。


 そのため最近は体内で魔力と魔導の力が混ざらぬように分離し続ける練習をしている。このおかげで余計な魔力消費が無くなった。それにより食料備蓄も随分と増えたものだ。


「ただこの魔導魔力は手に余るんだよなぁ…普通の魔法使う分には魔力だけで十分だし…時空ムロと身体強化にもほとんど使わない…お前吸うか?」


 メスティは試しに魔導魔力を生成し、苗にくれてやった。すると苗にあげようとしたはずの魔導魔力はどこかへ消えてしまった。


「…あんなのが消えるはずはない。すごい勢いで吸ったのか?……もしかして普段あげていた魔力だけじゃ物足りなかったのか?」


 普段から魔力は与えている。しかし考えてみれば最近は魔導の力を分離する訓練をしていたので魔導魔力はちゃんと与えていなかったかもしれない。試してみる価値はあるかもしれない。


「体内魔力全部注ぐつもりでやってみるか。」


 メスティは体内の魔導の力と魔力全てを練り合わせ、魔導魔力を生成する。そして生成した魔導魔力を苗に与えると苗が光りだした。よく見ればその光は葉脈などに沿って何かの言葉を紡いでいるようだ。


 しかしその言語はなんなのか読み取ることはできない。おそらく錬金術の加護持ちなどがよく使うマジックアイテム作成言語の一種だろう。つまりこの苗は何かの魔法を完成させようとしている。


 メスティはさらに魔導魔力を込める。この苗は一体なんの魔法を生み出そうとしているのか。いくら観察してもそれはわからない。そしてメスティの魔導魔力が残りわずかになった時、目の前が真っ白に変わった。


 それはあの真っ白な何もない空間。そこには一人の女がいる。前と同じだ。いや、よく見れば何かが違う。その女の足元に何かが隠れている。その隠れている何かはこちらをチラチラと見ている。


「誰だ…お前は一体誰なんだ……」


 女はこちらを見て微笑む。そして次の瞬間には朝日に照らされ地面の上で目が覚める自分がいた。まだ思考がぼやけているメスティが体を起こした先には黄色い花を咲かせる苗の姿があった。





「メスティさんメスティさん。収穫はいつ頃でしょうか?」


「う〜〜ん…もう少しな気がする……俺不安だから見ておくわ。他の仕事頼んで良いか?」


「わかりました!だけど先に食べないでくださいよ?」


「わかったわかった。」


 釘を刺されたメスティはその場に座り込む。黄色い花を咲かせた翌日には花は枯れ、花の元に付いていた小さな果実は手のひらほどの大きさまで成長した。収穫は間近のように思うが、それがいつ来るのかわからない。


 しかし実に面白い形をしている。人差し指と親指で作る輪ほどの太さでいて、豆の鞘のように長細い。そして触れれば表面のトゲが指に当たる。食べ物で間違いないのだろうが、このトゲは食べた際に口に刺さらないだろうか。


「お前はどんな味がするんだろうな。早く大きくなれよ。」


 早く大きくならないか待ち遠しい。そしてメスティのそんな思いが通じたのかその果実はすくすくと大きくなり、夕方ごろには朝見た時より明らかに大きくなっていた。


「これは…収穫できそうだな。」


「本当ですか!おいみんな!収穫だってよ!」


 その言葉を待ってましたと言わんばかりに駆け寄る。そして記念すべき一つ目の果実をメスティが収穫する。まだ緑色の状態の果実だが、メスティの直感は今が食べどきだと告げている。


 手に優しく握られている果実。だが優しく握っている理由は果実を大切にしようという思いよりも手にトゲが刺さらないようにという思いの方が強い。そしてメスティが収穫したのを皮切りに他の皆も収穫を始める。


 そして全員に行き渡ったところでメスティが全員に目配せをする。そして最近では食事の前に必ずいう言葉を一斉に口にする。


「「「「「いただきます。」」」」」


 この作物を与えてくださった神に、そして収穫まで頑張った自分たちに、そしてこの作物に感謝する。そして勢いよくかぶりついた皆はパキャリという音を立てながらそれを噛み折った。


 一噛みごとに口の中に水分が広がる。青々しい香りと噛み砕く食感を満喫する。そしてゴクリと飲み込んだ皆は顔をあわせる。


「結構うまいな。」


「まあその…感動するレベルとかじゃないけど。作業中に食べたくなる感じ。」


「水分補給って感じだな。」


「水分がかなり多いから火を通したらどうなるんだろ。…メスティさん?」


「これは…ヤバイ…」


 メスティはその場に座り込む。それに驚く一同だが、メスティは残りの果実も一気に平らげた。その瞬間、メスティの体から魔力が溢れ出る。


「これ…すごい魔力量…大丈夫ですかメスティさん。」


「魔力回復量もすごいのはもちろんだが…魔導の力まで回復…いや増加している。それに…なんだこの感覚は…」


 体内で魔力と魔導の力が混ざり合い何かが生み出されようとしている。自分の体だというのにメスティには何が起きているかわからなかった。だが胸が焼けるように熱くなったことで何が起きているかわかった。


 それは加護の成長。魔紋がより大きくなっているのだ。魔紋の成長にはいくつかの条件がある。魔力量の増大、技量の増大。そして偉業の達成。かつて龍を討伐した加護持ちは両腕まで魔紋が大きく広がったという。


 そしてメスティも今偉業を成し遂げたのだ。神より与えられた試練の種を収穫まで導くという偉業を。そして偉業を成し遂げたメスティは新たな力を手に入れた。


「キュウリの紋章が授けられた。この作物は…キュウリというのか。」


 メスティはキュウリの紋章を手に入れた。



 登録者数も順調に増えているのも10月中ももう少し毎日投稿頑張ります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ